2009年08月30日

期待と現実のはざまで(日本代表での森本を考える)

先日、オランダ遠征(9月5日・オランダ戦、同9日・ガーナ戦)に向かうサッカー日本代表のメンバー22人が発表された。
アウェーでの試合が、予選以外でほとんど組まれない日本代表にとって、強豪国との敵地での一戦は貴重な試合でもあり、ファンにとっては心躍るものである。
注目する選手はそれぞれ違うだろうが、個人的に注目しているのは、森本の初召集だ。
以前から期待していた選手でもある。
中田英のように、最初から期待された移籍ではなかった。
若い年齢での挑戦、カターニアでじっくり成長できたことが、3年目となる昨シーズンのセリエAでの7得点、そして今回の初召集につながった。
本人の絶え間ない努力はもちろんだが、環境や周囲の理解にも恵まれたといっていいだろう。

ウェルディ時代から注目していた選手だが、今年4年目となるイタリアでの挑戦で、たくましさは増すばかりだ。
以前から常人ではない雰囲気を醸し出していたが、現在も特徴のある坊主頭、そしてふてぶてしさはすっかり実力を伴った頼もしさに変わった。
「彼ならなにかやってくれそう」そんな期待をついしてしまうFWらしいFWになったのではないか。

森本の特徴といえば、ゴール前での力強さだろう。
日本人にありがちなひ弱さは、イタリアでの4年間ですっかり払拭された。
物おじしない精神面でもそうだが、ガチガチにぶつかってくるDFにも負けない体幹の強さも手に入れた。
そして、ゴールの嗅覚とでもいうのだろうか。
FWとしての決定力を叫ばれている日本代表で、もっとも獣の匂いのするFWである。

先日の会見では、
「代表の試合は何試合か見たことがあるけど、テレビで見ていた人とやるのは不思議な感じ」
と全く実感がわかない様子で、
「簡単ではないと思うので(代表に)入る前にどうこう言っても仕方ない。入って感じてみたい」
とまっさらな状態でのスタートとなる。

「自分は試合に出てゴールすることしか考えてない」
30日のパルマ戦前のコメントを残している森本。
懸念されるのは、その起用法だ。
日本代表は全員攻撃、全員守備をコンセプトにしている。
日本のFWには、得点以外にチーム最初のDFとして期待されている部分が大きくある。
得点力よりも、そちらのほうがメインであると感じられるときもあるほどだ。
もちろん、それは大げさだろうが、求められているのは間違いない。

1年前の記憶を手繰りよせると、五輪大会での森本は1トップで先発出場した試合があったはずだ。
その試合では、森本の良さが全く出てなかったように感じる。
チェイスも中途半端であれば、ゴール前の活躍も中途半端。
「森本に1トップはあわないなぁ」と感じたのを覚えている。
記憶が確かな方は、森本の調子の悪さ、それがその時点での実力とおっしゃる方がいるかもしれない。
それには反論できない。

しかし、森本の良さは、岡田監督も、
「森本にはゴール前での決定力、フィジカルの強さを期待したい」
と言っているように、ゴール前での働き、FWとしての点取り屋の嗅覚の鋭さだろう。
それが、日本代表の求めるFWと果たしてマッチするのかどうか、不安なところである。
森本はまだ若い。
セリエAでのゆっくりとだが、着実に成長した日々のように、この日本代表での結果が、どのようなものでも大きな経験となることは間違いない。
しかし、その本人だけの経験よりも、やはり激しくゴールに迫る森本を見てみたいのは、熱烈なファンである自分だけだろうか。

最近、ワントップの布陣を試している日本だが、今回はどうなるのだろうか。
もし、1トップで森本が出場ということになるなら、その良さは残念ながら100%発揮されることはないのではないか。
日本代表の戦術、フォーメーションに合わせるのは、代表選手であるから当たり前のところではあるが、森本にはその戦術以上にシンプルなものを求めてしまう。
それは、「得点」だ。
どんな形でもいい、むしろ泥臭いほうがいい。
その形を期待するのであれば、森本のよさを活かすのであれば、2トップで前線からボールをチェイスする役を森本以外にすることだろうか。
森本にはゴール前で頑張ってもらう。
これが一番活きる形だ。

イタリアでの試合は逐一確認できていないが、セリエAでも、激しく前線からボールをチェイスする役割は与えられていないはずだ。
その役割が得意なわけでもないだろう。
そうすることで、森本のよさが消えてしまうのが怖い。

お笑いの方もいよう。
森本が先発で出れるかどうかも分からないのに、と。
3戦連続得点と、絶好調の玉田もいることだし、と。
おそらく、そういった見方が正しいのかもしれない。
これは、自分の森本への熱烈な期待から出てきた願望だからだ。
ただ、それほど期待させるなにかを持っている選手だということを、否定する人は少ないだろう。
89分消えててもいい、1分の輝きさえあれば。
エゴイスティックなFWの誇りを見せてくれそうな、過度な期待をしてしまう。

はたして、日本代表でマッチすることができるか。
森本なら、きっとアウェーだろうが、強豪国の強いDFでも物おじせず、自分のプレーを発揮することができるだろう。
「日本のロナウド」といった風貌だが、「ワンダーボーイ」となって、世界を驚かせる得点シーンを見ることができれば、こんなうれしいことはない。
期待と現実のはざまで、いったい森本はどういったプレーを見せてくれるだろうか。
単純に期待感から、岡崎・森本の2トップは見てみたいところだ。
泥臭く、ひたむきなプレーこそ日本代表にふさわしい。
がんばれ森本、そして日本代表!

posted by ballgame |23:48 | サッカー | コメント(4) | トラックバック(0)
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2009年08月29日

ある天才達の軌跡(高橋由の決断で想う)

1998年、その選手を見た時のインパクトの強烈さは、近年まで色褪せず、またルーキーでそれを塗り替えるような選手は未だ出てきていない。
右足を高く上げるバッティングフォーム。
それでいて、タイミングの取り方は抜群で、崩されることは少ない。
初球から捉える積極性は、外国人選手以上だ。
守備もいい。
足も速いが、なにしろ肩がめっぽういい。
同年代に川上(現ブレーブス)がいたため、新人王をとれなかったが、それでもその功績、インパクトは光を放っている。
すごい選手が現れた…これで巨人は10年間外野に困ることはない。
その当時、それほどの巨人ファンではなくなっていた自分でも、うらやましく、そしてスターの出現にわくわくした。
もちろん、個人個人の好みはあるが、自分と同じように思った方も少なくはないだろう。

先日(28日)、1軍に復帰したばかりの高橋由。
今季1軍での初プレーは阪神戦、代打での登場となった(結果は三振)。
その結果のせいではないだろうが、翌日の今日(29日)、高橋由は慢性的な腰痛を取り除くため、手術を受けることを決めた。
「ここまでやってきたが、腰が良くない状態になっている。2軍の試合に出る前から、コンディションが上がってこなければ、そういう方向(手術)になると考えていた」
と、高橋由はコメントしている。
優勝への最終兵器ともいわれていた高橋由だが、結局1日限りの復帰となった。

これで今シーズン絶望となったが、この決断は本人にとって良いものとなるだろう。
そしてチームにとってもだ。
若手の成長もあり、今の高橋由のポジションは確定されていない。
最近の2軍での守備も、ファーストへのコンバートも検討されていたほどだ。
中日が猛烈に追い上げてきているとはいえ、直接対決で退けた巨人。
去年の例もあり、優勝は確定とはいえないが、限りなく近いポジションにいる。
今の好調なチーム状況で、高橋由不在の中、チームはここまで突っ走っている状態だ。
高橋由の復帰は、戦力アップにつながるとはいえ、正直にいえば、いなくても問題のない存在だ。
ならば、本人のため、来年以降のチームのため、完全な体に治すのがお互いにとって最良の決断だろう。

どこまで伸びるのだろう、と巨人ファンのみならず、野球ファンの期待を集めていた高橋由。
順調に好成績を残してはいるのだが、今一つ物足りない印象ではないだろうか。
それもそのはず、彼は怪我が多い。
全力プレーの証かもしれないが、フェンスへの接触による怪我のインパクトが強烈だ。
それ以外にもダイビングキャッチでわき腹、右肩を痛めたり。
2007年を除けば出場試合は100数試合にとどまっている。
2005年以降は特に怪我が目立ち、2008年に4年総額16億円(推定)の大型計画を結んだ後、腰痛に苦しんだのは皮肉ともいえるだろう。
ひょっとすると、日本を代表する選手になるかも…と途方もない夢を抱かせてくれた選手だけに、並の(スター)選手になってしまった失望感は大きい。
引退間近の年齢でもない彼に、こういうのは失礼なことだ。
ただ、期待したプレーを見ることができないもどかしさはどうしても感じてしまう。
例えるなら、クリスマスプレゼントの豪華な包装用紙で「あ、ほしいものを買ってくれた」と期待してあけたら、同じ店のものだが、中身が微妙に違っていたというところだろうか。
それとも、期待通りの品物なのだが、すぐ電池が切れてしまう、すぐ壊れてしまうといった微妙な不満を感じるようなところだろうか。

高橋由を見ると、もう一人の天才を思わずにはいられない。
彼の名は、広島の前田智だ。
自分の中では、今まで見てきた選手で「すごい!」と心から思う選手である。
彼こそまさしく天才だ。
天才であり、職人でもある。
その才能は、イチローよりも上なのではないかと思ってしまう。
多くの野球関係者も認める選手。
彼の性格・語る言葉もまたすばらしいものなのだが、今日は多くは語るまい。

その前田智も両足のアキレス腱を切ってしまう大怪我をして以降、素晴らしい成績を残しているが、どこか物足りないところを感じる。
前田智本人も「(アキレス腱の怪我で)前田は死んだんです」という過激な言葉を残している通り、思い通りのプレーができないもどかしさを感じていることは間違いない。
それでいて、毎年3割を超えるような成績を残してきたのだから、怪我さえなければ…と思わずにはいられない選手だ。

もちろん、怪我をしようと思ってする選手はいないのだから、そのこと自体を責めるつもりは全くない。
責めるとすれば、その運命の過酷さだろう。
時代が時代なら、そして万全の体調でMLBで活躍する姿を見てみたかった選手である。
前田智のMLBでのプレーは、そのスタイルから、アメリカの野球ファンに「日本のサムライ!」として強烈な印象を残したであろう。
そんな夢を感じさせてくれる稀有な選手。

