2008年06月23日

敗北の方程式 オランダvsロシア

 
 EURO2008の準々決勝第3試合、オランダvsロシアの試合がザンクト・ヤーコブ・パルクにて行われた。
 死のグループCで9得点・1失点、3連勝。圧倒的な強さを見せていたオランダだが、この試合では精彩を欠いた。FKでの守備に難があったロシア相手にチャンスを決めきれず、逆に56分にパフリュチェンコに決められてしまう。
 後半終了間際のFK、今度はファン・ニステルローイがきっちりと合わせて土壇場で追いつく。追い風がオランダに吹いたかと思われたが、ミドルシュートなどの単調な攻撃でリズムを作れないオランダ。
 延長になるとオランダの動きはさらに悪くなり、ロシアのカウンターが目立つようになる。そして延長22分にトルビンスキのゴール、26分にはアルシャビンが止めを刺す3点目。
 グループリーグでの戦いぶりで優勝候補に挙げられたオランダが1-3で敗れ、アッサリと決勝トーナメントから姿を消すことになった。


 ■プレビュー
 オランダはグループリーグ第1戦、第2戦と同じ布陣で挑む。

 GK エドウィン・ファン・デル・サール
 DF ジョヴァンニ・ファン・ブロンクホルスト
    ヨリス・マタイセン
    ハリド・ブラルーズ
    アンドレ・オーイェル
 MF オルランド・エンヘラール
    ナイジェル・デ・ヨンク
    ウェスレイ・スネイデル
    ラファエル・ファン・デル・ファールト
    ディルク・カイト
 FW ルート・ファン・ニステルローイ


 ロシアは「凱旋の皇帝」アルシャヴィンを軸に構成。

 GK イゴール・アキンフェーエフ
 DF ユーリ・ジルコフ
    セルゲイ・イグナシェヴィッチ
    デニス・コロディン
    アレクサンダー・アニュコフ
 MF セルゲイ・セマク
    イワン・サエンコ   
    イゴール・セムショフ
    コンスタンティン・ジリアノフ
 FW アンドレイ・アルシャヴィン
    ロマン・パフリュチェンコ 


 ■敗北の方程式
 EUROを欠かさず観ている人なら既にお分かりのことだが、これまで行われた準々決勝の3試合、全てグループリーグ1位のチームが負けている。コンディションを整えるため、グループリーグ第3戦では控えメンバーを中心にした布陣。こうすることによって体力の回復はできるが、試合への集中力が落ち、試合勘がおかしくなるようだ。
 ピッチ全体を使い、SBファン・ブロンクホルストの幅広い攻撃参加、CBハイティンハやGKファン・デル・サールのような高いフィードセンス。文句のない好チームのオランダ――のはずだった。


 ■前半
 開始してすぐの7分。オランダのゴールキックを奪ってそのままカウンターに持ち込むロシア。右に展開し、セムショフがクロス。パフリュチェンコがフリーでヘディングに持ち込むが、これを外してしまった。この時は「チャンスを決めきれないロシアが負けるのか」と思っていた。まさかこの後、ロシアの方がチャンスを多く作れると思わなかったからだ。

 オランダは流れの中のプレーでは、効果的な崩しができない。タッチ&ゴーなどあるはずもなく、SBの上がりもない。
 ファン・デル・ファールトの精確なFKがゴール前に放り込まれるが、デ・ヨンクやファン・ニステルローイが届かないという場面が繰り返される。終わってから考えると、この「届かない」は「惜しい」のではなく、(休んだにも関わらず、いや休んだからか)コンディションが上がらないプレーヤーの「もう一走り」が出来ていなかったのだろう。ファン・デル・ファールトの感覚としては、いつもならこのクロスボールのスピードで決めてくれるという信頼感があったはず。

 前半にロシアで目立っていたのはコロディン。CKのこぼれ球というセカンドチャンスで、ミドルシュートを放っていったが、今大会の傾向としては珍しく枠を捉えていた。遠くから、もしくは直接FKでのシュートがほとんど浮いてしまう公式球、EURO PASS。コロディンのシュートはGKファン・デル・サールを脅かした。


 ■後半
 後半開始時、試合の流れを変えたいオランダのファン・バステン監督が先に動いた。カイトに代えて、ロビン・ファン・ペルシーを投入。第3戦での好調ぶりからスタメン起用も考えられたが、後半からの出場となった。
 しかしこの試合のファン・ペルシーはシュートの精度を欠いた。72分にロシアゴール前のペナルティアークという近い位置でFKを得たオランダ、スネイデルが蹴るかと思われたがファン・ペルシーが思い切り蹴りフカした。その他の場面でも、ファン・ペルシーのミドルシュートは枠を外すことが多かった。

