2008年05月15日
矛盾 ゼニトvsレンジャーズ
UEFAカップ決勝、ゼニト・サンクトペテルブルグvsグラスゴー・レンジャーズが、シティー・オブ・マンチェスターで行われた。 レンジャーズが今まで通りの守備戦術を用いて、ゼニトがそれに立ち向かうという戦前に予想された構図が展開された。 しかし72分にデニソフ、ロスタイムにズリアノフが見事なゴールを挙げて、ゼニトが2-0で勝利。ゼニトが欧州カップ戦初戴冠の栄誉を勝ち取った。 ■プレビュー ゼニト: FWパベル・ポグレブニアクが警告累積のため欠場。ルカ・トーニと並んでUEFAカップ得点王は獲得したものの、決勝戦に出られない悔しさの方がやはり大きいようだ。 かつてレンジャーズで指揮を執っていたゼニトのディック・アドフォカート監督は、代表・クラブと様々なところで監督業を務めてきた。印象深いのはEURO2004でオランダ代表を準決勝に導いたことだが、敗退した要因がアドフォカート采配とも言われている。 この試合にかける思いが強いアドフォカート。昨年のロシア・プレミアリーグでゼニトを優勝に導き、クラブの欧州カップ戦初戴冠に挑む。またアドフォカートは英プレミアリーグで指揮を執ることに興味があるようで、このマンチェスター・シティの本拠地での決勝は大きなアピールになるに違いない。 GK ビアチェスラフ・マラフェエフ DF アレクサンドル・アニュコフ イビツァ・クリジャナツ ロマン・シロコフ ラデク・シールル MF コンスタンチン・ズリアノフ アナトリー・ティモシュク(CAP) イーゴリ・デニソフ FW ファティ・テッケ アンドレイ・アルシャフィン ビクトル・ファイズリン レンジャーズ: FCディナモ・モスクワを決勝で破って優勝した36年前のUEFAカップウィナーズカップ以来となる欧州での栄冠を狙う。再びロシア(当時はソビエト連邦だが)勢との対戦とは縁起が良いだろう。 守備的戦術は、ウォルター・スミス監督がDFあがりだからであろうか。 チャンピオンズリーググループリーグで対戦したバルセロナのメッシが「アンチ・フットボールだ」と吐き捨てるように語ったが、UEFAカップに回った後も8試合で得失点が7と手堅い試合をこなしてきた。 準決勝でのフィオレンティーナ戦では、第1試合の90分、そして第2試合の延長を含んだ120分を完封――しかしレンジャーズも点を獲ることなくPK戦で勝利を得た。 極端な守備戦術への批判について「その批判が木曜、金曜と続けばいいんだが」とスミス監督は語り、あくまで結果を重視した戦術を貫くことを示唆していた。 GK ニール・アレクサンダー DF カーク・ブロードフット カルロス・クエジャール デイヴィッド・ウィア サシャ・パパツ MF スティーヴン・ウィテカー バリー・ファ-ガソン(CAP) ブライム・ヘムダニ スティーヴン・デイヴィス ケヴィン・トムソン FW ジャン・クロード・ダルシュヴィル ■矛盾 「矛盾」とは辻褄が合わないことを意味するが、武器をとって戦うことという意味もある。 「韓非子」にある故事成語であり、「どんな盾も突き抜く矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた楚の男が、客に「その矛でその盾を突いたらどうなる」と問われ答えられなかったという話からだ。 決勝トーナメントで合計14得点を挙げてきたゼニトと、8試合で失点が2という堅守を誇ったレンジャーズのぶつかり合い。軍配はどちらに上がるのか。 ■前半 予想通りの展開 観客席にはためく多くのユニオンジャック――まるでレンジャーズのホームのようだ。マンチェスターでの決勝、、地の利を考えればそうなるだろう。 しかしビジャレアル、マルセイユ、レヴァークーゼン、そしてバイエルンを降したゼニトに恐れるものは何もないはずだ。アドフォカート監督は「UEFAカップを獲得するチャンスは今しかない。これまでに見せてきたプレーができれば、どんなチームが相手でも戦える」とチームを鼓舞し、「歴史を作るまで、あと1試合」と意気込む。 キックオフ。戦前の発表ではレンジャーズの予想フォーメーションは4-1-4-1と出てはいたが、予想通りFWダルシュヴィルを残した「1トップ9バック」に近い。 チェス界のチャンピオン、ガルリ・カスパロフを輩出したロシアらしく、ゼニトは一手一手探りながら、盤上の蒼い駒たちをどう攻略するか熟考しながらプレーする。 ゼニトは左サイドのアルシャフィンが、ルークのような縦突破。クロスからの得点を試みるが、ゴール前のレンジャーズの”駒”たちが猛攻を防ぐ。 予想通りとはいえ、消極的な姿勢のレンジャーズがバックパスをする度にブーイング。それはゼニトサポだけか、それとも決勝を観に来た「一応はどちら側でもない観客」も含まれているか。それは歓声だけでは判別がつかないところだ。 前半は特筆すべき攻防が少ない。ゼニトはクロスからヘディングで合わせるも枠を捉えられなかったり、ミドルシュートで局面打開を図るもGK正面だったり。