高橋由も似ていないだろうか。
怪我の個所や程度こそ違え、全力でプレーする機会が減ってしまったこと、それでも見ているものをわくわくさせる才能のきらめきは誰にも負けないこと。
今の高橋由を見ていると、前田智の姿が重なってくる。
前田智のほうが上だ、高橋由のほうが長打力がある、などファンの方々によって想いは違うだろう。
ただ、この二人の天才には共通する哀愁のような影を感じてしまうのは、自分だけだろうか。

高橋由で日本の天才、前田智を思い出せば、必然的にMLBで活躍している天才に触れないわけにいかないだろう。
そう、イチローだ。
イチローも現在、ふくらはぎの痛みで試合を欠場しているが、それを除けば(開幕の胃潰瘍もあるが)、日本より試合数の多いMLBで、ほぼ休まず出場を果たしている。
持っている才能、努力を図ることはできないが、彼ら3人を見つめると、名選手たるものの条件が浮かぶように感じる。
名選手たるもの、「いかに試合に出続けることができるか」
「無事是名馬」という言葉もある。
これは偉大な記録を残すこと、ファンからの期待・声援などに負けない、大きな条件ではないだろうか。
試合に出続けることはチームから必要とされているからである。
そして、出場し続けることで、ファンの期待にもこたえているということである。

想像してほしい。
田舎に住んでいる親子、子供の夏休みに合わせてはるばる電車に揺られて、あこがれのチーム、あこがれのあの選手の応援に来た。
電車の中で食べた駅弁はおいしかったし、トンネルをくぐるたびに、見える風景はくるくるかわり、キラキラした海や見たこともない大きな山々。
それもこれも楽しかったけど、やっぱり楽しみは…といさんで球場に入ると、あこがれのあの選手はベンチに座ったまま…。
今度はいつ来れるか分からない、ひょっとすると大人になるまでもう来れないかもしれない。
選手にとっては長いシーズンの中での1試合だが、その親子にとっては大切な1試合だ。
その大切な1試合でも、あの選手はいつもと同じ、素晴らしいプレーを見せてくれる。

これが名選手の条件に入らないわけがない。
プロである以上、試合に出続け、最高のパフォーマンスをファンに見せ続けることが必要である。
それを長年続けてきているイチローは素晴らしいと思うし、MLBの選手達からも尊敬される所以であろう。
だからといって、高橋由が駄目だとは言えないし、思わない。
そこには、一抹の寂しさ、歯がゆさを感じるだけだ。

1998年に感じた目を細めるほどのまばゆい光は、まだ高橋由の中で変わらない輝きを放っているはずだ。
今一度、体を万全に戻して、来年の活躍を期待したい。
まだまだ彼のプレーを見たいと思っているファンは多い。
熾烈なポジション争いからになるだろうし、甘くない戦いとなるのは間違いないだろうが。
しかし、手術に踏み切った決断はきっと吉となるはずだ。
まずは…手術がうまくいきますように。
一人の野球ファンとして願う。

posted by ballgame |23:43 | プロ野球 | コメント(13) | トラックバック(0)
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2009年08月27日

勝利より大きいものを賭けて(松坂復帰間近)

3-0、応援するチーム(レッドソックスでもマリナーズでも頭に浮かんだチームなら)は勝っている。
先発投手も安定していて、これまで無四球、安打はわずかに2本しか打たれてない。
そのヒットも飛んだところが良かったようなヒットで、完璧にとらえられたというのはなかっただろう。
これなら安心して見られる。
セブンイニングストレッチもおわり、7回裏もあっさり1アウト。
今日はもらったな…ん、監督が出てきたぞ。
マウンドに行き、投手交代。。。

松坂は先日25日、2か月ぶりにチームに合流した。
復帰に向けて、いよいよカウントダウンが始まった。
予定では、2度目のマイナー登板は29日の2A戦、9月3日に3Aでマイナーでの最終登板を経て、9月8日のメジャー復帰に備えるということらしい。
この2か月、絞りに絞った松坂は、本人いわく「顔から痩せる」という言葉通り、精悍な顔つきをしていた。
それでも、太ももは以前よりも太くなったということだから、今回のミニキャンプ(?)は大成功だったと言っていいだろう。
一部メディアの記事から「球団批判」をしたという騒動もあり、決して順風だけではなかった調整は、結果的に「雨降って地固まる」。
松坂にとって得たものは、体の切れや球の勢いだけでなく、もっと大きいものだった。

松坂の復帰は、自身の信頼回復の他に、もっと大きいものがかかっている。
レッドソックスの優勝に向けてのチームの勝利?
もちろんそうだ。
救世主、ムードメーカーとしての役割?
地区優勝が厳しくなった今、ワイルドカードでのプレイオフ進出に向けて、勢いをつけたいチームには欠かせないところだろう。
先発ローテーションとして、シーズン最後まで投げ抜くこと?
それは出来て当然という目で見られているだろう。

松坂は、首脳陣との確執はあったが、結果的に自分の要望が受け入れられた。
それは日本時代のように、投げ込みで体を作りたいということだ。
8月17日に130球程の投げ込み。
松坂自身「MLBで初めて」と語るこの試みができたのは非常に心強い。
「高校時代から『楽をして投げるな』と言われた。太ももや下半身が張り、いい感覚の疲れがあった」
と語る松坂は、この感覚もMLBに来て初めての感覚であり、慣れ親しんだ心地よさを感じたことだろう。
それ以後も、5日連続キャッチボールをしたり、外野で50Mの遠投の後、25分間のほぼ全力での立ち投げ(捕手が)を行ったりしている。
MLBの中でも、チームの方針が厳しいと思われるレッドソックスでの球数制限の緩和。
いかに松坂に対する期待が大きいか、そして信頼されているかの証でもあるだろう。

松坂の復帰には、チームも、ファンも大きな期待を寄せている。
最初から勝つことが当たり前と思われているだろうし、救世主としてチームに勢いをつけてもらいたいと信じられている。
しかし、松坂はこれだけに挑戦するわけではない。
もっと大きなもの、それは「日本の野球界の常識」ではないだろうか。
言い換えれば、「MLBにおける常識の打破」である。

冒頭で述べたのは、以前見ていた試合で実際にあったことだ。
点差は定かではないが、確かにこういう場面はあった。
みなさんも観戦した試合で、1度ならず経験しているだろう。
なぜこんなところで、この試合の流れで変える必要ないじゃないか、せめてこの回が終わるまででも。。。
MLBは球数制限が厳しい。
中4日でローテーションをする関係上、仕方のない部分も多いだろうが、まるで機械のようにきっちりとした投手交代だ。
野球ゲームで、体力のゲージがなくなったようなデジタル的なところを感じる。
試合の流れをぶつ切りにする投手交代が多い。
日本で育った自分は違和感を覚える。

しかし、それを打破するチャンスが生まれた。
それが今回の松坂だ。
松坂はレッドソックスのやり方を変えさせ、復帰に向けてチャレンジしている。
これで結果が出たら、松坂のやり方が他の日本人に、ひいては他の投手に引き継がれるかもしれない。
もし、失敗すれば…今後は松坂の、日本流の調整法は根絶やしにされ、認められることはないだろう。
チームの勝利、松坂の信頼の証明以外に、ひょっとすると今後のMLBでの日本人投手の活躍がかかる大きな挑戦を引き受けることになったのだ。
松坂自身も、おそらく意識はしていないが、この大きなチャレンジのことが心のかたすみに絶対にあるはずだ。
チームの勝利以上に大きなものがかかっていることを。
だからこそ、松坂はMLB復帰戦は必ず勝たなければならない。
それも、有無を言わせない圧倒的な投球でだ。

かなり古い記事だが、面白いコラムを見つけたので紹介したい。
史上最多7度のノーヒットノーランを誇るかのノーラン・ライアンが、去年、テキサス・レンジャースの球団社長に就任した。
ライアンはリトルリーグにまでおよぶ球数制限に疑義を呈し、「球数を気にして、投手が本来持っていたスタミナを奪っている。失ったものを取り戻さないと」と語っているそうだ。

(上田哲之「プロ野球哲学」から)
http://www.ninomiyasports.com/sc/modules/bulletin/article.php?storyid=2652

あの火の玉投手であるライアンが言っているのが面白く、信憑性がある。
なにせ、本人は40歳をはるかに過ぎても活躍した投手なのだから。
(日本では、年をとっても速い球を投げる、村田(元ロッテ)や大野(元広島)をイメージすればよいだろうか)
この流れが主流となるかどうかは、知らず知らずのうちに、そのトレーニングが主流の島国から来た投手の出来にかかることになった。
松坂の復帰戦は、想像以上に重いものを背負っている。
しかし、松坂に限らず、スター選手は挑戦すべきものがあると目を輝かせる。
きっと、「望むところ!」と気合が入ることだろう。
そしてあっさり証明してしまうのかもしれない。

7回裏、100球前後になったことで好投していた先発投手(多分レッドソックスのレスターだった)が退いた。
変わった投手が同点に追いつかれ、次の回に逆転を許していた。
「if」投げていれば…は言っても仕方ないが、それほど相手チームはこの先発投手に苦しんでいた。
日本ならば、そのまま8回までは投げ、そのまま完封(完投)するか、9回を抑えに任せるような展開だろう。
流れを大切にする日本、球数をメインに考えるMLB。

「MLBの常識の打破」はなるだろうか?
「日本の常識をMLBに浸透」させることはできるだろうか?
大げさかもしれないが、そう考えると、松坂の復帰は今までの登板より、想像以上に楽しみになる。
日本での試合になじみがあり、勢いが試合を支配しやすい高校野球が終わったばかりということもあるが、試合をぶつ切りにするような投手交代はあまり見たくないなぁと思ってしまう。
稀代の数学者のように、新たな公式の証明なるか。
がんばれ、松坂!

posted by ballgame |23:46 | MLB | コメント(5) | トラックバック(0)
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2009年08月26日

怪我は吉兆?(イチローの欠場)

毎日観ていたものがないと、なにかふっと不安になり、さみしくなる。
例えば、先日まで行われていた甲子園。
もっと身近なところだと、毎朝行っているコーヒーショップでのあの子の素敵な笑顔。
通勤途中、いつもの車両のあの席で寝ているおじさん。
帰宅途中で、角を曲がると聞こえるピアノの音など。
人は変わらないことに、安心感を覚えやすいものだ。

イチローが左のふくらはぎに張りを感じ、途中交代したのは23日(日本時間)。
クロスプレーやフェンスへ激突などのアクシデントではなく、あくまで自分の感覚にしたがっての交代だ。
それから2試合連続欠場をしている。
打席に入る前の屈伸、バットを前に差し出し、ほっぺを膨らませる姿。
守備の時、ランナー2塁でライト前にヒットが飛ぶとなぜか止まらないわくわく感。
すべてあるのが当たり前だと思っていたものがなくなる寂しさを感じている方も多いのではないだろうか。
当たり前にあるのがなくなるのは、いつでも急なことだ。
永遠にそこにあると思っているのだから。

