2008年06月27日
リアリズム ロシアvsスペイン
EURO2008の準決勝第2試合、ロシアvsスペインの試合がエルンスト・ハッペル・シュタディオンにて行われた。 グループリーグ第1戦に続く再戦。ロシアは第3戦からアルシャヴィンが戦列に復帰して別チームに化けたため、この準決勝は全く別物になると考えられた。 しかしそのアルシャヴィンの存在感が全くなく、ロシアの枠内シュートは88分のシチェフのシュート1本にとどまった。 スペインは前半のビージャの負傷退場で流れを失うかと思われたが、代わって入ったセスクにより「クアトロ・フゴーネス」が復活。中盤のポゼッションが上がった。そして後半の50分、"美しき遅攻"からイニエスタのパスをチャビが決めて先制。決めきれないF・トーレスと交代したグイーサが73分にゴール。さらにシルバもゴールを決め、気がつけば第1戦と同じ3点差での快勝となった。 スペイン、24年ぶりの決勝進出を決め、ドイツと雌雄を決することになった。 ■プレビュー ロシアはドミトリー・トルビンスキとデニス・コロディンが出場停止。 GK イゴール・アキンフェーエフ DF ユーリ・ジルコフ アレクセイ・ベレズツキ セルゲイ・イグナシェヴィッチ アレクサンダー・アニュコフ MF セルゲイ・セマク コンスタンティン・ジリアノフ イゴール・セムショフ FW アンドレイ・アルシャヴィン ロマン・パフリュチェンコ イワン・サエンコ スペインは、警告累積も怪我人もない。正に万全の体制。 イタリア戦の勝利後にGKカシージャスが「PK戦に勝つことは宝くじに当たったようなもの」と語った。強さに加え、今のスペインには「運」がある。 GK イケル・カシージャス DF ホアン・カプデビーラ カルロス・マルチェーナ カルラス・プジョル セルヒオ・ラモス MF アンドレス・イニエスタ チャビ マルコス・センナ ダビド・シルバ FW ダビド・ビージャ フェルナンド・トーレス ■センナの存在感 開始早々、スペインが仕掛ける。5分、センターサークル付近からシルバが最前線のビージャへ。これがオフサイドもなく通り、横へ飛び込んできたF・トーレスにパス。これはGKアキンフェーエフがブロックした。さらにビージャ、チャビとミドルシュートを放ち、ロシアゴールを脅かす。 一方のロシアは調子が上がらない。パフリュチェンコのミドルシュートや、直接FKなど枠内を捉えることができない。持ち前の運動量も鳴りを潜めている。おそらくスペインの中盤底に居座る番人、マルコス・センナを避けてだろうか、アルシャヴィンが左、サエンコが右に張る形を取る。相手SBの上がりも止める効果も狙ってのことだろう。しかしアルシャヴィン側のS・ラモスは気にかけることもなく、何度も右サイドをオーバーラップした。 そしてこのロシアの4-3-3の形が「攻守分断」となってしまい、前線にパスが繋がらない。戦う前にセンナに名前負けしたかのようだ。 しかしここでスペインにアクシデント。 29分にビージャが直接FKを蹴った際に足を痛めたよう。様子を見ていたが、交代を余儀なくされる。34分にはフランセスク・ファブレガスが入った。 ■Quatro Jugones EURO開幕前には「クアトロ・フゴーネス」の文字がメディアを席巻した。 “クアトロ・フゴーネス”とは「4人の創造者」を意味し、高い技術を持つチャビ、セスク、イニエスタ、シルバの4人が共存することでスペインの攻撃が魅力的になった。 しかし守備的MFセンナに多大な負荷がかかること、ビージャとF・トーレスの好調から併用も考えられ、スペインの1stオプションとしてはセスクをベンチに下げての4-4-2、チャビが攻守のバランスを取る形が功を奏してきた。 ビージャの急な負傷で、流れが変わるかに見えた。 しかし考えると、このクアトロ・フゴーネスが同時にピッチに立ったのは第1戦ロシア戦の途中のみ。ロシアに相性の良いシステムなのかもしれない。 前半は運動量を抑えただけだったのか、それともハーフタイム中にヒディンクの檄が飛んだか。後半開始して、ロシアが高い位置からプレスをかけてきた。しかしこれが裏目に出る。 中盤のポゼッション(ボールキープ)が上昇したスペインは、ロシアのプレスにも動じることなくパスを回していく。走らされてしまうロシア。 そして50分、ロシアのペナルティエリアの左角でボールをキープしたイニエスタ。ロシアのディフェンスラインは整っている。しかしそのわずかな隙間を縫うパスを通し、飛び出してきたのはチャビ!GKの股を抜くシュートで先制点を決める。 