2007年05月14日
セルティックファンはこうあるべきという映画
CL決勝まで10日弱(川崎クラブチッタで当日イベントをやります! 詳細は http://www.footballista.jp/night/ へ )。各国の王者も続々と決定し、残り試合も後わずか。興奮の絶頂への期待と少々の寂しさが入り交じるこの季節は、とにかくサッカーにどっぷり浸かっていたいものだが、今回のブログではあえて小休止、あくまでマイペースに趣味の話でもさせていただきたい。ただし、きっかけはもちろんサッカー。「サッカーに関することなら自由」というこのブログの掟も守っているはずだ(と思う)。 編集長の顔色を窺いつつも、早速本題に移りたい。映画『明日へのチケット』を見たのは昨年末と少々前になるが、この三監督による三話構成の長編の中にセルティックサポーターを主役とした一編があった。先月末セルティックが2連覇を達成し、この作品のDVDもつい先日発売されたようなので、タイミング的にもいいだろう。 セルティック絶好調のおかげで、今季は欧州の舞台でも見ることができたその熱狂的サポーターの姿。映画でも主役の三人組は「我らセルティック、ここにあり! 我らに怖れるものはなし!」と叫びまくる。優勝を決めた先月22日のキルマーノック戦、ロスタイムの劇的FKでチームに栄冠をもたらした中村俊輔が、後に「一度はやってみたかった」と話したようにシャツを脱いでピッチを爆走、真っ先に彼らの元に向かって行った姿は印象的だった。この試合も敵地の両ゴール裏を6000人が埋め尽くしたが、CLマンU戦、ミラン戦でも白と緑の横縞シャツがグラスゴーから大挙して駆けつけたように、彼らにとってアウェイ遠征は欠かせない楽しみの一つなのだ。この作品の舞台は、そんな若者たちがCLローマ戦の応援に向かう列車の車中である。 前述のようにこの映画は三監督による共同長編だが、ローマへ向かう国際列車を舞台に、偶然乗り合わせた人々の一枚のチケットに始まる様々な人生模様が描かれる。そして、この旅をリレーして語るのはエルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチという三巨匠(ともにカンヌ映画祭最高賞「パルムドール」受賞者)。30、40年に渡りそれぞれのリアルを追求し続け、撮り続けてきた、映画ファンなら涙ものの奇跡のコラボだ。 インスブルックからローマへ、出張の帰途に着く老いた大学教授の青春ノスタルジーを描くオルミ編。イタリアの小駅から乗り込んだ、傲慢将軍未亡人とその世話役の青年が主役のキアロスタミ編。そしてグラスゴーからローマへ遠征するセルティックサポーター出演のローチ編。それぞれの作風が表れた三エピソードが独立したオムニバス風に提示されながらも、一つの場所と時間を共有する列車の旅の中で密に繋がり合う。よって、各挿話の登場人物たちがさりげなく他のパートに姿を見せ、別のシチュエーションでめぐり会い、別の感情がぶつかり合うのだ。三監督の共鳴、巧みに織り上げられたコラボレーションの成果がここにあり、『10ミニッツ・オールダー』や『愛の神、エロス』、『パリ、ジュテーム』といったシネアスト集合作とはまた違った、なんとも不思議な瞬間に何度も立ち会えるのである。どこかで連結すればいいという約束事の下で、列車は決して希望を下ろさない。 ラストを締めくくるセルティック三人組のローチ編だが、スーパーの店員で貧乏な彼らが、スコットランド訛り丸出しで繰り広げるバカバカしいかけ合いは、とにかくおかしい。待ちに待ったCL応援の旅という陽気な雰囲気が、乗車チケットの盗難に巻き込まれ一挙に暗転してしまうのだが、この事件に関わってくるのが、第一話オルミ編で登場するアルバニア人家族。サッカーだけを生き甲斐としてきた若者たちがいきなり、これまで想像だにしなかった困難な状況、現代ヨーロッパに不可避な問題に直面するのである。これも欧州大陸を走る列車の旅が生み出した運命と言ってもいいのだろうか。 移民一家の窮状と自分の窮状を天秤にかける羽目に陥る三人。「試合は今日しかない、移民はいっぱいいる」「たかがスーパー店員に世界の大問題なんて荷が重すぎる」と言いながら、この事態を突っぱねきれない人間、そしてその善意への信頼を鮮やかに料理するローチの職人技は、見事の一言である。移民一家へ向ける三者三様の姿を描きつつ、葛藤の果てに導き出す答えは素晴らしい。 様々な階級と人種が混在し対立の火種に事欠かない欧州を舞台に、これまで「現実」という苦い結末を突きつけてきた三巨匠が選んだ、この映画の最終目的地は興味深い。三話それぞれの人生憚がたどり着いた爽快で明快な結末は、愛を知り孤独を知る監督たちの深い眼差しゆえに生まれ得たものだろう。そこにはシニカルの欠片もなく、未来への可能性という希望の「チケット」があった。ローチらしからぬ終幕に、三人の幸せな化学反応を見た。
posted by 『footballista』編集部・赤荻 悠 |11:42 |
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