2004年06月02日

白球の視点 第144回

 ダイエーの杉内俊哉投手が、自分の不甲斐ないピッチングにハラをたて、ベンチの椅子を殴りつけ、両手の小指のつけ根を骨折したというニュースを聞いたときは驚いた。なにかの間違いではないかと思った。右手だけならまだしも、こともあろうになによりの”財産”である利き手の左手で堅い椅子を力いっぱい殴ったというのだから。なによりも体が資本、わけても左腕投手にとって球を握る左手は、なによりの”生命”だ。それを、みずから傷つけるとは”なにかの間違い”と考えたくもなろうというものだ。翌日、関係者に電話で聞いたところによると、杉内の”荒れよう”を見た城島が、杉内が左手をあげたとき「利き手だけはやめろ」と叫んだという。”さすが城島”というところだが、興奮状態に入っていた杉内の耳には、その声は届かなかったようだ。
 
 左腕の血行障害や腰痛などが重なって思うようなピッチングができない苛立ち、自分の不甲斐なさへの自責の念はわからないでもない。それにしてもーーと、一日過ぎたいまも、昨年の、あの小気味いい杉内のピッチングを思い浮かべて呆然としている。
 
 ”連続試合出場の衣笠祥雄選手”は、タクシーに乗るときでも、自動開閉のドアに体の一部でも当りはせぬかと気にしておそるおそるシート座席に着くほど慎重だった。「もし手でもはさまれたらと考えると恐ろしくて」と神経をとがらせていた。”盗塁王・福本豊選手”は、高ぶる神経を鎮めるために深夜の海辺で心が落ち着くまでひとり釣り糸を垂れていた。みんな、そうやって心と体のバランスをとることに努めた。”鉄腕・稲尾和久投手”は、風呂の中でも、お湯の抵抗を利用して”指の強化”を続けたが、それも「指がふやけないように」一定の時間がくると指だけをお湯の上に出すなどして”指”に気を遣った。
 
 グラウンド上のプレーだけでなく、そういう”細部への配慮”からして「プロ」だった。
 
 起きてしまったことは、取り返しがつかない。伝えられる王監督の言葉ではないが、チーム全体がこれを教訓としてプロとしての”体への配慮”につなげていくしかない。杉内投手の一日でも早い回復を祈るばかりだ。

posted by 田村大五 |00:00 | 第141回~第160回 | トラックバック(0)
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