2007年03月26日

ドラソーの映画がついに公開

1カ月ほど前になるが、フランスで『Substitute』という一本の記録映画が公開された。監督の名はビカシュ・ドラソー。ドイツで快進撃を見せた「レ・ブルー」にあって、一人その歓喜の輪に加われなかった男だ。

左寄りの思想で、芸術を愛し、ゲイ・サッカーチームの顧問も務める変わり種。そんなサッカー界のインテリの口から仏サッカー界を揺るがす爆弾が飛び出したのは、W杯決勝の落胆冷めやらぬ7月のある日だった。「映像日誌」を製作する、と突然発表したドラソーは、その内容がW杯中の代表チームを記録したものだと明かす。素材として撮られた元チームメイトや関係者たちには寝耳に水、当然のように反発の嵐となった。「彼は頭のいいやつ。ただ、もっと注意を払うべきだった。勝手に人が望まないものを公開しようなんて考えてちゃいけない」とはビエラの弁。指揮官ドメネクの批判は強烈だった。W杯後の初の試合となった8月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦前の記者会見で「彼は職業を変えたほうがいい。いや、すでに転職したというべきか。他人を観察する観衆は役者にはなれない訳だから」と皮肉った。

国内メディアはこぞってこの騒動を面白がり、一般紙にも「驚き怯える映画が誕生する」(France Soir)など見出しが躍る。バラエティ番組はその中身を予想したパロディ映像も作っていた。いくつかの映像を確認できるが、マケレレ(役の男)がピッチ同様どこにでも顔を出す、世話好きかつ少々面倒くさい男として描かれていたり、足下だけの固定ショットでシュート練習を繰り返すドラソー(と思われる)が、枠に飛ばないシュートに「これじゃトレゼゲと一緒だ」とボヤいたり……。

さて、気になる(私ももちろん見ていない)この70分の中編の中身だが、プレスや国内メディアの反応、いくつか公開されている映像を見た限りでは、それは意外なものであった。一様に純粋で実直なドキュメンタリー映画といった評価なのだ。故郷ルアーブル、パリ、そしてドイツと、ホテルの部屋やバスの中、ロッカールームなどで撮られた手ブレの激しい映像が流れる訳だが、そこにスキャンダラスな要素などまったくないようである。

予告編にもあるシーン、2006年4月6日、ドラソーの自宅でフレッド・プレ(共同監督でドラソーの友人)が2台の「Super 8」をドラソーに渡す場面からこの映画は始まる。彼は「面白いものと思ったら何でもカメラを回してほしい。終わりは7月9日(W杯決勝の日)。この物語は君だけのものだ」と語る。いくつか確認できるシーンでは、大会前の合宿先らしいホテルのバスルームで、鏡に写った自身に向かってドラソーが何気なく語り始める場面が気になった。

「レイモン(・ドメネク)がW杯で僕に期待しているのは、創造力あふれるプレーで攻撃の核となることじゃないかな」

本大会では結局16分の出場に留まったこのゲームメイカー。その先に待つ現実を考えると、この言葉にはある種の感傷を抱かずにはいられない。映画公開前の新聞各紙のインタビューでも本人の思いが聞けるが、この映画の主たるテーマはドメネク監督との微妙な関係にあるようだ。

「最初のうちは親子のような関係だった。彼を尊敬していたし、彼も僕を信頼していた。でもドイツでは……。彼を信じ過ぎた僕が馬鹿だったんだろう。そびえ立つ山に登るために2年間訓練させた父親が、直前で隣の息子を連れてってしまった。僕は置き去りにされた息子だよ」と語るドラソーは、この映画は誇りに満ちたものであり、自身の魂の叫びだとも言う。

「この作品のおかげで救われた。もしなかったらただのみじめな男になっていたよ。W杯のつらい思い出を忘れることもできたし、何より人間不信から脱することができた。喜びと不安が満ちたこの映画は、僕の分身みたいなもの」

予想に反する純真な物語となったこの映画だが、33歳の失業者(昨年10月にPSGを解雇。ギ・ラコンブ―こちらも1月に解雇―との間にも数々のエピソードが残るが今回は省略)の魂の叫び、興味を抱かずにはいられようか。ちなみに『Substitute(交代選手)』というタイトルは「The Who」の名曲から取られ、本編でも主題歌として使用されている。また、12月のベルフォール映画祭では仏映画部門の佳作という評価も受けた。

映画監督に転身? という質問には「なってはみたいけど、その力がない」と謙遜。「僕はただ映像を記録しただけ。それが意味を持ったことに満足している」とあくまで真面目に答えた。

※ドラソーの発言は『L'EQUIPE』『A NOUS PARIS』紙のインタビューより

『footballista』編集部・赤荻 悠

posted by ballista |11:43 | トラックバック(0)
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