2008年06月10日

Clockwork オランダvsイタリア

  
 EURO2008の第1戦、グループCオランダvsイタリアの試合がスタッド・ドゥ・スイス・ヴァンクドルフにて行われた。
 攻撃のオランダ、カテナチオのイタリア。1点を争うゲームになるかと思われたが、予想を裏切る展開に。
 26分、右45度からのファンデル・ファールトのFKがファーサイドのゴール角を突くとブッフォンが何とかクリア。そのセカンドボールをスネイデルがシュート、ファン・ニステルローイがコースを変えて押し込んで先制。
 31分にはイタリアのCKをクリアしたブロンクホルストがカウンターに参加し、大きく右へサイドチェンジ、カイトの折り返しをスネイデルが右足でニアに決める。
 77分にはピルロの素晴らしいFKをGKファン・デル・サールがストップ、気落ちするイタリアをよそにカウンターを仕掛けるオランダ、カイトのクロスにファン・ブロンクホルストがヘディングで決めて3-0。
 まさかの大量得点差で、オランダが快勝。死のグループCに大きく前進。一方のイタリアはドイツ杯からの「ダブル」に黄信号がともった。


 ■プレビュー
 オランダは、本大会直前にライアン・バベルが負傷。代わりに招集されたのはハリド・ブラルーズ。チェルシーで干され、現所属のセビージャでも出場機会が少ないDFだ。しかもこの試合でスターティングで使ってきた。
 そして多くのメディアでデミ・デ・ゼーウの起用が予想された中盤の底は、196cmの大型MFエンヘラールと、デ・ヨンクのコンビとなった。
 アルイェン・ロッベンはベンチには入ったものの、負傷したらしく出場はなかった。

 GK エドウィン・ファン・デル・サール
 DF ジョヴァンニ・ファン・ブロンクホルスト
    ヨリス・マタイセン
    ハリド・ブラルーズ
    アンドレ・オーイェル
 MF オルランド・エンヘラール
    ナイジェル・デ・ヨンク
    ウェスレイ・スネイデル
    ラファエル・ファン・デル・ファールト
    ディルク・カイト
 FW ルート・ファン・ニステルローイ


 イタリアは、大会直前にファビオ・カンナヴァーロが負傷。松葉杖でベンチに入りチームを鼓舞する。最終ラインは大舞台は初めてのバルツァーリの脇を、ベテランたちがしっかりサポート。中盤はミランのトリオを起用。前線はポストプレーヤーのトーニを、運動量豊富なディ・ナターレとカモラネーシが支える。

 GK ジャンルイージ・ブッフォン
 DF ジャンルーカ・ザンブロッタ
    マルコ・マテラッツィ
    アンドレア・バルツァーリ
    クリスティアン・パヌッチ
 MF ジェンナーロ・ガットゥーゾ
    アンドレア・ピルロ
    マッシモ・アンブロジーニ
 FW アントニオ・ディ・ナターレ
    ルーカ・トーニ
    マウロ・カモラネーシ


 ■2チームの関係、そしてEUROでの戦いぶり
 ロベルト・ドナドーニは86-96シーズン(97-99も)、ファン・バステンは87-95シーズンにミランに在籍。現役時代のミランでの在籍期間を、ほとんど共に過ごした2人。87-91シーズンを率いたアリゴ・サッキの「血」が流れているはずだ。

 「ミランのオランダトリオ」と呼ばれたファン・バステンが現在率いるオランダには、「レアルのオランダトリオ」がいる。ファン・ニステルローイ、スネイデル、ロッベンだ。この試合は残念ながらロッベンは出られなかったが…

 ワールドカップに強いイタリアは4度の優勝、2度の準優勝の成績を残す。しかしEUROでは1968年の優勝、2000年の準優勝。あとはグループリーグ敗退、予選敗退が多い鬼門の大会とも言える。
 全く逆にオランダはワールドカップに弱い。準優勝を2回果たすも、予選敗退が多い。日韓ワールドカップ予選落ちは、誰もが驚きに包まれたことだろう。EUROではファン・バステン監督のスーパーゴールとがあった「記録と記憶の優勝」、その後ベスト4が3回、ベスト8が1回の安定した好成績だ。