エルンスト・ハッペル・シュタディオンが一瞬、バルセローナのホーム、カンプ・ノウになったかのような錯覚を受けた。 さらにスペインが攻める。中央でボールを持ってDFを引きつけると、左の外れでフリーになっていたF・トーレスにボールが渡る。しかしF・トーレスのシュートはバーの上へ外れる。 ■監督采配の分かれ目 先制されたロシア、ヒディンクが勝負に出る。ディニヤル・ビリャレトディノフ、ドミトリー・シチェフの2人を一気に投入。しかしシステムに問題があるのか、戦況は変わらない。 62分、右サイドでシルバをポストに使ってS・ラモスが上がってボールを受けてクロスを送る。F・トーレスが詰めていたが、ここも決め切れない。 F・トーレスはこの試合で何度もペナルティエリアでボールを持って緊張感を漂わせるが、なかなか決めることができない。 すると69分にアラゴネス翁が勝負に出る。 残り20分あるにも関わらず、残りの交代枠を使い切ってきた。チャビに代えてシャビ・アロンソ、F・トーレスに代えてダニエル・グイーサと、2枚同時交代。今後追いつかれての延長戦、もしくは怪我人が出た際には緊急事態となるが、アラゴネス監督がロシアにとどめを刺しに来た。 するとこれが大当たりする。交代で入ったセスク、X・アロンソの2人がミドルシュートでGKアキンフェーエフを脅かす。 そして73分、ロシアの攻撃を防いだ後、シルバが中央をドリブルで上がる。前線で右サイドに逃げたグイーサがボールを受ける。上がってきたS・ラモスに戻して、グイーサはゴール前へ。S・ラモスは、中央のペナルティアークにいるセスクへパス。セスクはこれをダイレクトで前線へ。右から流れてきたグイーサが一旦ロシアの最終ラインに並び、絶妙のタイミングでラインウラへ抜け出した。 GKが飛び出すも、読みきっていたグイーサは右足アウトサイドで浮かせた。美しく弧を描いてボールはロシアゴールへ吸い込まれる。それを確認しつつグイーサはコーナースポットへ猛然とダッシュ、そしていつものパフォーマンスだ。同郷の先輩、フランシスコ・ミゲル・ナルバエス・マチョン、 "キコ"。かつてのスペイン代表で活躍したFWにオマージュを捧ぐ。 この時間で2点差――勝利を確信したスペインサポーターは、いつもの「闘牛士の煽り」を叫ぶ。スペイン代表のパスが通る度、歓声が上がる。 そしてショーは終わらない。 82分、ロシアからボールを奪うと、自陣内でイニエスタにボールが渡る。2秒ほど長くタメると(現代サッカーで2秒は長い)、 左サイドを上がるセスクへパスを通す。セスクはロシアDF2人の意識を引きつけると、1点目のアシストのリプレーを見ているかのようなパス。月並みな言い方だが、針の穴を通すように。シルバはそれを決めるだけだった。 まるで良いところのないロシア。最後にFKを得て、アルシャヴィンがクロスを送りシチェフが頭で合わせた。この試合で初めてのロシアの枠内シュート。あまりにもシュートが来ないと、集中力が切れていてもおかしくないが、GKカシージャスにそのようなことはない。しっかりと止めてみせた。 試合終了。スペインが3-0でロシアに快勝した。 ■総括 ロシアは全くと言っていいほど、良いところがなかった。期待されたアルシャヴィンはどこにいたのだろうか?本当にピッチにいたのか?そう思わざるをえないほど、完全に封じられた。 アルシャヴィンはオランダとの準々決勝の後、「EURO後にはイングランドかスペインでプレーするのではないか」と報じられ、アルシャヴィン自身も「バルセローナでプレーするのが夢」と語っていた。そのバルセローナの選手を前に萎縮したか、「もう移籍は決まった」と慢心があったか。 対面するS・ラモスには右サイドを何度も上がられ、逆サイドのサエンコはカプデビーラに封じられた。 ◆数々のジンクスを乗り越え ロシアがホーム扱いのために赤いユニフォーム、スペインは黄色いユニフォームだった。スペインでは黄色は「不幸の色」とされている。もちろん迷信ではあり、このユニフォームを着て戦った2月6日のフランス戦には勝利している。 試合前のスタジアムの上空は美しい夕陽が出ていた。しかしこの後に雨が降り出した。ロシアの赤を消すような天候。 そしてヒディンクの準決勝のジンクスは守られる結果となってしまった。 「敗北の方程式 オランダvsロシア」のコメント欄でpirosiさんのご指摘にあった通り、決勝には縁がなかったようだ。 ・98フランスWC オランダ代表を率いてベスト4進出:ブラジルにPK負け 3位決定戦でクロアチアに敗北 ・02日韓WC 韓国を率いて3位(誤審など色々噂はあるが) ・PSVを率いた04-05のCL 準決勝でミランにアウェーゴールで敗北 そして上記の02年の日韓ワールドカップ準々決勝、スペインが何度もゴールを取り消されて、延長戦の末にPK戦負けを喫した忘れがたい記憶。その相手はホーム韓国を率いるヒディンク監督だった。 ◆アラゴネスのリアリズム こんなにも自国民から信頼されていない監督がいるだろうか。「続投すべきか?」という世論調査をすれば「NO」が突きつけられ、メディアも監督ではなく選手を信頼しているよう。そして極めつけはスペインサッカー協会。 アラゴネス監督はフェルナンド・イエロSD(スポーツ・ディレクター)と確執がある。就任直後からアラゴネス監督の後任監督探しをスタートしているという正に内紛そのまま。 (スポーツナビより一部抜粋) スペインのこれまでの上位進出を妨げてきたのは「内紛」。かつてのスペインの内乱や、レアルとバルサ、フランコとカタルーニャの対立など民族的なまとまりに欠けてきた。 「レアル=中央政権」――この見方はいまだ根強い。 このレアルの象徴であり、今季クラブを優勝に導くなど絶好調だったラウール・ゴンサーレスは招集されなかった。しかしラウールという「怖いアニキ」が不在のため、チームに一体感があるのも事実。このロシア戦だけに関わらず、ベンチで選手たちが肩を組むような雰囲気の良さ、一体感があることによって、スペインがここまで来れたのではないか。 そしてイエロ(周知の通りレアルの名選手)は、レアルの監督であったビセンテ・デル・ボスケを後任監督に据えようとしている。 話を戻す。 アラゴネス監督は「移籍金65億円の男」を特別扱いしない。調子が悪ければF・トーレスは外される。「アンタッチャブルな存在」であったラウールを外すアラゴネス監督、F・トーレスを外すことなど何でもない。第1戦のロシア戦で下げられたF・トーレスが、下がった時にアラゴネス監督を無視した、とゴシップに近いような報道があったが、3点目を決めたビージャがベンチにいたF・トーレスに駆け寄ったこと、そして試合後の記者会見でビージャがF・トーレスを賞賛したことでチームの雰囲気を保っている。 叱るべき人が叱り、同僚が励ます。社会の縮図のような、心理学の基本のような。 このロシアとの試合での69分の交代も、実に理に適っている。 スペインのシステムは、チャビとセンナが中盤でコンビを組む4-4-2。チャビが前に進出したり、下がって守備をしたりと「攻守の天秤」が絶妙だ。当然、チャビには運動量が要求される。 69分に同じバランサーのX・アロンソを投入。そして第3戦で1ゴール・1アシストを決めたグイーサをF・トーレスに代えることで、「もう1点を狙いつつ、守備・中盤の運動量を失わない」バランスの取れた交代だった。センナ以下、最終ラインに綻びはなく代える必要がなかった。 「リアリズムそのもの」と言えるイタリアを、「残酷なリアリズム」といえるPK戦を制したスペイン。攻撃の美しさを失わずに結果を得ている。イタリアのPK戦での引き分け以外は全勝。 決勝の相手はもう一つのリアリズムの国、ドイツだ。3度の優勝、2度の準優勝を誇り、グループリーグを苦しみながらも突破、準決勝でも内容をトルコに持っていかれながらも勝利にこぎつけた。 ちょうど20年前のEURO優勝国はオランダ。"ミランのオランダトリオ"、マルコ・ファン・バステン、ルート・フリット、フランク・ライカールトを擁して、美しい攻撃が欧州を制した。今年も美しい"クアトロ・フゴーネス"が優勝するのか? それとも番狂わせの前大会のギリシャに反して、今年は手堅く行くと見てドイツなのか!? 決勝は29(日)にウィーンのエルンスト・ハッペル・シュタディオン、このロシア戦と同じ会場にて行われる。
posted by batistuta |08:23 |
EURO2008 |
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リアリズム ロシアvsスペイン
アラゴネス監督、チーム一丸のためのラウル外し納得しました。彼が監督だからこそ初めてできたアンタッチャブル。
posted by サントス | 2008-06-27 12:46
Re:
サントスさん、書き込み有難う御座います。
…とは言っても、私は開幕前は「なぜラウールを招集しない?」派ではありましたが(苦笑) 今回の勝ち上がりにアラゴネス監督の采配も見逃せませんね。決勝もどのような手を打ってくるか、楽しみです。
posted by 管理人 | 2008-06-28 01:14