 54分になるとオランダは、ブラルーズを下げてヨニー・ハイティンハをピッチに送り出す。先日に生まれたばかりの娘が亡くなってしまったブラルーズ。悲しみの強行出場となったが、この試合では逆効果だったようだ。前半は積極的な上がりを見せることは出来ず、左サイドに流れてくるパフリュチェンコの対応に追われた。アルシャヴィンもドリブル突破を狙ってきた場面もあり、ヒディンクが「オランダの傷心の右サイド」を徹底的に突いてきたのかもしれない。
 ともかくも停滞気味、いやむしろチャンスが多いと言えない前半を経てきたオランダ。攻撃のカードを切るかという選択肢の前に、0-0というスコアで守備的な選手同士を代えるという事態になってしまった。

 そしてこの交代で、試合の流れにハイティンハが乗り切れていなかったか。
 オランダの右サイド、つまりはロシアの左サイドをアルシャヴィンが攻めこみ、オーバーラップしたセマクがボールを受けて、ゴール前へクロス。マークについてきたマタイセンをうまく外し、ニアに走りこんだパフリュチェンコが合わせてゴール。
 オランダ、このEURO本大会で初めて先制点を許した。

 さらにロシアの攻撃が続く。
 アルシャヴィンが中央からドリブルで上がり、右のサエンコへ。トラップでファン・ブロンクホルストをかわしてシュートに持ち込んだがゴール右へ外れた。

 すると62分、オランダはエンヘラールを下げて、イブラヒム・アフェライを投入。グループリーグ第2戦でも使った戦術、「ファン・デル・ファールトを中盤底で」起用する。ロッベンのコンディションが悪かったのだろうか。1点リードを許している時に若いアフェライで行く余裕があったか。
 対するロシアは、今日はベンチスタートだったディニヤル・ビリャレトディノフをここで投入、セムショフを下げる。システムのバランスは崩さないが攻撃的な姿勢は保つ。

 この試合のキーポイントだったかもしれない「主審のファウル基準」。他の試合と比べて、当たりの強い守備を流す傾向にあったリュボシュ・ミヘル氏のジャッジ。
 69分に激しいルーズボールの競り合いがあったが、笛で止まることはなく、オランダが諦めたかにも見えつつ、ロシアがルーズボ-ル争いに勝利。そのままショートカウンターを仕掛け、縦パスをパフリュチェンコがダイレクトで前へ流す。浮き球になり、苦しい体勢からアニュコフがシュートもGKファン・デル・サールがストップ。
 残り約20分、ロシアはたったの1点リードという場面で、右SBアニュコフが最前線まで顔を出しリスクを犯している。

 70分を過ぎるとオランダの足が「目に見えて」止まってくる。アルシャヴィンが何度もゴールライン近くまで深くエグってマイナスのクロスを上げ続ける。
 ロシアは攻勢を保ち続け、素早いカウンターでオランダを追い込む。さらに前線のサエンコを下げて、フレッシュなドミトリー・トルビンスキを入れてくる。
 またもロシアは左サイドを攻め、GKファン・デル・サールの飛び出しを避ける横パスにトルビンスキが合わせるだけだったが、シュートまで持っていけなかった。

 すると86分にパフリュチェンコのハンドにより、左45度・30m付近のFKを得たオランダ。今まで散々作ってきた「FKで、GKとDFの間に放り込み、合わせる」がようやく結実。スネイデルのFKを、ファン・ニステルローイがフリーでヘディングで合わせて同点弾。ヨハン・クライフに並ぶ代表通算33得点目を挙げた。

 その後、オランダの前線へのボールがラインを割りかけた時、スネイデルがボールセーブ。そこにコロディンがスライディングタックル、主審がイエローカードを提示。すでにこの試合で1枚もらっているコロディンが退場で、延長戦でロシアが圧倒的に不利かと思われたが、その前にスネイデルのセーブの時点でラインを割っていたとの副審判断で、カードも取り消された。


 ■延長
 こうなると交代枠を使いきってしまったオランダが不利。
 中2日のロシアは、延長戦でも激しく動き回る。アルシャヴィンが1vs1を仕掛け、パフリュチェンコのシュートはクロスバーを直撃。アルシャヴィンがまたもサイドを深くエグってクロス、これはトルビンスキが決めきれない。ロシアがFKを得ると、ジルコフの惜しいシュートが出る。

 延長後半になってもロシアの猛攻が続く。
 延長22分。もう何度見たか、アルシャヴィンがまたもゴールライン際まで突破してクロス。GKファン・デル・サールを越えるループ気味のパスに、トルビンスキが飛び込んだ。ファーサイドでギリギリのところ、左足のアウトサイドで軽く合わせて、自身のポスト直撃も避ける見事なシュート。ロシアに追加点が生まれて2-1。

 延長24分、ここでもヒディンクは攻撃的な交代。FWパフリュチェンコに代えてドミトリー・シチェフを投入。時間稼ぎの意味合いもある交代だが、FWを代えることによって前線からの守備をすることもできる。

 26分、ロシアの相手陣内の浅い位置で右サイドからスローイング。ペナルティエリアに向けてロングスロー、中央からニアサイドへ流れてきたアルシャヴィンが、ボールの動きをしっかり捉えてシュートに持ち込む。名手ファン・デル・サールの股間を抜くシュートで、オランダに止めを刺す。
 この試合で代表引退となったファン・デル・サール、記憶に残る「嫌な」最後のシュートだっただろう。 