 ■前半 息をもつかせぬ展開
 開始直後、競り合いのボールがワンバウンドしてブッフォンの元へ。ファン・ニステルローイが詰めてプレッシャーを与えたが、後ずさりしながらブッフォンがジャンピングキャッチ。
 3分、スナイデルがハーフラインより下がってボールをもらいに行き3人に囲まれたところを、横にすり抜けたファン・ブロンクホルストが入れ替わるように前線へ抜け出す。しかしこれをピルロがスライディングで綺麗にインターセプトして、拾ったカモラネーシが前方へパス。受けたディ・ナターレが中央のトニへ送るも合わず。
 11分には、パヌッチが右サイドをスルスルと上がり、ためてカモラネーシへ。カモランーシは後ろに戻し、ガットゥーゾがアーリークロス。トーニがヘディングで合わせたがゴール右へ外れた。
 17分、下がって受けたスネイデルが中央にしぼってきたカイトへパス。カイトがワントラップしてスルーパスを出すと、マテラッツィの背後を突いたファン・ニステルローイが抜け出した。ワンタッチでブッフォンをかわすも大きく出してしまい、しかもバランスを崩してしまったのでシュートまで持っていけなかった。
 23分、35~40mほどの長距離FKをスネイデルがゴール前に蹴りこむが、ファン・ニステルローイが合わせる手前でマテラッツィがヘディングでゴールラインへ逃れた。

 正に息をもつかせぬ展開。
 トーニやピルロの懐の深さ(当然、度量の意味ではなくボールキープの意味で)にため息がもれ、スネイデルとファン・デル・ファールトのパス精度に腰が浮いてしまう。


 ■Clock works
 そして時が動き出す。

 26分、右45度の位置でFKを得たオランダ。ファン・デル・ファールトが左足でゴール左上隅を狙う絶妙なフリーキック。ブッフォンが飛びついてセービング、この時にパヌッチと交錯してしまう。ルーズボールをマタイセンが拾い、後ろのスネイデルへお膳立て。豪快に左足を振り抜くと、そのコースをファン・ニステルローイが変えてゴールに突き刺した。
 
 時が止まる。

 副審を一斉に見るイタリア。ラインを上げて、ファン・ニステルローイを完全にオフサイドトラップにかけたかに見えた。しかしゴールラインの外でうずくまるパヌッチ、この存在のためにオンサイド、という判定がなされたようだ。
 抗議するトーニにイエローカード。この後に、オランダエリア内でトーニが倒されてもPKを得ることはできない。イタリア国内で議論になるのだろうか。

 まずは追いつきたい。そんなイタリアに早速CKのチャンス。左CKをピルロが、ニアに速いボールを送り込む。クリアボールがファーサイドに入りそうになったが、ライン上で待ち受けていたファン・ブロンクホルストがクリア。このボールをカウンターで一気に持込む。中央でファン・デル・ファールトがためると、左サイドを先ほどクリアしたファン・ブロンクホルストが一気にオーバーラップしてボールをもらう。そして大きく右へサイドチェンジ、カイトがヘディングで折り返すと、スネイデルが右足でブッフォンを破った。
 文句なし――スネイデルが、6/9の自身のバースデーを祝うゴールとなる。


 ■計算外
 焦るイタリア。前半で2点差をつけられるとは予想していなかっただろう。
 32分、パスを細かく回し、最後はカモラネーシからエリア内のディ・ナターレへ。浮き球をボレーで合わせて、ブラルーズの股間を抜く見事なシュートだった。しかしブラルーズがブラインドになっていたにも関わらず、GKファン・デル・サールが弾きながらもキャッチ。
 この後にもディ・ナターレにチャンスが生まれ、ミドルシュートを放っていくが大きくバーの上へ外れた。