開幕時、胃潰瘍で8試合欠場して以来の欠場となるイチロー。
当初、マスコミの間では長期欠場の不安を挙げる記事も出たが、これはいつものこと。
マスコミを避けていたことで書かれた記事だろうが、長期欠場と書かれたらいい気はしない。
とはいえ、一抹の不安を感じていたが、イチローは怪我の原因を「ボルトに走り方を教わる夢を見て、そのイメージで走ってたからかな」とジョークを交わしたことから、良化していることは確実だ。
イチローは、「(試合を休むのは24日から)3日で、と思っている」とし、27日(日本時間28日)のロイヤルズ戦からの復帰について「走ることができれば(大丈夫)」と話したそうだ。
ワカマツ監督も「本人はすぐにでもプレーしたがっているようだが、復帰はバッティングと走ることができるようになってからと考えている。いつまでに戻れば、という期限も設けていない」と具体的な予定を明らかにはしなかったらしい。

MLBでのプレーが9年目になるが、その間大きな怪我がなく過ごしてきたイチローだ。
途中で退いたのは、長引きそうな大きな怪我になるのを防ごうという、用心深さからだ。
MLBで一番と言っていいほど、体のケアには気をつけていた選手だけに、自分の体との会話はしっかりできているだろう。
また、残念ながら無理をするようなチーム事情ではなくなってきつつあるだけに、イチロー・ワカマツ監督の「走ることができれば」という意見には、うなずくばかりだ。
DHだけというわけにもいかないだろうし(他の選手との兼ね合いもあるだろう)、第一イチローらしくない。

イチローの怪我の原因はいろいろあるだろう。
短絡的に考えれば、「イチローもそんな年齢か…」ということではないだろうか。
たしかに、その影響はあるだろう。
今年36歳を迎え、一般的にはベテランの域に入ってきたといっていい。
これからは、こういった場面が増えるかもしれないし、応援するファンも慣れる必要があるかもしれない。

しかし、果たしてそうだろうか。
今まで、常識をひっくり返し続けた彼を、普通の選手として見ていいのだろうか。
そうは思わない。
今シーズンのイチローは、今までのシーズンと明らかに違うと感じた方はおそらく多いだろう。
もちろん、毎年進化し続けるイチローだが、今年はその進化(変化)が異質に感じられる。
シーズン前半からの好調さの維持、そしてチームの好調さも相まって、攻走守それぞれの場面での目つきは、あきらかに鋭さを増していた。
そして、今まで以上に1プレーごとの、鬼気迫るといっていいような集中力。

きっとイチローは、1ランク上のステージに立ったのだと言える。
毎日自分の出来ることをこつこつ行うことで、プロとしての役割を果たし、成長し続けたイチロー。
だが、今年は数段抜かしで、階段を駆け上がったように感じる。
その影響を与えたのは、WBCでの経験が大きくかかわっている。
イチローはWBCで、明らかに不調であり、チームの力になれずにいた。
そんな状況でも、勝ち進んでいった日本チーム。
そして、その中で迎えた韓国との決勝、最終回の勝ち越しの打席だ。

イチローの眼はそれまでの打席と明らかに違っていた。
投げ込まれた球に食らいつくうちに、スイングは鋭くなり、イチローは無意識にボールを追いかけ始め、期待感は増していった。
今でも目を閉じると思いだされる優勝を決めたタイムリーヒットにつながる。
WBCの不振で、イチローはチームメイトに頼ってもいいことを改めて感じた。
そして、その逆の感情でもある「自分が打たなきゃ」という今までのプロ意識がうまく合致した時、新たな扉が開いた。
それがWBC戦であり、今年のマリナーズでの戦いにつながっていると思う。
好調を維持するというよりも、それが当たり前に感じるような高い次元でのプレーは去年までと比べて、今までにない負担を体にかけてきた。
その負担が、イチローでさえ対応できないほどの変化を体に与え、それが今回のふくらはぎの違和感につながったのだと思う。

イチローが欠場したのは2試合だ。
他のMLB選手ではおかしいとは思わない欠場数だが、彼だからこそ寂しさを感じる。
しかし、寂しさを感じることはない。
これは、今年イチローが見せる高いパフォーマンスの副作用なのだ。
今は体をいたわりながら、この状態を完全に自分のものとすることを考え、実行しているだろう。
そして来年は、今年の「はっきり目に見える進化」を当たり前のものとし、さらなる成長を見せてくれるだろう。
ひょっとすると、復帰後すぐにでも見られるかもしれない。
それが、イチローの持っているプロ意識である。

そう考えると、イチローの欠場を喜んではいけないが、悲しむべきことだけではないのかもしれない。
いつも見ることのできる安心感もいいが、その存在も気付かないだけで、日々変わっていくものだ。
変化を恐れてはいけない。

復帰後、どんなプレーを見せてくれるだろう。
イチローの復帰を首を長くして待ち望む。
そして、あの大記録に…。
がんばれ、イチロー!

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2009年08月25日

届かない声、裏切り続けられた期待(甲子園を振り返る)

昨日と変わらない日差しが照りつける夏の1日。
なにか違う。
なにか物足りない。
甲子園での夏の戦いが終わると感じるこの倦怠感。
いつもの日常に戻るには、1日では足りないのかもしれない。
今年の甲子園は特に。

大会2日目、雨で2日連続ノーゲームとなり、波乱を感じさせるスタートを切った今年の高校野球。
そう感じた方も多いであろう。
その予感通り、今大会はとても順当とはいえないのではないだろうか。

試合結果を見ると、
9回または延長での逆転(勝ち越し):12(うちサヨナラ5)
8回の逆転(勝ち越し):3
甲子園での試合数は48試合だから、およそ3分の1は8回以降に試合が動いたということになる。
すべての試合を見たわけではないし、去年のデータとの比較もしていないが、ドラマティックな展開が多かったと言っていいだろう。
もちろん、後半で試合が動いたからといって、その試合が好ゲームとは限らないだろう。
しかし、自分が観戦した試合数は決して多くないが、それでも観ることのできた試合で外れは少なかった。
むしろ、どちらのチームにも思い入れがない(例えば今住んでいる県だとか地元だとか)フラットな試合でも、いつのまにか拳をぎゅっと握っている好ゲームが多かったように思う。
ついていた部分もあったであろうが、この異常ともいえる終盤での試合の変化が、今年の甲子園を盛り上げたきっかけとなったであろう。

今年の甲子園は、野球の格言にあまりに忠実だったのも印象に残る。
「チャンスの後にピンチあり」
「投手の変わりばなを狙え」
「四球(死球)の後の初球を狙え」
「野球はツーアウトから」
などなど。
精神的にまだ成熟していない高校生同士の試合だ。
自分達が普段見るプロ野球やMLBの試合と比べると、選手達の動揺や勢いといった心のブレはかなり大きい。
観客でさえ、はっきりと目に見える程である。
それゆえに、信じられないエラーや図ったような逆転劇を数多く目にした。
特に、「ピンチを抑えた後」または「エラーをした後」の得点は、長年観てきた高校野球でも、かなり目立っていた。
何度、アナウンサーが「ピンチの後に…」というセリフを言っただろうか。
それがことごとく当たる。

メンタルの面で行けば、投手交代の失敗も目立った。
回の途中での投手交代。
つまりピンチの場面、ランナーがいる場面での交代だ。
これのほとんどが失敗する。
勢いのついた相手チームを抑えるには、中継ぎを専門とする投手など役割として存在しない高校野球では難しいのだろう。
投手交代に限らず、この心の動揺、動きが高校野球を面白くしている要因の一つだ。

そして最後に、今年の甲子園を振り返る中で欠かせないこと。
それは「観客の声が届かなかったこと」である。
思い出してほしい。
毎年というわけではないが、準々決勝くらいまでチーム数が絞られてくると、今年の「勝たせたいチーム」「注目しているチーム」が出てくる。
2年前の佐賀北しかり、斎藤がいた早稲田実、古くは駒大苫小牧や松坂のいた横浜などだ。
その観客の声が、しっかりチームを後押しし、信じられない力を与えてきた。
それがドラマティックな展開を生み、伝説となる一戦が後世に残る。
野球の神様はその声に忠実だったし、甲子園で頂点を勝ち取るチームは、ほとんどが観客の期待通りのチームだと言っていいのかもしれない。
みんなが期待すれば、その通りになる夢の場所。
非日常的なことが常識となる、それが甲子園というところだ。

その意味で行けば、優勝チームは日本文理であったり、花巻東だったりするはずだ。
少なくとも、自分は日本文理対花巻東であればと願っていたし、周りの人も少なくない人数が期待していた。
決して中京大中京をけなしているわけではない。
こうした声なき声、声なき期待を押しのけて優勝した中京大中京は、前評判以上に強いチームだということである。
ただし、観客の無邪気な期待を背負っていたのは、前述した2チームである。

今年の甲子園はおかしかった。
よほど野球の神様は、虫の居所が悪かったのであろうか。
決勝での、あれほどの追い上げをしたにも関わらず、逆転までいかなかった展開。
そして、準々決勝(花巻東対明豊)での試合の流れからは信じられない花巻東の同点、逆転劇。
あの試合、勢いは完全に明豊だった。
甲子園全体を味方にしていたのは、結果的に負けたチームだった。
ここまで、「観客の声が届かない」甲子園は珍しい。


ここまでは、今年の高校野球全体を振り返ってきたが、どうしても振り返りたいチームがある。
それは、ずっと追いかけてきた花巻東だ。
自分の思い入れがこもっているので、あわない方はどうぞ流してください。
「?」と首をかしげる方もあろうが、どうぞご容赦ください。

夏の甲子園、自分の心は花巻東が占めていた。
優勝旗が白河の関を越える、これは東北出身の野球ファンの夢であり、大げさにいえば悲願といっていい。
センバツでの準優勝から過度の期待を一身に集めていた花巻東。
センバツ優勝校の清峰でさえ、予選突破できなかった中、しっかり甲子園までたどり着いた。
いやがうえでも期待が高まる。
第一、ここ数年で大会前から優勝候補として挙がっていることなどなかったのだから。
チャンスの女神は、前髪をしっかりつかんでぶるんぶるん振り回さなければならない。
今年が最大のチャンスだと思っていた方は多いはずだ。

