2007年12月17日

白球の視点 第223回

 それにしても88人とは驚いた。それもクレメンス、ジアンビ、ペティットら大物選手ばかりヤンキースから22人、そのほかのチームからもシェフィールド、ロデューカ、テハダ、ガニエらの大物の名前が次から次へと出てくるとは……驚きのあとは、驚きを越えて、“憧れの大リーグ”の知られざる底なしの暗部が垣間見えたようで暗然とした。ステロイド(筋肉増強剤)、ヒト成長ホルモン(HGH)を使用したり購入したといわれるメジャー・リーグの内情に関する調査報告書「ミッチェル・リポート」は409ページにも及ぶという。

 それでいてなお、このリポートを発表したのは「罰ではなく今後の薬物使用を中止させるため」であり、「20年間に及ぶ“ステロイド時代”に別れるための一歩としたい」からだというから、では、これまで“放置していた間のプレーはなんだったのか”ということになる。このあたりが、どうもわからない。

 親しいメジャー・リーグ通に聞くと、「クスリに関しては、とにかく対応が遅れた。噂が広まるばっかりで、そういう風潮を止めるための具体的な動きがにぶすぎた」そうだ。選手会が、選手個人個人のプライバシーを守らねばならぬと検査導入に反対しつづけたのもその一因だというが、そういうとき「ナショナル・パスタイム」といわれる「ベースボール」を守ろうという声が出なかったのか、こちらが「クスリ」というものに対して強い嫌悪感をもっているせいか、どう考えてもわからない。

 そういう“広い汚ない(あえていう)土壌”の中から日本にやってきた選手も多いから“危ないな”と思っていたが、今度もやっぱり実名が出た。日本で検査したら「陰性」だったというが、アメリカとは違うのだから、もう一度徹底して調べてもらいたいと思う。かつて、来日早々、薬物疑惑に包まれた選手がいてその対応に大わらわになったことがあったが、そのとき私は「週刊ベースボール」誌上(「白球の視点」)で「頑丈な堤防もアリの一穴から崩れる」と即刻アメリカに帰ってもらおうと強力に訴えた。今度の大学ラグビー部員ではないが、組織の中にひとりでも不審な者がいたら、そこで断ち切っておかないととんでもない方向に行きかねない。

 今度の「ミッチェル・リポート」では「検査機関の独立と検査の徹底」を謳っているというが、一方では「ステロイドから、検出がむずかしいというHGHに移行する危険がある」といい、「新たな薬物とのイタチゴッコになるかもしれない」という指摘もあるというから恐ろしい。

 また一方で、これだけの大物選手の名前が公表されたのだから、その大物選手たちがこれまで作ってきた記録をどうするかという論争がにぎやかになっていくだろうという見方もあるようだが、この際、その種のことは“二の次、三の次”でいい。とにかく「徹底的な薬物禁止」に全球界あげて全力で邁進すること、それしかない。

 「ミッチェル・リポート」が発表されたその日、88年前のメジャー・リーグ史上最大のスキャンダル、「ブラックソックス事件」(19年のワールドシリーズでホワイトソックスの選手が八百長行為にかかわったとして永久追放された事件)に関する未公開資料がシカゴ郊外で競売に付され、数千枚もの文書がシカゴの歴史博物館に10万ドル(約1100万円)で売り渡されたというニュースも流れた。なんというタイミング、アメリカという国は、まったく不思議な国だと、ここでも驚き、唖然とした。

 この不愉快な関連ニュースの中で、ハタとわが膝をうったのは、「ウミを出すチャンス」といったイチローの、次のような感想である。

 「野球はパワーだという間違った考えが言い伝えられてきた。パワーさえあればいいという発想が、クスリで体を大きくすればいいという錯覚につながった」(12月16日付け、スポーツ紙各紙から)。“野球は、そういうものではない”とイチローはいいたかったのだろう。強いスイング、適確なミート、そしてスピードをのせた足であり肩であり、それらを総合した“野球力”というもの。パワーだけでは決して“野球力”とはいえないんだというプライド。さすがは、“われらのイチロー”である。

 このイチロー談話を読んだとき、とっさに頭に浮かんだのは、先の台湾での日本チームの、これでもかこれでもかとつないでつないで逆転していった、見ていて胸のすくような攻撃ぶりだった。そう、野球は決してパワーだけではないのだ。それを「スモール・ベースボール」などと形容するから間違ってくる。野球とは、本来、そういうものだということを日本人が見せてやっている。アメリカも日本を見習わなければならない。

posted by 田村大五 |18:39 | 第221回~第240回 | トラックバック(1)
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嘘だと言ってよ、ロケット…… 【上田龍公式サイトRyo's Baseball Cafe Americain Annex  「店主日記」】

バド・スィリーグMLBコミッショナーからの依頼を受けて、メジャーリーグにおける禁止薬物使用実態の調査を20ヶ月にわたって行なってきたジョージ・ミッチェル元連邦議会上院院内総務を委員長とする調査委員会が、報告書を発表し、ステロイドやヒト成長ホルモンなど禁止薬物の使用を行なっていたとされる選手の実名が公表された。

2007-12-19 14:08 | 続きを読む