 逆に勢いづくオランダは42分、マタイセンが群がるイタリアDFを抜くスルーパス、そしてファン・デル・ファールトもスルーパスと、正に「ダブルスルーパス」で一気に前線へ。ファン・ニステルローイが完全にフリーになりGKブッフォンと1vs1になるが、ここはブッフォンが左に倒れこみながらも足に当てるファインセーブで止めてみせた。


 ■交代も流れを引き寄せられないイタリア 
 ドナドーニ監督は、ファン・ニステルローイに何度も裏を取られているマテラッツィを下げ、ファビオ・グロッソを投入。これにより左からグロッソ、パヌッチ、バルツァーリ、ザンブロッタという並びに変えてSBの上がりを促進する。

 63分に左45度の位置でFKを得たイタリア。ゴール前のイタリアオフェンスはオフサイドポジションからスタート。ラインがオンサイドに下がったところを、ピルロが直接ゴールを狙う。GKファン・デル・サールは反応できない見事なシュートだったが、シュートはわずかに左に逸れた。
 この後もディ・ナターレに代えてセリエA得点王のアレッサンドロ・デル・ピエロ、EURO2004で孤軍奮闘したアントニオ・カッサーノをカモラネーシとチェンジ。デル・ピエロが2度ほどシュートの機会を得るが、決めきることができない。

 オランダは余裕を持ち、怪我明けのロビン・ファン・ペルシーをコンディション調整に使う。ファン・ニステルローイが下がる。

 75分、中盤でカッサーノがためてからロビングボールを前線に送った。ラインギリギリで抜け出したトーニが、GKファン・デル・サールと1vs1の状況に。小さなループシュートを狙ったか、強くなってしまったかはるか上方へ。
 その後もピルロから左前方スペースへ出してグロッソ。切り込んでシュートを放つがセーブされる。チャンピオンズリーグ王者のGKファン・デル・サールの牙城は崩せない。
 イタリアは、絶好のポイントでピルロが文句なしのFKを放つが、PKを止めるかのようにGKファン・デル・サールがセービング。
 「これも決まらないのか…」そう気落ちするかのようなイタリアを置き去りにして、オランダがカウンター。スネイデルのスルーパスに、またもやファン・ブロンクホルストがオーバーラップ。DF3人を引きつけると、右のカイトにパス。カイトのシュートはブッフォンが飛び出してセーブするが、ルーズボールをカイトが拾いクロスを上げる。そのまま詰めていたファン・ブロンクホルストがヘディングシュート。ザンブロッタがスライディングでクリアしようとするが、シュートの勢いは止められずゴールに入ってしまう。
 

 ■勝つ時も美しく
 『勝つときは少々汚くてもいい。だが、負けるときは美しく』 
 オランダのヨハン・クライフの名言である。しかしこの日は正に「美しく勝利」である。

 ファン・バステン監督は3人目の交代で、攻撃のメッセージを送った。カイトout、イブラヒム・アフェライin――
 ゴールキックから一気にイタリアゴールへ迫ると、アフェライがグロッソをかわしシュート。これはクロスバーの上部を叩いてゴールにはならなかった。
 この後にはファン・ペルシーが、バルツァーリとザンブロッタの2人に囲まれながらも強烈なシュートを放っていった。

 3-0、オランダが内容でもアズーリを圧倒した。


 ■総括 ”A Clockwork Orange”
 イタリアは結局、カンナヴァーロの欠場が響いてしまったか。いやそれよりもファン・デル・ファールトとスネイデルのパスセンスの高さ、ファン・ブロンクホルストとカイトの運動量にしてやられたと言っていいだろう。

 高さのないオランダのCBコンビ、マタイセン(181cm)、ブラルーズ(183cm)に対して、イタリアはマテラッツィ(193cm)、バルツァーリ(186cm)に加えてトーニ(196cm)がいた。かつてのヤープ・スタムやエドガー・ダーヴィッツ、フィリップ・コクのような守備力の高い名のある選手が、今回の代表にはいないように感じられたが、予選最少失点は本物だった。
 オランダはイタリアを見事完封。ファン・バステン監督の選手起用もピタリと当たったということだろう。