その花巻東は、緒戦から厳しい組み合わせに入った。
まるで野球の神様の意図が感じられるような試練だ。
1回戦、3本塁打を打たれながら、8回の逆転劇を見せ、今大会NO.1のゲームと思われた長崎日大戦。
長崎日大はセンバツで夢を砕かれた清峰を破ったチームでもあった。
2回戦、監督の師弟対決となった横浜隼人戦。
3回戦、白河の関を越えようとする、東北勢同士の対決となった東北戦。
準決勝、菊池の降板から逆転を許すも、信じられない同点、逆転劇を見せた明豊戦。
センバツでのリベンジの思いを打ち砕いた試合でもあり、長崎日大戦を上回る、甲子園の歴史に残る試合だった。(好みもあろうが、今大会NO.1は決勝よりもこの試合を推したい)

勝ち進んできた試合は、すべてドラマがあり、その度に予想をはるかに上回るエンディングを見せてきた。
期待を裏切り続けた試合内容で、希望通りに勝ち進んできた花巻東。
勝ち進むごとに、甲子園に今後も残る好試合を繰り広げ、応援する観客も増えていく。
期待が期待を呼び、甲子園全体をホーム化していった。
一塁ベースを越えても、止まらない全力疾走。
最後まであきらめない精神、そしてベンチでの表情や必死の応援。
まさに、選手達が一つのチームという生き物になっていた。
準決勝で負けてしまったが、今でも自分の中では、甲子園で一番輝いていたチームだと確信している。

前回のブログで頂いたコメントでこういうものがあった。
「因縁から解き放たれた先の最大の関門が中京大中京戦…」
結果的にその通りとなってしまった。
まさか、ドラマ性がなければ勝ち進めなかったわけではないだろうが、全否定できるものではないだろう。

花巻東の終焉となったこの試合、残念ながら観戦することができなかった。
負けたから書かなかったわけでなく、伝える言葉がなかったからだ。
負けたことよりも、最後の試合を実際に目に焼き付けることが出来なかったことが悔しい。

準決勝、それまでの花巻東から想像できないほど、あっけない完敗はやはり菊池の怪我がすべてだろう。
「やはり花巻東は菊池がいないと…」という人は、もういないだろう。
もしそのような方がいたら、確実に1試合も観ていない人だ。

確かに負けた原因は菊池が登板できなかった(わずかに登板はしたが、数には入れないでおこう)ことだ。
なぜあれほど完敗してしまったのか。
それは、やはり花巻東は菊池を中心としたチームだったからだ。
菊池に頼らないチームということと矛盾しているようだが、そうではない。
確かに、この夏の大会は菊池の投球というより、チームの総合力で勝ってきた試合が多い。
しかし、負けていてもあきらめない底力は、菊池がいるということが支えているものだ。

準々決勝、明豊との一戦も菊池は降板している。
しかし、あの歴史に残る逆転劇は、「途中降板してしまった菊池を、なんとか準決勝へ」というチームの思いが生んだものだ。
準決勝の中京大中京戦はどうだろう。
きっと、花巻東の選手達は「菊池はこの試合に出れない」と試合前にわかっていた。
今までのようにベンチに控えているが、いつでもでてこれるという安心感がない。

最初からいなければ期待しない。
しかし、菊池を含めて花巻東というチームである。
それでここまで勝ち進んできた、今までやってきた精神的主柱だった選手が出れないのだ。
江川のような、ばらばらのチーム状態ではない。
準決勝での松坂のように、疲労で休んでいるわけでもない。
前々からわかっていたわけではなく、無理させないための登板回避でもない。
その唐突さが、ぽかっと選手達の心に穴が開いてしまったのだ。
でなければ、花巻東の珍しいスクイズミスにつながったり、4回の大量失点につながらない。
結局、選手達は菊池と一緒に試合に「出たかった」のだ。
ひょっとすると、それは優勝旗を得るよりも強い願いだったのかもしれない。
うまく表現できないが、そうでなければ、あの完敗は説明がつかない。
やはり準決勝、花巻東は一つのチームにはなり得なかったのだろう。

ここまでドラマ性を感じさせてくれた花巻東。
東北勢初の優勝ということを除いても、甲子園で最後に喜びを表すチームになってほしかった。
その資格も十分にあった。
選手同士のプレーの質の高さ、懸命さ、一体さは他チームとの明らかな差となって表れた場合もあるほどだ。

白河の関はそれほど険しいのだろうか。
今回の花巻東ほどのチームが勝てないとなると、なにか絶望に似たものを感じてしまう。
いや、それは悲観的な見方なのだろう。
きっと同じように観ていて、「今度は自分達の番だ!」と燃えている頼もしい選手達が続くはず。
挑戦し続けることでしか、夢はかなわないのだから。


それに慣れるには、まだ時間がかかるのだろうか。
届かない声、裏切り続けられた期待(よくも悪くも)が目立った夏の大会だった。
いつもは思わないが、梅雨明けが遅かったせいだろうか。
今年は甲子園が終わると、もう秋が近いと感じてしまう。。。

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2009年08月24日

格言に素直(高校野球決勝、中京大中京対日本文理)

9回2死ランナー無し、点差は6点。
これがもし、プロ野球ならどうだろう。
きっと、最終回が始まる前から帰路につく観客も多いだろう。
階段に吸い込まれる肩を落とした長い列、時計にちらちら目をやる観客が多い。
つい先程までは、チャンスやピンチに、一つの生き物のように動いていたスタジアムは、外野席以外はぽつぽつと絵の具を垂らしたよう。
試合開始前、輝いていた瞳はぼんやりと試合を眺めるか、出口を探しているかもしれない。

サッカーと違い野球は、残り時間の少ない(例えば9回)状況で点差がいかに離れていても、逆転出来るスポーツである。
そこが魅力的なところだ。
それを信じて、声を上げ、または指を組んで祈る。
ただ、期待できる一般的な点差は、3・4点といったところだろうか。
満塁ホームランで逆転(同点)できる点差だ。

ここまで書いたことは、一般的な出来事であり、平均的な考えだ。
しかし、この時期の甲子園には、こんな常識的な答えはあり得ない。
非日常的なことが、当たり前になる。
まず、高校生達がこんなに長い間、話題を独占することなど、この時期のこの空間しか起こり得ない異質な場所ではないか。
特に今年の甲子園は。


9回表、6点差で中京大中京はエースの堂林を再びマウンドへ挙げる。
いい方は悪いが、堂林へのご褒美のようなものだ。
大きな歓声。
そしてツーアウト。
日本文理を応援する生徒、ファンだけがあきらめない。
いや、応援している立場でも半分以上は、「これは…」と思っていたことだろう。
この状況では仕方がない。
逆に、信じていられるほう方が素晴らしいことなのだ。
ただ、信じていた人達は知っていたのかもしれない。
今年の甲子園は、野球の格言に正直なことを。
「野球はツーアウトから…」

フルカウントから四球を選び、盗塁を決める。
2死2塁。
なんとか一矢を報いてくれ、報いさせてあげたい。
多くの観客が思ったことは間違いない。
そして、思ったことが現実化するのも、この大会である。
次打者もフルカウントから、タイムリー二塁打。
1点返した日本文理。

「よかった、頑張った、0で終わるよりは…」
5点差になったというよりは、1点返したといった表現があっている。
そんなざわめき、小さな希望の声が、今まで眠っていた野球の神様を目覚めさせた。
信じられないサードファールフライのエラー。
公式には打球に触ってないから、エラーはつかないのかもしれない。
太陽に目が入ったというレベルではない、なにか異質な打球の見失い方をしていた。
その後の動揺がもろに出た死球。

こうなるともう投手交代しても、止められない。
ランナーがたまり、タイムリー。
その繰り返しで、あれよあれよという間に1点差となる。
まず甲子園全体で、個人選手の名前が出る応援、一体となった手拍子など、なかなか起こるものではない。
まるでコンサートで、アンコールをする観客のようだ。

2死1、3塁で1点差だ。
ここまでの軌跡を考えたら、あとはたやすいもの。
快音を残した強烈な打球は、甲子園を覆う期待をかなえる一打…となるはずだった。
それは何かの手違いのように、サードのグラブにすっぽりと入った。


生きた心地はしなかったであろう中京大中京。
なんと、今回の優勝で夏の大会7勝目となった。
東北生まれの自分は、まだ優勝旗が白河の関を越えてないという思いが強いため、自然と日本文理を応援していた。
東北とは隣の県、そして長い間、甲子園での低迷が続いていた県である。
今回の挑戦は、今までの東北の出場チームとかぶってくる思いがあった。
東北生まれはないにしろ、今回は心情的に、日本文理に勝ってほしい、そういう方は以外と多かったのではないだろうか。

そうした相手チームへの、かすかではあるが期待というものは、中京大中京の選手達は敏感に感じ取っていたはずだ。
なにせ、甲子園で優勝するチームである。
連戦の中、成長するような感受性豊かなチームでなければ、頂点に立つことは難しい。
例えるなら、寝つけたかと思った時の蚊の音のように聞こえてくる外野の声を封印し、そして厳しいブロック(組み合わせ)を勝ち進んだ中京大中京は優勝するにふさわしいチームだ。
対戦相手を見ると、2回戦の関西学院、準決勝の花巻東、そして今日の日本文理である。
どうしても、中京大中京はアウェーの環境、特に高校野球では不利に働く事が多い。
それに負けず、ことごとく打ち破ってきた中京大中京は、歴代の優勝チームと比べても、遜色がない実力といえるだろう。

新潟の日本文理。
1回戦の藤井学園寒川(香川)に逆転勝ちし、夏の大会初勝利を挙げた後、快進撃はとどまらず決勝まで進んできた。
大会のダークホースというと失礼だが、台風の目だったことは間違いない。
この勢い、流れからいっても、背中を後押しされ、優勝を勝ち取ってもおかしくなかった。
決勝を見ても、ラッキーチームとして上がってきたのではなく、しっかりとした実力を証明した。
特に打線のつながりは驚異的だった。
だからこそ、もう一歩という残念さは感じてしまう。

いや、残念だと思っているのは一瞬にするべきだ。
なぜか?
それはこの記事を見れば明らかになる。
ぜひご覧いただきたい。
「高校野球・健闘をたたえ合う両エースの堂林と伊藤の写真」
(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090824-00000048-jijp-spo.view-000)

