2008年02月19日

白球の視点 第231回

 沖縄・名護の日本ハム・ダルビッシュ投手と石垣島のロッテ・成瀬投手、宮崎・南郷の西武・涌井投手のテレビでの三元インタビュー中継とか、NHK午後7時のニュース番組のスポーツ・ニュースではいつもまっさきに「メジャー・リーグの日本人選手」の動向を伝えることとか、関東地区のスポーツ紙の一面もずっと日本ハムのルーキー・中田翔の動き……公式戦前の“春のプロ野球報道”もずいぶん変わってきたなぁと、あらためて思う。10年前、いや、5年前でも考えられなかった一種の“激変”だといってもいいのではないか。そういう“春の予報”に接しながら、08年という新しいペナントレースは果してどんな展開をみせるのだろうかという、いいようのない“ワクワク感”に包まれている。

 前記の新鋭たちの動向とは別に、西武の渡辺・新監督が、“カブレラなきあとの4番打者がいない”という質問を受けて「なにいってるんだ。ホラ、あそこにちゃんといるじゃないか」と指さした方向に、今季で19年目になる江藤智選手がいた……という話も、大いに気に入った。「山崎(武司・楽天)の例があるじゃないか」。伝え聞いた江藤本人、テレまくったというが、なに、テレることはない。いつ会っても笑顔をたやさず、誠実な受け答えで感心している選手のひとり。95年のセ・リーグのホームラン王。その翌96年のホームラン王が山崎だったのだから、もうひと花咲かせる可能性、大いにありじゃないか。ぐんぐん台頭してくる新鋭と、負けじと頑張るベテランの競い合いが、ずっとプロ球界の発展の元になってきた。“人のいい江藤の笑顔”より、“もう一度、タイトルに挑む江藤の笑顔”を見たい。山崎のホームランが“仙台の楽天”を活気づけたように、江藤のバットが爆発すれば、26年ぶりにBクラスに落ちた西武ライオンズの若い選手にも勇気を与えるだろう。

 あちこちのキャンプ地から、これまであまり名前も聞かなかった“台頭めざましい新鋭”の情報がひっきりなしに入ってくる。ま、それは“スプリング・キャンプ報道の常”といってしまえばそれまでだが、それにしても“レギュラーの位置、とれるかも……”といわれると、いますぐにでも飛んでいって、そのプレーぶりを見たくなってくる。“勢いのある新鋭”というのは、それだけワクワクするものなのだが、いざシーズンに入るといつのまにか一軍公式戦から姿を消してしまっている選手が多いのも、これまでの例だ。

 私が“新鋭台頭”というニュースを聞くとき、いつも思うのは、「ともに競い合い、刺激し合う友はいるか」ということだ。その相手は、誰の目にも“レギュラーの座安泰”というベテランではなく、まだレギュラーではないが、ともに刺激しあってチームの中心の座にのし上がっていこうではないかと燃えている“同年の友”だ。巨人V9時代のONや、広島黄金期の山本浩二-衣笠祥雄クラスになると、もうこれは別格中の別格。私がいつも、“刺激し合ってトップの座をめざした若者”というと思い出すのは、西鉄ライオンズというチームがズタズタに引き裂かれて弱わくなったとき、最下位チームにあって歯をくいしばって投げ続けた東尾修と加藤初両投手のことだ。

 東尾は最多敗戦の4年目、加藤はドラフト外でみずから希望して入団したルーキー。加藤が7ヵ月年上の、ともに22歳。東尾が55試合にも登板、リーグ最多の投球回数で、被安打も自責点もリーグ・ワーストで最多敗戦(25敗)ながらそれまでの自己最高の18勝をあげ、のちの最多勝利投手への道を開けば、加藤も51試合に登板、17勝16敗で新人王を獲得した72年のことだ。のちに東尾本人から抱腹絶倒のエピソードをまじえてくわしく聞いたことだが、グラウンドでの練習はもちろん、私生活も若夫婦同士、いつも一緒で語り合い、お互いに「負けんぞ」と言い合って「加藤の17勝にどれだけ刺激されたか」と“加藤の存在”を持ち上げ、加藤は加藤で東尾との1勝の差を悔しがったという。

 新鋭が仰ぎ見るような大スターとの競争ではない。気心の知れた同年代のライバルとの熾烈な戦かい。それが技の向上を生み、心の鍛錬となってチームに貢献した典型的な例といっていいだろう。

 そういう思いで08年の各球団のキャンプ風景をみると、いました、いました。けっこういるのである。東尾-加藤のような、“仲好しで、しかも猛烈なライバル心をもった友”という意識が薄いだけだ。それが、どんな選手たちか、おいおい明かしていくことになるだろう。

posted by 田村大五 |17:28 | 第221回~第240回 | トラックバック(0)
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