 そしてMOM(Man Of the Match)と呼べるのは、全得点に絡んだファン・ブロンクホルストだろう。ピッチ上の誰よりも働き、動き、走った。対面するカモラネーシ、パヌッチ、ザンブロッタにも決定的な仕事をさせなかった。
 GKファン・デル・サールも安定したセービング、スーパーセーブを何度も見せ、ブッフォンと世界最高のGKの競演を果たした。

 イタリアは自慢の守備が崩壊。ワールドカップ・ドイツ大会では全試合通じて2失点(うちザッカルドのオウンゴール、ジダンのPK)だったが、EUROの一夜で3失点。
 第2戦のルーマニア戦で大量得点で勝たないことには、グループリーグ敗退の可能性が高い。黄信号というよりは、もはや赤信号かもしれない。何せ前回のEURO2004では1勝2分けでもグループリーグを敗退したのだ。この「1敗」はあまりに大きすぎる。

 オランダはイタリアとのこれまでの通算成績が2勝6分7敗。ここ10年では1分け1敗と苦手の相手だった。しかしそのイタリアに勝った要因は、ファン・バステン監督が現役時代に薫陶を受けた「イタリアの」アリゴ・サッキとファビオ・カペッロの「プレッシングとリアリズム」とも言える。そしてリヌス・ミケルスとヨハン・クライフの流れを継承する本来の「トータル・フットボールの美しさ」。オランダは、一夜にして優勝候補に名乗りを挙げただろう。


 ここはスイス、時計の街。

 A Clockwork Orange――精巧な「時計仕掛けのオレンジ」が動き出した。

posted by batistuta |06:50 | EURO2008 | コメント(7) | トラックバック(0)
みんトピに投稿 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL: (表示は許可制となっています)
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/batistuta/tb_ping/99
この記事に対するコメント一覧
Clockwork オランダvsイタリア

このグループはとりあえず面白くなりそうですが、とりあえずオランダ>イタリア>ルーマニア>フランスくらいですかね。なんせフランスは監督が糞なんで最下位とさして頂きましたw

posted by だもす | 2008-06-10 09:22

Clockwork オランダvsイタリア

楽しく読ませていただきました。
精巧な「時計仕掛けのオレンジ」←このフレーズいいですね~。
私は幼少時代オランダで育ったのでオランダ大ファンなのですが、周囲のC組はイタリア・フランスでしょみたいな空気にイライラしてました。(まあ、普通に考えるとそうなのでしょうが・・・) 今日は久しぶりに最高の気分で1日がすごせそうです。

posted by オランダ命 | 2008-06-10 09:37

Clockwork オランダvsイタリア

いまだに「線審」ですか。少しは勉強して下さい。

posted by 副審 | 2008-06-10 10:05

Clockwork オランダvsイタリア

『時計仕掛けのオレンジ』
…フレーズというか、そういう映画があるでしょ。

posted by manone | 2008-06-10 11:31

Re:

書き込み有難う御座います。

だもすさん<
自分もあまりドメネク監督は好きじゃないです。ピレス見たかった…

オランダ命さん<
正直、自分はイタリアを応援していましたが、あのオランダは魅力的ですね。勝ち上がって、良いサッカーを見せ続けてほしいです。

副審さん<
ご指摘有難う御座います。修正させていただきました。

manoneさん<
「同じオランダ代表でも強い年のチームを『時計仕掛けのオレンジ』と呼ぶことがある」とのことですが、戦前はこのあだ名はメディアにあまり出てこなかったですね。
今回は相応しい強さを持っているかもしれません。

posted by 管理人 | 2008-06-10 15:55

Clockwork オランダvsイタリア

ここはスイス、時計の街。

 A Clockwork Orange——精巧な「時計仕掛けのオレンジ」が動き出した。

このフレーズ、すごく印象的、素敵です。
次回のコメントも楽しみにしています。

posted by かにこ | 2008-06-10 20:41

Re:

かにこさん、書き込み有難う御座います。

映画タイトル、戦ったスタジアムの場所、そしてオランダの愛称をかけました。自分もお気に入りです。

また遊びに来て下さい。

posted by 管理人 | 2008-06-11 00:47

コメントする