どちらの選手(チーム)が勝ったのかわからないほどの笑顔。
多くの言葉はいらない。
これが高校野球なのだろう。
執念や因縁、期待など、どろどろしたものは試合後にはすっかり流されている。
観ている者が引きずっていては、素晴らしい試合を見せてくれた選手達に失礼になろう。
今はただ、白熱した大熱戦を観ることのできた幸せをかみしめたい。

posted by ballgame |23:56 | 野球全般 | コメント(1) | トラックバック(1)
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2009年08月21日

明豊は2つのチームと戦った(花巻東対明豊)

間違っていた。
「花巻東対長崎日大戦はひょっとすると今大会NO.1と言えるほどの戦い」
以前のブログに書いたことだ。
いや、間違っていたわけではない。
試合が終わった後、決勝まで行ってもこれを上回る試合は見れないと思ったのは本当だ。
そして、今時点も目を閉じれば思いだす素晴らしい試合。
今後、甲子園の歴史に必ず残る試合でもある。

しかし、今日準々決勝第1試合が終わった時点で、それを上回る試合が出てしまった。
花巻東対長崎日大戦はベストゲームであることは誰も否定できないだろう。
だが、大会NO.1の戦いは、この準々決勝第1試合に譲ることとなった。
WBCでの戦いを思い出すほどの興奮。
まさか、今年は野球でこれほど盛り上がることはないだろうと思っていたが、違っていた。
まさか、あれほど面白い試合は見れないだろうと思っていたが、裏切られた。
試合展開でも、野球の流れでも。

前置きが長くなってしまった。
長文となるが、ぜひお付き合い下さい。


試合を見ることはできなかったが、エースの菊池の出来は大会一番という話。
問題は連投がどう出るかというところだろう。

相手は、大分の明豊。
花巻東の監督は「出来れば当たりたくないチーム」と語ったこの相手。
今年のセンバツ、2回戦で戦って4対0で勝利しているが、点差以上に苦戦したという経験からの言葉なのだろう。
特に注目して追いかけているチームではなかったので、印象は今宮という投打の要の選手がすばらしいということ。
そして、打線が強力な強いチームであるというイメージがぼんやりある。
対戦相手を聞いて、花巻東のくじ運の悪さを嘆いたものだ。
タフな相手ばかりが続く。
いや、だからこそドラマ性のある展開を見ることができ、選手も甲子園で成長できたのかもしれない。

先攻は花巻東。
明豊の先発は今宮。
先頭打者の頭部への死球で始まった試合。
これは、のちの波乱の試合展開を予測させる幕開けとなった。
(波乱の大きさは誰にも予想できなかったが)
ランナー3塁まで行くが、得点につながらず。

連投となる菊池だが、テンポのよい投球は普段と変わらず、むしろ好調な立ち上がりに映る。
注目の今宮との対決だが、初球のストレートをセンターフライ。
ただ、打ち取ったとはいえ、センター深いところまで運ぶ力強さ、初球からの積極性から野球センスを伺わせる。

2回表に早くも試合が動く。
先頭打者が初球をライト前ヒット。
今宮は簡単にバントをさせまいと、しきりに内角を攻める。
しかし、狙いすぎて四球を与えてしまう。
送りバントで、1死2、3塁。
打者は8番菊池。
この大会では、よく菊池の場面でチャンスを迎えるのをよく目にする。
投げるだけでもなく、打つことでも花巻東のキーマンとなっている印象だ。
1-2からスクイズを仕掛けるが、菊池は失敗してしまう。
しかし、追い込まれてからの菊池のバッテイングがすごかった。
内角ストレートを、絶対打球は上げないというスイングで叩きつけた打球は、見事高いバウンドのセカンドゴロ。
先制点は花巻東が奪った。

なおも、2死3塁。
9番山田は隙をつき、初球セフティーバントを狙う。
完全に虚を突かれた投手の今宮。
動作が完全に遅れたが、バントは投手前に正直に転がってしまった。
狙いは面白かっただけに、もうすこし横にずれていれば追加点もあり得ただろう。
見事な展開で1点を奪う。

2回裏、菊池は三振2つを含む三者凡退。
調子は上々だ。
0-3のカウントからの三振は、菊池の精神的な落ち着きを物語っている。
菊池の投球もいいが、花巻東の守備が面白い。
打者によってだが、ランナーがいない場合は、三塁線をかなり開けて守っている三塁手。
極端に深い外野守備。
特徴のある極端な守備位置が目立つ。

3回裏も三振2つを奪う菊池。
ここまで完璧といっていい投球で、完全ペース。
ファールグラウンドでの、セカンドの背面キャッチもあった。
このフライの処理は難しい。
ホーム側を振り返ることなく、後方を向きながら球を最後まで追い、最後に球の落ち際に合わせてキャッチ。
こういうプレーがでれば、流れは花巻東へ傾く。

4回表、先頭打者が、内角高めを強引に左中間へ運ぶ2塁打。
ここから花巻東のそつのない、野球知識の高い攻撃が始まる。
6番千葉の送りバントは、サードと投手の間への、球の勢いを殺さないプッシュ気味のバントを狙った。
ギャンブル性の高いバントだが、投手は反応出来ず、内野安打となる。
無死1、3塁。
7番佐々木の強烈な打球が、投手の右を襲う。
これを投手がはじき、ショートが逆を突かれた形となり、内野安打となる。
明豊にとっては、不運な追加点となった。
投手の今宮の反射神経の良さが裏目に出てしまった。
普通なら、投手がさわることのできない打球である。
中間守備をひいていた内野陣、ショートは2塁ベースへ近い位置へいたので、追加点は取られただろうが、ゲッツーでランナーはいなくなっていただろう。
プロでも、守備のいい桑田などで同じような場面を思い出す方も少なくないのではないか。
(東京ドームでの、バントが三塁線への小フライとなり、とびこんだ桑田を思い出す。それで桑田は肘の手術をすることになってしまった)
触るなと言っても、打球が来たら反応するのが、うまい選手の本能的なもの。
仕方のないところだ。

なおも、無死1、2塁の場面。
8番菊池が送りバント。
今回は、1塁線へのバントと、方向を変えてきたのがうまい。
しっかり送れたが、ここでアクシデントが発生する。
ベースカバーに入ったセカンドとぶつかって倒れこんでしまった。
スローでは、左手を地面についているが大丈夫か。
一瞬ひやりとするが、菊池の表情は笑顔だ。
1死2、3塁。
9番山田は、セフティースクイズを狙うが、これはラインを狙いすぎてファールとなる。
もっと甘い狙いでも、セーフになっていただろうという隙をついた攻撃。
追い込まれるが、外角低めを逆らわず三遊間を抜けるヒットを放つ。
これでこの回2点目。

1死1、3塁の場面で、明豊は今宮を下げ、野口をマウンドへ。
しかし、花巻東は攻撃の手を緩めない。
代わった野口の初球を狙い澄まし、ピッチャー返しのセンター前タイムリーヒット。
投手の代わりっぱなをたたくセオリー通りだが、非常に有効な攻撃。
まるで、長崎日大の寺田投手への交代の場面を見ているようだった。
高校野球では、波に乗られると投手交代で止めるのは難しい。
そのケースが証明された場面でもある。

4対0。
花巻東には理想の展開である。
それにしても、試合を重ねるごとに洗練されてきたとでもいおうか、場慣れしてきたとでもいおうか。
まるで、甲子園をホームとしているように、のびのびと試合をしている。
甲子園での成長が、はっきりと目に見えるいいチームだ。
こうなると後は、先ほどの攻撃で、野手にぶつかった菊池の出来だけだ。

注目の4回裏、解説者の「菊池の立ち姿がいい」という表現がいい。
まさに堂に入っているというところだろう。
なかなかやるなと、思わずうなずく。
明豊は打者2巡目に入り、いい当たりを打たれるものの、3者凡退で打ち取る。
どうやら心配はなさそうだ。
それより気になるのは、バッテリー間の配球だ。
この回、いい当たりを打たれたのは、3球続けて同じ球種を同じようなコースに投げ込んだもの。
本塁打を浴びた展開もそうだったはずだ。
1回戦から気になっていたが、この試合も目立つ。

5回表、花巻東は手を緩めない。
四球、送りバント、四球で1死1、2塁のチャンス。
この四球もフルカウントからの四球であり、送りバントも得意のドラッグバント。
惜しくもアウトになったが、簡単にアウトを譲らない気持ちが表れている。
まるで、花巻東の選手はテニスラケットでバントをしているように、自在に打球を操る。

明豊は早くも3人目の投手を送る。
ここは大きな賭けだ。
追加点を取られれば、試合が決まってしまう恐れがある5点差。
高校野球は何があるか分からないとはいえ、4回までの菊池から5点以上捕るのは至難の業である。
それに、先ほどの回のように、ピンチの場面での投手交代は、えてしてうまくいかないことが多い。
そんなリスクが多い場面での賭け。
この勇気あるチャレンジに、野球の神様は明豊にほほ笑んだ。
7番佐々木をセカンドゴロ併殺に打ち取り、ピンチを抑えた。
ただ、漫然とチャンスが巡ってくるのをまっていたわけではない。
初球を狙われないように、ボールから入った事、そして緩い球を2球続けて打ち気をそらしたことも大きい。

ピンチの後に…とは高校野球では散々言われた言葉。
花巻東を追いかけて、ブログを書いている自分も何度使ったことか。
しかし、この試合に限って、菊池の出来を見ているだけに、4点差があることで、今日は安心して見ていられると思った自分は甘かった。
いや、菊池に起こったことが予想できなかった。

5回裏、菊池は珍しく気合が乗っている表情をしている。
これまでひょうひょうと投げていたのに、明豊の4番阿部を意識しているのだろうか。
内角をしつこく狙うが、狙いすぎて四球を出す。
この試合初めてのランナーだ。
5番寿が、初球を積極的に振っていく。
三遊間を詰めていたサードが打球に触れるが、打球に執念が乗っているように、レフト前ヒットとなる。
無死1、3塁。
明豊初のチャンス。
6番河野は、深く守っていたライトへ大きな犠牲フライを放ち、明豊が1点を返す。
前の回にはとどめを刺されそうだった明豊が、息を吹き返した瞬間だった。

この回の菊池はなにかおかしい。
気合の乗ったように見えた顔は、踏ん張る表情だったのだ。
汗が噴き出る。
息が少し荒い。
内野手の呼びかけにも、笑顔がこわばる。
ボール球がはっきり外れる。
ヒットを打たれた時のサードカバーの足取りも重たげだった。

次打者をショートフライに抑えるが、しきりと左腰を抑えている。
相当ひどいようだ。
ここで、投手交代。
菊池はレフトへ。
レフトの守備位置では、右、左の腰をしきりと触っている。
ぎっくり腰だろうか。
4回の接触が影響しているのは間違いない。