 CKはオランダ4、ロシア11。圧倒的にロシアがオランダゴールへ殺到していた結果だ。ロシアがオランダを下し、準決勝に進出した。


 ■総括
 「時計の街スイス」で、快進撃を続けたオランダ。次の準決勝からオーストリアのウィーンでの試合になる予定だったため、次で負けた場合に「精巧な時計じかけのオレンジ、ウィーンでは動かず」のような題名を考えてもいたが、まさかここで敗れるとは思わなかった。
 冒頭に記した「敗北の方程式」に当てはまってしまった。あれだけダイナミックな攻撃、不安視されていた守備が安定していたが、この試合では一変した。
 トルコのような反撃の強い力を感じることもなく延長、いや後半あたりから単調・淡白な攻撃になってしまった。ファン・デル・ファールトやスネイデルがミドルシュートを打っていったが、守備陣形が整っているロシアは焦ることはなかった。
 また27度という暑さが、オランダの運動量を奪ったかもしれない。


 対するロシアも同じ条件のはずだが、運動量は圧倒的。後半以降も運動量は落ちることなく、カウンターの時にはサポートが常に上がってきていた。
 1点目の起点になり、2点目をアシスト、3点目を自ら決めたアルシャヴィンは間違いなくMan Of the Match。ブラルーズら不安定になったDF陣を徹底的に突き、ゴールラインまでのドリブル突破でロシアにチャンスを作り、オランダにはプレッシャーを与え続けた。

 またもや”マジック”を見せつけたヒディンク監督は「テクニック、戦術、体力のすべてでうちがオランダを上回っていた。最後はわれわれの強靭(きょうじん)なスタミナが試合を決定付けた」と試合後に語っている。オランダの調子は悪かったが、ロシアが強かったのも紛れもない事実。もしオランダが本来の調子であったとしても、「必ず」勝ったとは言いきれないだろう。

 ロシアの次の相手はスペインvsイタリアの勝者。グループリーグ初戦で1-4で大敗したスペインにリヴェンジしたい気持ちが強いだろう。過ちは2度繰り返さない。今のロシアには”皇帝”がいる。


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posted by batistuta |01:42 | EURO2008 | コメント(2) | トラックバック(0)
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敗北の方程式 オランダvsロシア

コメント投稿者ID :

この試合はロシアの”完勝”とも言える内容だったと思います。
 ウクライナは出場していませんが、旧ソ連諸国のサッカーシーズンって Jリーグと同じ「春→秋」制だったと思います。 (冬が寒すぎてリーグ戦はできないような・・)
 酷な例を挙げるならプレミアリーグ所属のポルトガル人(チェルシーやマンU所属)のように年間50試合以上もこなし、その後、纏まった休息も取れずに今大会に望んできた西欧リーグ所属の選手にとっては年間通して蓄積された疲労というエクスキューズも少々はあるでしょうと私は推測できます。

 監督の戦術交代など手腕については私は詳しくはわかりかねますが、ヒディングは1998WC,2002WC,PSVを率いた2004-05のCLと
「トーナメントの決勝には縁のない監督」
と個人的な印象を抱いていますが、さて今回はどうなることでしょうね。

 昨月のモスクワでのチェルシーの欧州初戴冠に失敗したアブラ様。ヒディングの年俸も(どの程度の割合か存じませんが)ポケットマネーで負担していると聞いたことがあります。 ”あと2勝”をウィーンの地で飾ることができるかは注目したいと思います。

(時間的制約もおありでしょうが・・) 
スペイン×イタリアの分析もお願いします。

posted by pirosi | 2008-06-23 11:36

Re:

コメント投稿者ID :

pirosiさん、またの書き込み有難う御座います!

>旧ソ連諸国のサッカーシーズンって Jリーグと同じ「春→秋」制
<その通りです。UEFAカップのゼニト優勝もこれが一因とは言えますが、まぁ「春→秋」制今までもそうだったので単純に比較は難しいかと思います。

>ヒディンクと決勝トーナメント
<調べてみました。
・98フランスWC オランダ代表を率いてベスト4進出:ブラジルにPK負け 3位決定戦でクロアチアに敗北
・02日韓WC 韓国を率いて3位(誤審など色々噂はありますが)
・PSVを率いた04-05のCL 準決勝でミランにアウェーゴールで敗北
・06ドイツW杯 豪州を率いて決勝トーナメントでイタリアと対戦 終了間際のPKで敗北
……といった感じです。確かに決勝までには行っていませんが、上記の戦力でそこまで勝ち進めるのはやはり戦術・チームコントロールが素晴らしいと思います。ここまで国家・民族を問わず成績を残せている監督はいませんよ。

ロシアにまた「(馬に)人参」が出るかもしれませんね。何らかの勝利報酬を出しそうです。

遅ればせながらスペイン×イタリアを書き上げました。ご覧になってみて下さい。

posted by 管理人 | 2008-06-23 19:08

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