2008年01月15日
白球の視点 第226回
10日、イチローが古巣のオリックスの室内練習場での自主トレーニングを報道陣に公開したときの共同インタビューがことのほか興味深かった。 報道によれば、あと130安打で到達する日米通算3000本安打に関連して「オールスター(7月15日)までにはなんとかやりたい。その先は、日本選手が立ったことがない領域に立ちたい。立つことで達成感を得られたらいい。達成されれば、野球の中での快楽を感じられるだろう」といったという。そして、そのあとの言葉が、すごいというしかないものだった。 いわく、「07シーズンで苦しみから解き放たれたという感触を得た。そこから先は遊びたいと思う。見ている人が“イチロー、遊んでるな”という印象を抱くような、そんな雰囲気でプレーしてみたい」うんぬん。 いやぁ、驚いた。これだけの言葉、プロ野球にかかわって約50年、聞いたことがない。 インタビューに答える言葉からしてタダモノではないことは、日本にいるときからいつも感嘆していたのだが、プロ入り17年目、アメリカに渡って8年目、「遊んでいると見られるようなプレー」とは、果してどんなプレーなのだろうか、今季もBSテレビの画面に見入ることになりそうだ。 オリックスの室内練習場での共同インタビューのときではないが、どこで誰に対して発した言葉だったのかさだかではないが、「長期契約するとモチベーションが下がらないか」という質問に対して「それは失礼な質問だ」と答えたという記事も読んだ。日本球界での長期契約選手の中には、長期契約を結ぶと安心してホッとするせいか、その1シーズン、プレーがゆるみがちになって成績がさがる選手が、ときにいる。質問者も、そんなことが頭にあったのだろう。だが、常に、打つときも守るときも走るときも全力プレーを信条にしているイチローには、そういう質問が耐えがたいものであったようだ。「失礼な質問」という言葉に、“プロとしてそんなことがあるわけがないじゃないか”という自負がうかがえた。 そんな記事を読んで、若き日のイチローの話を思い出した。 きっかけは、読者からの一通の手紙だった。岡山に住んでいる人で、大阪ドームに近鉄-オリックス戦(当時)を観戦にきていた。長びいた試合も終盤に入り、近鉄が大きくリードして終盤、もうイチローに打順がまわってきそうにない。そろそろ帰らないと岡山への終列車に間に合わなくなる。腰をあげかけたところで、イチローが右翼の守備位置に走っていく姿を見て、席に座わり直した。くり返すが近鉄の大量リードの展開だ。とんでもないことが起こりそうな気配もない。近鉄はさらに押した。走者三塁。そこへ右翼へ大飛球。それをイチローは、背中を塀にぶつけてジャンピング・キャッチ。そして、そこからさらにホームへ全力の大返球をみせたのだ。 その読者は、書いてきた。「近鉄の大量リードだから、その1点は別に試合の行方に影響するものではない。しかし、イチローは、そんな場面にも全力で守りのプレーを見せてくれた。私はそのとき終列車に間に合わなくてもいいと思った。そのプレーを見ただけで“野球を見た”という満足感にひたった」。 そのことをコラムに書いた「週刊ベースボール」が発表になった数日後、人づてに「イチローのお父さんが、いいことを書いてくれたと喜んでいた」という伝言があった。ホームランを打った、逆転打を打ったということでなく、そういうプレーを特筆大書してくれたことが嬉しい……と。 その年のオフ、あるパーティでイチローに会ったとき、その話をした。喜んでくれると思いきや、ジッと顔をのぞきこまれて、彼はいった。「プロなんだから当り前じゃないですか」。なんだか、怒っているようにさえ感じられた顔だった。 「苦しみから解き放たれたという感触」とは何だろう。「そこから先は遊びたい」とはどういう意味だろう。 前人未踏の領域に入っていく、この天才児(といういい方を、本人はいやがるだろうが)のプレーひとつひとつが、今シーズンも見逃せない。
posted by 田村大五 |17:27 |
第221回~第240回 |
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イチローの「几帳面さ」に球界の先達を見た 【上田龍公式サイトRyo's Baseball Cafe Americain Annex 「店主日記」】
新年に録画しておいたイチロー出演の「プロフェッショナル 仕事の流儀」スペシャルをやっと観る時間ができた。インタビューの受け答えなどに時折「カチン」とくる部分があるのが、まあイチローらしいのだが(笑)、昔からベースボールの歴史で破天荒な記録を作る選手というのは、奇人・変人」や「偏屈」揃いだ。
2008-01-21 23:29 | 続きを読む