投手はサードの猿川。
明豊は初球を狙うが、セカンドフライ。
積極策は面白かったが、結果が出なかった。
快晴の空、はるか遠くの山間にかすかな暗雲が立ち込める。
夕立を思わせる雲だが、こちらまでは来ないだろうと言い聞かせる。

6回表、4対1と花巻東のリード。
ここでグラウンド整備が入る。
この時間が花巻東に助けとなるだろうか。
長く感じた整備の後、打席は8番菊池から。
しかし、打席には代打の斎藤が立つ。
グラウンド整備の間の治療でも、だめだったか。
相当ひどいのだろう。
代打を送るということは、この試合もう菊池は使えない。
大きな決断である。

代打が告げられ、スタンドは戸惑っている雰囲気。
代打の斎藤は、初球をセカンドゴロ。
この状況で、初球打ちはどうなのだろう。
どよめくスタンド、沈んだ雰囲気が出る。
しかし、この雰囲気にただで沈み込む花巻東ではない。
9番山田が、セフティーバントを決め、流れを戻そうと試みる。
後続が見逃し三振、ショートゴロに倒れる。
そういえば花巻東の選手の見逃し三振は珍しいように思う。
自分の記憶にはないが、その状況がおこるということは。。。

6回裏、投手は引き続き猿川。
猿川はセンバツでもマウンド経験があるという。
初体験であがるという心配はなさそうだが。。。
先頭打者は、三遊間深いところへ転がす内野安打を放つ。
続く打者の打球はセンター前かという当たり、ショートがバウンドをうまく合わせ、好守。
ゲッツーかと思いきや、ファーストへの悪送球で、1死2塁となる。
花巻東の守備でのミスは珍しい。
前の回の見逃し三振といい、守備のミスといい、エースがマウンドにいないというあせりがあるのだろうか。
どこかちぐはぐしている花巻東。
動揺が明らかで、まるで腰高の力士のようだ。
5回までとは、まったく違うチームになっている。

一度狂い始めた歯車は、なかなか元に戻らない。
2番砂川を追い込むも、内角高めを力でライト前に運ぶ。
猿川では抑えられないのだろうか。
今まで、完璧に抑え込まれてきた反発力は恐ろしい。
明豊打線の力強さが浮き彫りになる。
それとも、菊池の投球力が図抜けている証になるのだろうか。

1死1、3塁で打者は今宮は高めストレートを、セカンドフライに打ち取る。
これで2死。
明豊は動く。
4番阿部の2球目、1塁ランナーが盗塁。
キャッチャーは送球は良く、きわどい送球だが、ベース手前でセカンドがカットしてしまう。
点差は3点差。
勝負しても良かったのではないか。
花巻東のちぐはぐな動きは続く。
0-3になった阿部を敬遠で満塁とする。
守りやすくなるとはいえ、逆転のランナーだ。

2死満塁。
猿川は、この回スライダーがまったく決まらない。
スライダーのストライクは1、2球程度だ。
となると打者の狙いは決まる。
ストライクゾーンに来た外角ストレートに逆らわず、きれいなライト前ヒット。
これで1点差。
6番河野の2球目、コントロールが効かないスライダーが暴投となり、2死2、3塁となる。
目を覆いたくなるような展開。
ここでまたもや満塁策。
火に油をそそぐだけなのではないか?
花巻東の采配に、首をかしげ続ける。

7番木森、2ストライクと追い込む。
3球目を外角に外し、勝負の4球目は外角高めのストレート。
ボールとなり2-2。
3球目の意味が全くない、無駄な球となったリードに、嫌な予感が頭をよぎる。
スライダーでストライクが入らない今、積極的に3球勝負のはず。
2-0からのスライダーでもいい。
カウントを悪くしては打者の狙いは1本。

その外角へ来たストレートを逆方向へはじき返す。
浅い守備位置のレフト。
左に下がり、右に動く。
その動作に心臓がどきっとする。
風が強く難しい当たり。
走者一掃という言葉がよぎる。
レフトの足が止まり、前を向き、グローブを差し出す。
そのグローブに打球がおさまる。
今年一番の深いため息が出る。
なんとか1点差を守り切る。

7回表、流れは完全に明豊である。
ここまで不安定な花巻東は、この大会初めてだ。
菊池という存在が、ナインをまとめる役目、まるで風船を抑える重りのようなものなのだろうか。
このまま、重りがなくなり風船は空へばらばらと上がってしまうのだろうか。
菊池の情報が入る。
背中の痛みで降板したとのこと。
ベンチで映る菊池の顔はすぐれない。
それとは対照に、明豊の投手山野の出来がいい。
四球を出すが、後続を連続三振に抑える。
フォークの切れがよく、花巻東は取りかかりがつかめない。

完全に明豊は花巻東を飲み込んでいる。
菊池のいない今の花巻東では、後は抑えるだけしか希望がないように見える。
逆転はもちろん、同点でさえ。。。
そんな中、マウンドの猿川は表情は変わらない。

7回裏、スライダーが全く入らない。
フルカウントからのストレートを見逃し三振。
明豊はもったいない。
ストレート一本でいいのに、手を出さず四球を選ぼうとしてしまう。
今日の球審はストライクゾーンが広い。
次打者も、初球のスライダー(久しぶりのストライクゾーン)をひっかけショートゴロ。
明豊の淡白な攻めが、花巻東に束の間の休息を与えるか。
勢いに乗りたいところだが、猿川は3者凡退に抑えられない。
ヒットを打たれ、ワイルドピッチでまたもピンチを迎える。
もう追いつかれたら追いつけない。
そんな雰囲気がどんどん溢れてきて、グラウンドを締め付ける。
完璧に狙われたストレートだが、レフト正面のフライに終わった。

例えるなら、今の花巻東は後ろが気になってしょうがないマラソンランナーだろう。
または大逃げをうっている競馬騎手のような心境がありありと浮かんでいる。
こうなったら、もう逃げ切るしかない。

そのための8回表、1死後苦しめられていたフォークをレフト前にはじき返す。
これは大きい。
送りバントでランナーを送り、2死2塁。
明豊は1番柏葉を歩かせ、2番佐藤で勝負する。
これはわかりやすい。
調子が落ち気味だし、内角にストライクを投げていれば打たれる心配は少ない。
また、長打を心配する必要はなく、外野を前に出せる。
その狙いはずばり、セカンドゴロに打ち取る。

8回裏、先頭打者は今宮から。
高めのスライダーで打ち取った当たりだが、深く守っていたライト前に落ちる二塁打。
浜風、右打者を計算するとそこまで深くなくてもいいのではと思ってしまう。
ちぐはぐ過ぎる。
しかし、これは今宮の貫録勝ちだろう。
無死2塁、4番阿部はバントの構えをしない。
狙い球を絞れる今の状況、送りバントはむしろ望むところ。
ここまで勝ち上がってきた明豊の勝負のにおいをかぎわける力はさすがだ。
2-2からスライダーが外にはずれ、フルカウントなる。
こうなったら目をつぶってストレートしかない。
他に投手はいないのか!
思わずつぶやく。
渾身のストレートは内角低めにずばっと決まる。
三振だ。

しかし、5番寿にスライダーが抜けて死球。
1死1、2塁。
花巻東はタイムを取り、伝令は菊池。
走り方はどこかおかしく、ぎこちない。
もうマウンドにはいない菊池だが、それでもここは菊池の神通力が必要だ。
マウンドに集まる内野陣に笑顔が出る。

しかし、その力も明豊の怒濤の打力の前には効き目がなかった。
6番河野、1塁線を破る2塁打で同点。
続く木森、浅いレフトの頭上を越える2塁打。
これで逆転、6-4。
あぁ、もう追いつけない。
試合の流れを追いかけてきた者にとって、これは死刑宣告のような2点差だ。
なおも1死2塁。
ここで猿川のスライダーが入り始める。
猿川は切れた、吹っ切れたのだ。
腕が振れてきた猿川は後続を抑えた。

8回裏の逆転はショックが大きい。
1回戦、長崎日大の逆のパターンだ。
正直、ここで花巻東の夏は終わったと思った。
応援している方もこう思った方は多いはずだ。
花巻東は、多くの期待を裏切る結果になるのか。
そう、花巻東は裏切ったのだ。
ただし、普通の結末を、野球の流れを信じる者を。

明豊は2つのチームと戦ったと言える。
4回までの花巻東と、5回以降の花巻東。
同じメンバー、たった一人菊池が抜けただけで、がらっと変わったチームと戦ってきた。
まさかここで、またあのチームが出てくるとは。。。

9回表、先頭の3番川村が追い込まれながらフォークを一二塁間にもっていく。
次はリードを守れなかった4番猿川だ。
8回裏の逆転で、猿川は吹っ切れていた。
消極的な態度はみじんもなく、2球目、初のストライクとなる球を積極的に打ち返す。
腕を畳み、センター前に運ぶ。
打球に不甲斐なさを乗せたような当たりだ。

これで、無死1、3塁。
5番横川の時、この試合最大の謎がおこる。
初球を横川はスクイズ。
これを空振りする。
どよめくスタンド。
カメラもサードランナーを映すが、ランナーは平然と三塁に戻る。
その間、猿川は2塁へ。
これはわざとなのだろうか。
打者の様子から察すると、自分はサイン違いだと思うのだが。。。
ぜひ明日の記事で、この詳細を種明かしされることを期待したい。
とにかく、この不思議なプレーでチャンスは広がった。
無死2、3塁。
横川は追い込まれながら、高めからの甘いフォークをセカンドの脇を抜けるセンター前ヒット。
呪縛がとかれたように、のびのびとし始める花巻東ナイン。
これはいったいどういうことなのだろうか。
説明がつかない展開に、応援している身でありながら、思わず「信じられない」とつぶやきが出る。
野球の法則にはないこの同点劇、花巻東のなんという底力だろうか。

送りバントの後、明豊は投手を今宮に変える。
サードを守っていた今宮は、ファーストに戻る山野の頭をなで、一緒に1塁側へ歩き出す。
その隙をついて、がらあきの三塁へ向かうランナー。
なんとタイムが取られてなかったのだ。
あの、空振りバントといい、なんとなんと驚くことが続くのか。
1死3塁。

