2007年06月04日
もうひとつのW杯、ドキュメンタリー映画が完成
昨年8月、W杯の熱狂さめやらぬドイツで“もうひとつのワールドカップ”が開催されたことをご存知だろうか? 16カ国の知的障害者代表チームが競い合う「INAS-FID(国際知的障害者スポーツ連盟)サッカー世界選手権」である。FIFA同様、4年に一度開催されるこのW杯には日本も参戦し、16チーム中11位という成績を収めたのだが、このほど出場した日本代表選手を追ったドキュメンタリー映画『プライド in ブルー』(中村和彦監督)が完成。7月より公開される運びとなった。 私がこの大会を知ったのは前回、2002年に日本で行われた第3回大会(初めてW杯と同年同地域の開催が実現。8月末の決勝戦には2万4670人の観衆が詰めかけた)。果たして知的障害のある選手たちがどんなサッカーをするのか。初めはどうしてもそんな考えが頭の中にあったのだが、実際に試合を見れば、その巧さと速さ、そして何といっても激しさに驚き、そんな思いはいっぺんに吹っ飛んだ。想像を超える繊細かつ荒々しいプレーに呆然。鮮やか過ぎるボールさばきとパス回し、闘争心剥き出しの選手たちの迫力に圧倒されてしまった。 それとともに、特に衝撃的だった欧州の強豪のプレーには、土地に根ざしたサッカーの豊かさというものを感じずにはいられなかった。例えば各国のスタイルには、本家同様そのお国柄が出る。恐るべきパフォーマンスを見せていたオランダは、[4-3-3]システムで運動量あるFWが前線をかき回し、高速ステップでドリブルを何度も仕掛けてくるし、ドイツはリベロを置いた3バックでとにかくトップにロングボールを入れる。スピードに優るイングランドは4バックで縦パスが主体と、絵に描いたようなイングリッシュスタイルを見せてくれるという訳だ。 日本代表は02年大会で16チーム中10位。上位国とは体格、スピード、テクニックすべてに差を見せつけられ、点差が開く試合も多かった。昨夏のドイツ大会では、本番に向け開催1年前から本格的に代表合宿をスタートさせ、「攻守の連携と連動」というテーマの下、毎月練習を重ねたという。残念ながら、本大会ではグループリーグで敗退し、11位に終わったものの、世界と互角に戦える実力と未来への可能性を、着実にレベルアップした姿で示してくれたようだ。 映画『プライド in ブルー』にはその熱戦の模様のほかに、代表選手としてプレーする喜び、思うような結果が得られない苛立ちとそれを克服しようとする姿勢、そして彼らをサポートする人々の想いなども描かれているという。何より私たちの心を揺り動かすのは、彼らの純粋なサッカーへの情熱、そして仲間を想う強いフォア・ザ・チームの精神である。 そう思うのも、以前から私はダウン症、知的障害のある子供たちのサッカークラブ「エイブルFC」と週末のサッカーを楽しむ機会を持っている。日本代表選手とは違うが、彼らとともにプレーしていても、人はなぜサッカーを好きなのか、そんな疑問への答えが直に伝わってくるのだ。特にダウン症の子供たちは、物事に固執する性格、コミュニケーション志向が強いということもあって、まずサッカーがやりたくて仕方がないという欲求があふれ出る。当然かもしれないけれど、シュートを決めれば飛び上がって喜ぶし、負ければ泣いて悔しがる。闘争本能をむき出しにして全力でボールを追い、果敢に相手に向かい、びっしょり汗をかきながら何度でも挑戦するその表情には、いつも感動させられてしまう。 今日、様々な場所で様々な人たちが障害者スポーツに取り組んでおり、また世界中にそうしたニーズがあふれているという状況にもある。サッカーを通して人々の健康と幸福を促進する、という希望が掲げられている訳だが、それは決して達成困難な夢ではないだろう。実際数え切れないほどの人々がサッカーに熱狂し、そして、それぞれが幸福を得ているはず。あらゆる分け隔てを取り除き、世界中で愛されるサッカー。そのパワーは障害という壁すらも凌駕してしまうほど大きい。
posted by 『footballista』編集部・赤荻 悠 |14:55 |
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