レンジャーズの攻撃も、直接FKをパパツが狙ったが明後日の方向へと飛んでいった。 前半終了間際にゼニトが左からクロスを上げようとした際に、レンジャーズDFの手に当たっていたように見えたがノーホイッスル。エリア内だったため、ハンドであればPKという場面だったが。 ボールポゼッションは、 ゼニト:レンジャーズ=56:41と思ったより差はなかった。 シュート数は、10(4):3(0)とこちらは予想通り(カッコは枠内) ■後半 主審のジャッジスタンダード 53分、レンジャーズが速攻で持ち込んだ。ダルシュヴィルがGKとの1vs1の状況になったが、角度のない難しいポジションでもあったためGKマラフェエフがセーブ。この後のクリアボールがゼニトDFの手に当たっていたように見えたが、ここも主審はノーホイッスル。 今日はスウェーデン人の主審団だった。少々厳しいチャージでも倒れなければ吹かない、しかしシミュレーション気味な倒れ方で吹いたりしていた。歪(いびつ)ではあるが、一定したジャッジではあったように思う。 それを生かしたのはゼニト。後半から、レンジャーズのボールプレイヤーに激しくチャージして体勢を崩させると、それを挟み込んでボールを奪うといったプレーが多く見られた。 逆に恩恵を得られなかったのは、レンジャーズのダルシュヴィル。ゼニトゴールエリア近くでボールを受け、ファウルを受けたことを何度もアピールしたがFKを得られることはほとんどなかった。 ■その時、試合が動き出す 前半に続いてアルシャフィンが左サイドを執拗に突破を試みる。壁にノミを打ち続け、ヒビを入れて決壊させるように。 64分にゼニトが、レンジャーズのCKからカウンターを仕掛けると、GKアレクサンダーの飛び出しを抜き去りアルシャフィンがシュート。無人のゴールに吸い込まれたかと思いきや、DFパパツが戻っておりヘディングでクリアされた。 両監督とも動かない。やはり今までの戦い方から延長戦を気にしているのだろう。このままスコアレスで後半も終わってしまうのか、と思っていた矢先に一気にゲームが動いたのだった。 72分、左サイドのセンターライン付近からのレンジャーズのスローインを強引に奪い取ると、鮮やかなパス交換で一気に攻め上がったゼニト攻撃陣。アルシャフィンのスルーパスに反応したデニソフがゴール右に流し込んだ。1-0、ゼニト先制! こういうカウンターチームが先制点を奪われることは死に等しい。点を奪われては、当然レンジャーズですら前がかりになり、スペースが生まれるからだ。 ゼニトに追加点のチャンスも、ジリアノフのシュートはポストに嫌われる。 ■時よ去れ パパツに代えてノボ、ヘムダニに代えてマクロック、ウィテカに代えてボイドと立て続けに攻撃的な選手を投入するレンジャーズ・スミス監督。しかし流れを変えることはできない。スコティッシュ・プレミアリーグでの連戦疲労もたたってか、どんどん選手の動きのキレが落ちる。交代選手ですらフレッシュさを感じないほどだ。 上半身裸になるゼニト応援団。勝利は目の前だ。ゼニトコールがスタジアムを包む。 ゼニトは自陣に閉じこもることもなく、冷静に時間を使い、かつゴールも狙っていく。全く選手交代を行わず、時間稼ぎに使っても良さそうだったが、アドフォカート監督は変に交代して流れを壊したくなかったのかもしれない。 迎えた90分、右サイドからのスローインを得たレンジャーズ。ロングスローでエリア内に放り込むも、フィニッシュの精度を欠きシュートを大きく上へ外してしまう。 逆にゼニトがオープンスペースへの巧みなパス回しで瞬く間に攻め上がると、レンジャーズゴールへチェックメイト――ズリアノフが決定的な2点目を挙げてそのままホイッスル。 2-0でゼニトがUEFAカップを制した。 ■フィナーレ 興奮のあまりユニフォームを観客席に放り込むゼニトイレブン。セレモニーは大丈夫かと心配していたら、その後に黄金に輝くユニフォームへ着替えて歓喜の輪を作った。 いざ表彰台へ。選手の何人かは子供を連れて肩車。プラティニ会長が、子供の首に表彰メダルをかける姿が何とも微笑ましい。 表彰台のある観客席で、そしてピッチで高々と優勝トロフィーを掲げたゼニトイレブン。世間ではダークホースと見られていただろうが、数々の強豪を下して得たこの結果は紛れも無い本物だ。 8月にはチャンピオンズリーグ勝者とUEFAスーパーカップを戦う。そして昨季のロシア・プレミアリーグを制したので(ロシアは年またぎではない)、チャンピオンズリーグ本選から参戦することとなる。準決勝で破ったバイエルンと対戦することになれば、面白い因縁対決の一つとなるだろう。 そしてEURO2008本大会、ロシア代表に何人のゼニトプレイヤーが出てくるか、こちらも楽しみでもある。残念ながら決勝のピッチに立てなかったUEFAカップ得点王パベル・ポグレブニアクの爆発にも期待したい。
posted by batistuta |05:53 |
UCL・UEFA CUP |
コメント(3) |
トラックバック(0)