しかし、開いた口がさらに広がったのは、さらにここから。
代わった今宮の投球が今でも信じられない。
初球、高めストレートに思わずバットが回る。
149キロにスタンドがどよめく。
149、152、154と徐々にスピードが上がっていくと同時に、スタンドのボルテージも上がっていく。
これは打てない。
今宮は、おそらく自分の失敗で招いたミスをぶつけるような怒りの投球をしていた。
その怒りの大きさは、勢いのある球に乗っている。
甲子園で145キロという球を、最近ではよく見かけるが、それとは異質な球だ。
とにかく早い、そう感じた球は久しぶりである。
初球のストレートで勝負はついていた。
最後はスライダーで2者連続三振。
このピンチをしのいだ今宮。
今宮は見事な火消しの役割を果たしたが、普通火消しは水で消すもの。
それを彼は、自ら燃やした怒りの大火で飲み込んでしまった。

信じられない同点劇の後、1死3塁で勝ち越したかった花巻東。
今日の試合程、流れが読めない試合はない。
惜しむらくは、投手交代の時、初球スクイズを狙っても面白かったと思う。
それに、偽装バントを行うのであれば、初球スクイズだってあり得る。
もう同点なのだから。
そういった意味で、あの横川のバントは偶然の出来事だと思うのだ。

もう何が起こってもうなずくしかないこの展開。
9回裏、明豊は先頭打者のヒット、送りバントで1死2塁となる。
ここで3番今宮は敬遠。
9回表の投球を見ると、とてもじゃないが勝負にいけない。
猿川も踏ん張る。
4番阿部を外角低めのストレートでライトフライ。
5番寿を詰まった当たりのレフトフライに打ち取る。
球速は及ばないが、こちらのストレートも気持ちが乗っている。
今宮が真っ赤な炎だとすれば、猿川は静かに燃える青い炎だ。

これで延長戦。
10回表、今宮の投球は9回表の投球ではなく、これから先を見据えた先発した時のような投球となっていた。
いわば、省エネ投法だ。
1死後、サード強襲のヒット。
2番佐藤の送りバントの際、またもベースカバーに入ったセカンドと激突。
佐藤は動かず、目を閉じたままタンカで運ばれる。
騒然とするスタンド。

あまり言いたくないが、この試合2回目。
菊池に続く衝突である。
完全に故意ではないにしろ、セカンドのランナーとぶつかるという意識への低さが表れている。
ベースカバーの後の動作を考えていない。
佐藤の場合は、タイミングはきわどい(それでもよけれた)が、菊池の場合は完全に余裕があった。
セカンドは普通、1塁をちょっと踏んで、ダイアモンドの中に戻るものであるが、彼は違う。
ベースを踏んで、なんとなく止まらない。
それではランナーにぶつかるのはしょうがない。
本当のきわどいプレーではないだけに、それ以外の打球処理は素晴らしいものがあるだけに、余計に残念である。
個人を攻めるわけではないが、タンカで運ばれる選手を見るとそう言わずにはいられない。

話を戻そう。
長い間が開き、2死2塁。
3番川村は待っていた。
その初球、ストレートがシュート回転して真ん中へ入ってきた球を、しっかりとらえ、9回の同点打の再現のようなセカンド脇を抜けるタイムリーヒット。
花巻東のそつなさが目立った、そして気持ちで運んだヒットと言えるだろう。
佐藤の退場劇で、ぽっかりあいた思考の空白、油断したわけではないだろうが、なんとなく投げた初球を見逃さない。
そしてその打球は、気持ちが乗っていた。
佐藤の退場で、菊池の交代のきっかけとなったプレーを思い出したかのように。
昔の話で恐縮だが、日本シリーズ0勝3敗で勝っていた近鉄の投手の余計なひと言(ロッテより弱いだったか?)を思い出す。
闘志に火をつけたプレーとなったことだろう。

10回裏、なんとか抑えたい花巻東。
佐藤の治療で時間がかかる。
花巻東の監督は、治療がおこなわれている1塁ベンチに向かう。
職員と話す監督、心配そうな表情だ。
その画面から、何事もなかったかのように軽快に走りだす佐藤。
3塁ベンチからグローブを取り、センターに向かう間、甲子園全体の拍手が止まることはなかった。

これで甲子園全体を味方にすることができたのだろうか。
野球の神様も満足したのだろう。
四球でランナーを出すものも、猿川が抑え、興奮の試合は終わった。


奇跡のような3時間。
まさか、まさか花巻東が勝てるとは思わなかった!
試合終了後、ドでかいガッツポーズをした方は、自分だけではないだろう。
そして、ほっとしたため息。
花巻東の挑戦というろうそくは、消えかかる寸前だった。

この逆転劇は、まさに花巻東の底力だろう。
この強さはどこからくるものだろう。
監督の指導も大きいのは言うまでもない
それにやはり、菊池の存在が大きいのだ。
菊池がいるところで、「一緒にやりたい」という好選手が集まる。
他の選手は「いいところまで行ける」という期待感が出てくる。
その期待感が、試合に負けることで、自分たちの不甲斐なさを感じたことだろう。
不甲斐なさを感じ、自分たちがもっとやらねばという思いが芽生える。
菊池を助けたい、おんぶされているだけじゃないという思いが、努力に努力を重ねる。
その努力が実を結び、いつのまにか個々として菊池を頼らないようになった。
菊池はそのメンバーを頼もしく思いながら、ますます自分を磨く。
そこで、全員が強い個を持ちながら、本当に一つのチームワークが生まれているのではないだろうか。

花巻東は今、菊池の力で勝った試合は少ない。
もちろん、野手が点を取らねば勝てはしないが、センバツの時のような「菊池におんぶにだっこ」という人はいないだろう。
むしろ、菊池を支えているといっていいだろう。
その力強さが頼もしい。
そして、準決勝、決勝はいよいよ菊池の本領を発揮しなければならない。
選手たち全員の落ち着きは頼もしい。
審判がしきりに注意していたが、それを気にせず、捕手が何度もタイムをとって間をとっていた態度。
大事な場面でのこうした譲らない気持ち、さまざまなバントなど自分の持っているものを出し切り、戦う平常心は、甲子園をホーム化しているといっていいかもしれない。

1回戦で好試合、3本塁打、8回の逆転劇を見せた長崎日大戦。
2回戦では監督の師弟対決となった横浜隼人戦。
3回戦では、なんともったいない東北勢同士の対決となった東北戦。
そして、この準決勝。
明豊のリベンジをかけた試合。
ここまで、試合すべてにドラマがあり、タイトルが付けられるほどの展開を見せる花巻東。

こうなると、観客を巻き込んで期待がさらに膨らむ。
もう口に出してもいいだろうか。
あと2つ…。
勝ち負けよりまず、菊池の怪我がよくなりますように。

大変長くなってしまいました。
貴重なお時間いただきました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

posted by ballgame |23:08 | 野球全般 | コメント(19) | トラックバック(0)
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2009年08月20日

つきない泉のように(石川遼の強運)

先週行われた全米プロ選手権は、圧倒的な先行逃げ切りの強さを誇ったタイガーが、まさかの逆転負け。
優勝は、18番のバーディパットの映像が印象に残るY・E・ヤン。
映像に、パットを打つヤンと、それを見つめるタイガーの対照的な表情が素晴らしくとらえられていた。
あれこそ、まさにプロのカメラワークだった。

日本人最高順位を収めた石川遼。
とはいえ、その順位は56位と低いもの。
本人も、最高順位という意識はまったくないだろう。

石川遼はなにかを持っている。
これはみなさんも感じているだろう。
輝く星の下に生まれたのか、人気先行かと思わせる低調な成績を収めたと思いきや、劇的な優勝を飾ったりする。
まさに、これからの日本をしょってたつ、しょってたたねばならない存在である。

その石川遼は、全米プロ選手権で、今年のメジャー大会挑戦は3試合となる。
マスターズ、全英オープンは予選落ちしたが、この大会では予選をぎりぎりで通過した。
今の石川遼には、厳しい条件の中で、またメジャーという独特の雰囲気、空気を味わえるだけで成長できる吸収力を持っている。
それは本人の資質でもあり、年齢的にも一番の成長期であることも大きい。

おそらくこの大会も、予選通過が最大目標だったはずである。
今回も(今年は)厳しいと思っていたが、その予想を嬉しい方向に裏切ってくれた。
おそらく、石川遼の今後に期待してみているファンよりも、はるかに早いスピードで成長しているのだろう。
今年のうちに、メジャーの3、4日目を経験できたのは大きい。
石川遼の成長の階段を一歩登らせることとなる。

それだけではない。
予選通過した石川遼へ、ゴルフの神様の粋なプレゼント。
最終日には、あのフィル・ミケルソンと同組になるというチャンスが回ってきた。
フィル・ミケルソンは、母親、そして奥さんの病気で欠場していたということもあるが、普段では考えられないくらい悪いポジションから、最終日をスタートした。
彼と同スコアになる偶然、そして同組で回れる奇跡。
ここまで来ると、将来のため、「こういう経験もさせよう」となにかの力が働いていると思ったほうが自然だろう。
スコアを気にしなければ、石川遼の将来、メジャー大会での優勝争いをしながらの最終組として、こういう場面がきっと出てくるはずだ。
そう思うと、ぶるっと鳥肌がたつ。
その時、解説者はこのシーンを思い出して語ってくれるのだろうか。
たとえ忘れたとしても、自分は忘れないだろう。

石川遼の小さなころの(多分小学生時代だったと思うが)作文で、「20歳でマスターズを優勝する」とあった。
フィル・ミケルソンと回ったことで、その予行演習となったことは、4日間回ることができたこと以上に、実は大きいのかもしれない。
彼は、やはりなにかを持っている。

しかし、石川遼の強運は無尽蔵なのだろうか。
そう思わせるほど、自らを成長させる機会をしっかり掴んでいる。
天に愛されているのは間違いないだろう。
彼には、自分を照らす大きな星が見えているのだろうか。
きっと、確信ではないにしろ、感づいているところはあるのだろう。

石川遼は、9月に18歳となる。
つまり、まだ17歳だということだ。
改めて、驚くべき若さだ。
それでいて、今季2勝を挙げ、現在賞金王を片山と争っている。
先ほど挙げた作文では、他に日本アマ優勝、プロの大会で優勝など、目標の年齢とともに書いてあった。
今のところ、石川の夢は着実に実現している。
見えない力が後押ししているのは確かだが、それを実現する努力も大きいのだろう。

石川遼を見ていると、ひまわりを思い出す。
この日差しの強い夏にぴったりだ。
これから、つきない泉のように湧きでる強運で、周りが勝つような状況を作っていく選手になるだろう。
すんなりタイガーがメジャーに勝っていた時代のように。

