2007年07月31日
スタジアムが街のシンボルでなくなる日
僕は一度、エミレーツスタジアムに行ったことがあります。 ロンドンの地下鉄ピカデリーラインを北に上り、「アーセナル」という駅で降りると、スタジアムはすぐそこ。閑静な住宅街にあって、巨大な建造物が目を引きます。とは言っても、僕が訪れたのは05年9月。つまり、エミレーツがまだ瓦礫と粉塵にまみれた建造物だった頃です。 一方、一昨季までアーセナルのホームとして使われていたハイバリーは、こじんまりした家屋が軒を連ねるストリートに隣接しています。こんなところに本当にあるのかと思いたくなるようなところに突如出現するスタジアム。入り口もチケットブースもオフィシャルショップも小さく、豪華な装飾はほとんどありません。赤と白を基調とした外観は、ハイバリー地区の住宅の雰囲気とマッチしていて、エミレーツとは対称的に「街のシンボル」というイメージがとても強く、同時に「これがあのビッグクラブのスタジアムなのか」と思ったことを覚えています。 そんなオールドハイバリーは、05-06シーズンを最後に表舞台から姿を消しました。そして同じように、アンフィールドも近々その役目を終えようとしています。 リバプールに新オーナーが就任した今年2月から、新スタジアム建設計画は着実に進んでいきました。最大の目的はキャパシティの増加。しかしアンフィールドは、ハイバリーと同じく“住宅街密接型”のスタジアムのため、増改築は不可能でした。 リバプールの公式HP上で新スタジアムのデザインがお披露目になったのは7月25日。多くのメディアやファンを驚かせたその外観は、大部分がガラス張りという斬新な設計でした。現地メディアの報道などを総合すると、新スタジアムのキャパシティは6万人。鉄道などのインフラが整備されれば増築が許可され、最大で7万8000人にまで拡張できるとのことです。そしてアンフィールド自慢のコップエンド(リバプールファンが陣取るスタンド。一層式のスタンドでは世界最大)も引き継がれ、さらに大きい1万8000人収容のものになるようです。加えて屋根まで音響を考慮したものになるとのことで、アウェイのチームにさらに大きなプレッシャーがかかることは間違いないでしょう。 スタンリーパークに建つ新スタジアムがどういったものになるのかは分かりませんが、ただ一つ言えることは、また一つ外観の雰囲気が良いスタジアムがなくなってしまうということです。 アンフィールドやハイバリーをはじめ、イングランドのスタジアムの何をもって外観の雰囲気が良いのかというと、僕が感じた魅力はその“存在感のなさ”でした。 例えば、アーセナルファンにとってのハイバリースタジアムという場所は、世界中から来たサッカーファンにその存在を誇示するためのものではありませんでした。イングランドの、ロンドン北部の、ハイバリー地区の、一部の熱狂的なサポーターが集まる場所であり、ともに戦う場所。それこそスタジアムが本来持っている存在意義です。ホームスタジアムが世界中に認知される必要など、彼らにとっては少しもない。 しかしサッカーが全世界規模で発展している今、スタジアムが「街のシンボル」ではなく、「全世界のシンボル」になろうとしています。各地から国境を越えて訪れるファンに認知されたい、来てもらいたい――そう言わんばかりに、モダンでインパクトのあるスタジアムはアピールを繰り返している。そんな風に思えてなりません。 もちろん、豪華で斬新なスタジアムを建てるなということではありません。しかし、街の景観から浮きまくっている建物を、先祖代々同じスタジアムに通い続けていた熱狂的なサポーターは素直に“ホーム”と呼べるのでしょうか。そして世界中のファンは、建てられたばかりの、血の匂いも汗の匂いもしない真新しい建物に入りたくて、遠路遥々来ているのでしょうか。 アーセナル、リバプールの他にも、エバートン、ポーツマスなどがスタジアム移転を計画していると言われています。“プレミアシップバブル”とも騒がれるほど資金力を強めているイングランド勢。来シーズンもこれまで以上に我われを楽しませてくれるでしょう。しかしその資金力が、イングランドから古き良き雰囲気を持つスタジアムを奪っていってしまうかもしれないという側面も、覚えておかなければいけません。
posted by 『footballista』編集部・宇佐美裕之 |10:42 |
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