2008年01月18日

ハイヒールをスパイクに、化粧品をサッカーボールに

正月気分もすっかり抜けて『footballista』は08年第2号を発信! 今年も世界のフットボールの日常をタイムリーにお伝えしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

年末年始、ひさしぶりの休みは忘年会と新年会、残した仕事と1年ぶりの親の食事とセールとテレビといくつかの映画で慌ただしく過ぎ去った。息抜きの場所はやっぱり映画館。正月と言えば寅さんにゴジラ、ハリウッドの超大作といった時代はいつの間にか終わっている。注目はここ数年、続々と公開されているドキュメンタリー映画。テーマは様々、この年末年始にも国内外の佳作を何本か目にすることができたが、事実は小説よりも映画よりも奇なり、である。サッカー絡み(?)でも『ペレを買った男』、『線路と娼婦とサッカーボール』と2本の良作が公開された。

その一つ、『線路と娼婦と…』の舞台は中米グアテマラ。中南米の現代史を扱った映画や小説に必ずと言っていいほど出てくるのが、革命やスラムといった言葉だ。植民地であった国が独立しても、少数の白人と大多数のインディオや混血の農民との間の階級格差は残り、幾度も試みられた革命の末に土地を失った貧農は都市に流れ込んでスラムができる。メキシコやコスタリカらを除いて、近年のW杯ではその勇姿を見ることができない中米諸国の中でも、我われにとってはコーヒー市場で名の通った、しかし未知の国グアテマラ。その現状もこの映画を見る限り同様だった。

この作品の主人公は、首都グアテマラシティのスラムで暮らす最貧困層の女性たち。舞台となる通りには一本のリネア(線路)が走るが、かつてコーヒー豆を出荷するために敷設された近代化の象徴は今や見る影もなく、娼婦たちの稼ぎの場となっている。そこで、たった“2ドル半”という報酬で働く女たちが「国会議事堂の前でデモをしても誰も見向きもしない。サッカーでなら伝えられるかも」と、自分たちの人権を訴えるべくサッカーチーム「ラ・リネア・オールスターズ」を結成する。ただちに富裕層によって競技から閉め出されるが、それでもこれがニュースとなり、やがて試合が舞い込み、スポンサーも現われて国内ツアーをするまでに。チームは決して強い訳ではない。しかし彼女たちにとって、勝ち負け以上に自身の存在を社会に認めてもらうことが大事なのだ。映画の主眼は、サッカーの試合ではなく娼婦たちをユニークな個性として描くこと。そして「娼婦」と括られてしまう彼女たち一人ひとりの「女性」としてのヒストリーを伝え、いま彼女たちがいる社会をスクリーンに浮かび上がらせる。

チームの躍進とともに語られる女たちの半生。生い立ちも性格もまちまちで、それぞれが人生に辛酸をなめ続けてきた。とはいえ、元気で健気で一生懸命な彼女たちのキャラクターはとにかく面白いし、世間で言う「常識」の馬鹿馬鹿しさが心底身に染みてくる。彼女たちは涙ながらに不幸と不遇を嘆くが、グラウンド(といっても、石ころが転がった水たまりだらけの空き地だったりコンクリートだったり)に立てば元気いっぱい。あくまで試合に勝つことを目指し、何よりサッカーそのものを楽しんでいる。差別や迫害をはね除ける活力と逞しさに、見ているこっちが元気づけられてしまうのだ。

「サッカーで成り上がりたい」訳ではなく、少しでも這い上がるきっかけが欲しかっただけ。リネアの娼婦たちは「ヒモなしでやっていける」ことを誇りとしている。彼女たちがこの仕事で家族を支え、子どもを学校へ生かせていることは紛れもない事実。道徳や暴力によって彼女たちを非難する資格を持つ者は誰一人いない。そのことをこの映画は訴える。そして、最後に待ち受けるのは現実だ。サッカーで活躍してメディアに注目されても、人生は劇的に変わらない。めでたし、めでたしで終わらぬ結末にこそ、ドキュメンタリー作品ならではの問題提起があった。

posted by 『footballista』編集部・赤荻 悠 |18:38 | トラックバック(0)
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