ひまわりは太陽に花を合わせ動くが、石川遼の花は、観ている周りを動かす。
ひょっとすると、もうひまわりではなく、自ら輝く太陽のほうがあっているのかもしれない。
人気は十分、実力はこれからといったところ。
これからの試合で、経験を積んで、このまま真っすぐ育ってほしい。
そうすれば、周りの状況が自然と正しい方向に導いてくれる。

本人も言っている通り、まだまだ真の実力をつける時期である。
といいつつも、賞金王争いも楽しみにしてしまう。
今シーズン、最後まで盛り上げてくれることは間違いない。
なになに、男子プロも女子プロに負けていない。

posted by ballgame |00:05 | ゴルフ | コメント(0) | トラックバック(1)
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2009年08月19日

もっとほっと、ほれなおす(黒田の経過、良好)

15日の試合で、打球を右頭部に受けた黒田。
相手ベンチまで跳ねかえる打球。
ストレッチャーに、頭や首をしっかり固定されて退場する姿は、ぞっとするものだった。

その黒田だが、経過は良好だそうで、ほっと胸をなでおろしている。
打球を受けた翌日には、早くも退院し、チームに合流した。
打球を当てたダイアモンドバックスのライアルから手紙をもらった黒田のコメントが絶品だ。
黒田はこう語ったそうだ。
「僕が野球を辞めた時に、彼に当てられたと胸を張って言えるような選手になってほしい」

こういったセリフは、考えに考えて絞り出すセリフではない。
普段の人柄から、すっとにじみ出るような素敵なコメントで、あらためて黒田にほれ直した。
打球を当てられた本人が、なかなか言えるセリフではないではないか。

まるで役者の口から出たようなこの一言。
そこにはなんの恨みも感じられない、日本人らしい爽やかさが感じられる。
日本人らしいというよりも、サムライのようなものだろうか。
全力を尽くして戦った後は、何の遺恨も残らない。
この短い言葉で、黒田はライアルを救ったのだ。
ドジャースを投球で助け、相手打者を救う。
大げさに言えば、「活人投球」とでも名付けたいこの言動。
近頃、日本人投手の災難に辟易していた日本のファンも、まるで夏の日に道路へ水撒きをしたように、久しぶりのすがすがしさを感じた方も多いだろう。
甲子園といい、黒田のコメントといい、夏の野球は熱戦とは別に、爽やかさを提供してくれる。

アメリカの報道陣に囲まれ、
「テレビを見ていて死んだと思ったみたい」
と救急車内から夫人に電話したときのエピソードを、ジョークを交えて話していたそうで、状態が深刻なことはなさそうだ。
翌日にも検査を受けたが、問題はないとのこと。
しかし、まだ頭部への痛みは残っており、場所が場所だけに復帰の見通しは未定だ。
この出来事で、いまいち調子の上がらない日本人投手の谷底は過ぎたと信じたい。
後は昇るだけ。

黒田の魂は投げる球だけでなく、言葉にも同じものが込められていた。
ノックアウトされたのは、自分だけではないだろう。
きっとアメリカの報道陣やファンの中でもKO率は高かったのではないか。
投手にノックアウトされるとは思わなかったが、なぜか心地よい。
不思議な感覚だ。
このまま、順調な回復を祈りたい。

posted by ballgame |00:03 | MLB | コメント(2) | トラックバック(0)
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2009年08月18日

さわやかな予定調和(花巻東対横浜隼人)

花巻東の佐々木監督、「感謝の思い。教えていただいたことをすべて出すことがわたしの仕事」と感慨深げ。
横浜隼人の水谷監督、「夢のよう。本当に幸せ。ここまで来たら大きな旗を持って帰ってほしい。わたしの分まで」と号泣。
こんな終わり方はあるだろうか。
漫画の「MAJOR」でも「タッチ」の中でも、映画の「メジャーリーグ」の中でも、ここまで出来すぎな話は見たことがない。
しかし、それがすっと腑に落ちる。
抵抗なく飲み込めるやさしいスープのように、体が温かくなる。
なにか結末から書いたような物語、それでいて違和感はない。
さわやかな予定調和とでもいうのだろうか。
大会8日目、花巻東対横浜隼人の1戦は、高校野球の爽やかさ以上の結末を迎えた。

花巻東の佐々木監督は、横浜隼人の水谷監督の下でコーチを務めていたそうだ。
水谷監督は、佐々木監督の仲人をした程の仲である。
いわば師弟対決となったこの1戦。
横浜隼人のユニフォームは、阪神タイガースを模して作られたらしいことは聞いていたが、あれほどそっくりだとは思わなかった。
投手がアップで映し出された時の帽子のマーク。
まさしく「HT」ならぬ「HY」が絡まり、阪神タイガースとなる。
花巻東の菊池に注目が集まるが、横浜隼人のユニフォームを見ると、甲子園で応援する観客は、条件反射で思い入れが湧く。
応援は互角だろう。
そこまで計算したわけではないだろうが、甲子園の声援をホームの声援に変えるうまい作戦だ。

阪神タイガースを想像させるせいか、横浜隼人の水谷監督。
カメラに映る度、若き日の真弓を思い出してしまう。
現役時代の真弓の姿は、もうおぼろげだ。
しかし、昔の真弓はああだったろうなぁとなぜか感じてしまう。
監督にしては珍しく、外野に一番近い側のベンチで立つ姿。
笑った時の歯がまぶしげに光り、ナイスミドルといったところである。

高校野球のチームは、監督が変わるとチームカラーも変わる。
短い間で、あっと言う間に強豪チームになりかわる。
周りからどんどん吸収する時期である高校時代、監督の影響は大きいものだ。
結婚すると、夫婦ともだんだん似てくるというが、横浜隼人の選手を見ていて、同じことを思った。
監督が笑い、選手が笑う。
選手達の笑顔がさわやかなのだ。
それに歯が輝き、きれいである。
日焼けした肌と、白い歯。
CMに使いたくなるようなコントラストが強烈に印象に残る。
今日はどうしても、野球と関係のないところに目が行ってしまう。

試合は1回裏、花巻東は「らしさ」を存分にだして先取点を奪った。
1死後、四球で出たランナーが盗塁、センターフライの間に三塁へ行く。
4番猿川が、ピッチャー強襲のセンター前ヒットを放つ。
1回戦でも、猿川はヒットを打っていたが、追い込まれるまでバットが出ないように感じた。
球種をしぼるというよりも消極的な感じが目立っていたが、この日は積極性が見れた。
打線の中核となる選手に勢いが出てきたのは、今後楽しみである。

横浜隼人は、いい当たりをされるものの、サード、ファーストの好守備が光る。
3回裏の2死1、3塁のピンチもしのいだ4回表。
今日は、アナウンサーのやや大げさとも感じる詩的な、独特の口調を楽しめたのだが、極めつけは4回表だ。
「高校野球は、えてしてピンチをしのいだ後にはチャンスがやってきます」
そのセリフを終えた瞬間、1番森が真ん中ストレートを、会心の当たり。
心地よい音を残し、ラインドライブで左に切れながら、レフトスタンドへ飛び込む本塁打を放った。
ここから見始めた人は、このアナウンサーのセリフは預言?と思われたかもしれない(笑)

同点に追いつかれた花巻東は、その後もいい当たりを放つが、好守に阻まれる。
1塁をはるかに駆け抜ける全力疾走には、相変わらず好感を持てるが、横浜隼人の好守、そしてにじみ出る高校球児らしいさわやかさ。
いやな流れを感じていた7回裏。
1死後、8番菊池がセンターオーバーの当たりを放つが、中継が素晴らしく、三塁で刺される。
これはまずい。
しかし、このいい流れを横浜隼人は自ら手放してしまう。
9番佐藤のサードゴロを悪送球。
7回以降の花巻の強さ、そして相手のミス、ちょっとしたほころびを見つけ、それに付け込む強さ。
1番柏葉の当たりは、横浜隼人の本塁打とちょうど同じようなところ、レフトスタンドに飛び込んだ。
2ランホームラン。
これまで、2番手萩原は、打者の内角を突くことで花巻東の打者を苦しめてきたが、甘く入ったストレートは見逃してくれなかった。

8回にも追加点を加えた花巻東は、菊池がしっかり抑え、花巻東が3回戦に勝ち進んだ。
大会前の評判では、菊池に注目が集まっていたが、ここまでの2戦、菊池はそれなりに抑えている。
抑えているが、目立つのはやはり打線である。
どのチームもチャンスを作ることはできる。
しかし、そのチャンスを確実に点につなげることができるか、もっといえば相手のミスを、ミスとして付け込めるか。
「失敗した」と思わせることができるかどうかが、強いチームである。
花巻東は、長崎日大・横浜隼人戦と決して楽には勝ち進んでいない。
だが、戦った相手は、そして見ている側は、点差以上に「強い」と感じてる方が多いかもしれない。

もちろん、菊池の出来に物足りなさを感じるだろう。
ここに面白いデータがある。
大会8日目まで終わり、本塁打はちょうど20本となった。
そのうち、菊池は4本を献上しているのだ。
大会の5分の1の被本塁打を打たれている。
それでいて3回戦に勝ち進んでいるという矛盾。
今までこんな投手はいただろうか。
皆の期待通りではない菊池に、そこはかとない不思議な魅力を感じるのは自分だけだろうか。

さわやかな予定調和、そして不思議な魅力の菊池。
1回戦での、大会のベストゲームと呼べるほどの熱戦とは、また違った楽しみを与えてくれた2回戦。
大差で、隙のない試合をしているチームは、案外ころっと敗れてしまうものである。
紆余曲折がある花巻東の戦いを見て、古い話で恐縮だが、松坂が所属した横浜の戦いを思い出す。
はらはらさせながら勝ち進むところは、十分観る者の心をつかんでいる。
サッカーで、バルセロナは「世界で2番目に好きなチーム」と言われるそうだ。
甲子園での、高校野球を愛する人にとっての、バルセロナのように、応援したくなる要素は十分にもっている。
甲子園の「アイドルチーム」となる可能性は高い。
歓声が勝利への後押しをしてくれるチームとなれるだろうか、注目である。
また、2試合続けてタフな試合をしたことで、大会中もチームは成長しているだろう。

3回戦も楽しみであるが、組み合わせを見ると、なんと次戦は9日目第1試合の勝者と当たる。
なんと、東北が勝ったなら、こんなところで東北対決が。。。
あまり先のことを考えると、鬼が笑うという。
真夏に鬼は似合わない。
出てきてほしいのは、勝利の女神である。
まずは、明日の東北の応援。
そして…いやいや、軽々しくは口にすまい。
3回戦は20日に行われる。
期待したい。

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