2009年08月25日

届かない声、裏切り続けられた期待(甲子園を振り返る)

昨日と変わらない日差しが照りつける夏の1日。
なにか違う。
なにか物足りない。
甲子園での夏の戦いが終わると感じるこの倦怠感。
いつもの日常に戻るには、1日では足りないのかもしれない。
今年の甲子園は特に。

大会2日目、雨で2日連続ノーゲームとなり、波乱を感じさせるスタートを切った今年の高校野球。
そう感じた方も多いであろう。
その予感通り、今大会はとても順当とはいえないのではないだろうか。

試合結果を見ると、
9回または延長での逆転(勝ち越し):12(うちサヨナラ5)
8回の逆転(勝ち越し):3
甲子園での試合数は48試合だから、およそ3分の1は8回以降に試合が動いたということになる。
すべての試合を見たわけではないし、去年のデータとの比較もしていないが、ドラマティックな展開が多かったと言っていいだろう。
もちろん、後半で試合が動いたからといって、その試合が好ゲームとは限らないだろう。
しかし、自分が観戦した試合数は決して多くないが、それでも観ることのできた試合で外れは少なかった。
むしろ、どちらのチームにも思い入れがない(例えば今住んでいる県だとか地元だとか)フラットな試合でも、いつのまにか拳をぎゅっと握っている好ゲームが多かったように思う。
ついていた部分もあったであろうが、この異常ともいえる終盤での試合の変化が、今年の甲子園を盛り上げたきっかけとなったであろう。

今年の甲子園は、野球の格言にあまりに忠実だったのも印象に残る。
「チャンスの後にピンチあり」
「投手の変わりばなを狙え」
「四球(死球)の後の初球を狙え」
「野球はツーアウトから」
などなど。
精神的にまだ成熟していない高校生同士の試合だ。
自分達が普段見るプロ野球やMLBの試合と比べると、選手達の動揺や勢いといった心のブレはかなり大きい。
観客でさえ、はっきりと目に見える程である。
それゆえに、信じられないエラーや図ったような逆転劇を数多く目にした。
特に、「ピンチを抑えた後」または「エラーをした後」の得点は、長年観てきた高校野球でも、かなり目立っていた。
何度、アナウンサーが「ピンチの後に…」というセリフを言っただろうか。
それがことごとく当たる。

メンタルの面で行けば、投手交代の失敗も目立った。
回の途中での投手交代。
つまりピンチの場面、ランナーがいる場面での交代だ。
これのほとんどが失敗する。
勢いのついた相手チームを抑えるには、中継ぎを専門とする投手など役割として存在しない高校野球では難しいのだろう。
投手交代に限らず、この心の動揺、動きが高校野球を面白くしている要因の一つだ。

そして最後に、今年の甲子園を振り返る中で欠かせないこと。
それは「観客の声が届かなかったこと」である。
思い出してほしい。
毎年というわけではないが、準々決勝くらいまでチーム数が絞られてくると、今年の「勝たせたいチーム」「注目しているチーム」が出てくる。
2年前の佐賀北しかり、斎藤がいた早稲田実、古くは駒大苫小牧や松坂のいた横浜などだ。
その観客の声が、しっかりチームを後押しし、信じられない力を与えてきた。
それがドラマティックな展開を生み、伝説となる一戦が後世に残る。
野球の神様はその声に忠実だったし、甲子園で頂点を勝ち取るチームは、ほとんどが観客の期待通りのチームだと言っていいのかもしれない。
みんなが期待すれば、その通りになる夢の場所。
非日常的なことが常識となる、それが甲子園というところだ。

その意味で行けば、優勝チームは日本文理であったり、花巻東だったりするはずだ。
少なくとも、自分は日本文理対花巻東であればと願っていたし、周りの人も少なくない人数が期待していた。
決して中京大中京をけなしているわけではない。
こうした声なき声、声なき期待を押しのけて優勝した中京大中京は、前評判以上に強いチームだということである。
ただし、観客の無邪気な期待を背負っていたのは、前述した2チームである。

今年の甲子園はおかしかった。
よほど野球の神様は、虫の居所が悪かったのであろうか。
決勝での、あれほどの追い上げをしたにも関わらず、逆転までいかなかった展開。
そして、準々決勝(花巻東対明豊)での試合の流れからは信じられない花巻東の同点、逆転劇。
あの試合、勢いは完全に明豊だった。
甲子園全体を味方にしていたのは、結果的に負けたチームだった。
ここまで、「観客の声が届かない」甲子園は珍しい。


ここまでは、今年の高校野球全体を振り返ってきたが、どうしても振り返りたいチームがある。
それは、ずっと追いかけてきた花巻東だ。
自分の思い入れがこもっているので、あわない方はどうぞ流してください。
「?」と首をかしげる方もあろうが、どうぞご容赦ください。

夏の甲子園、自分の心は花巻東が占めていた。
優勝旗が白河の関を越える、これは東北出身の野球ファンの夢であり、大げさにいえば悲願といっていい。
センバツでの準優勝から過度の期待を一身に集めていた花巻東。
センバツ優勝校の清峰でさえ、予選突破できなかった中、しっかり甲子園までたどり着いた。
いやがうえでも期待が高まる。
第一、ここ数年で大会前から優勝候補として挙がっていることなどなかったのだから。
チャンスの女神は、前髪をしっかりつかんでぶるんぶるん振り回さなければならない。
今年が最大のチャンスだと思っていた方は多いはずだ。

その花巻東は、緒戦から厳しい組み合わせに入った。
まるで野球の神様の意図が感じられるような試練だ。
1回戦、3本塁打を打たれながら、8回の逆転劇を見せ、今大会NO.1のゲームと思われた長崎日大戦。
長崎日大はセンバツで夢を砕かれた清峰を破ったチームでもあった。
2回戦、監督の師弟対決となった横浜隼人戦。
3回戦、白河の関を越えようとする、東北勢同士の対決となった東北戦。
準決勝、菊池の降板から逆転を許すも、信じられない同点、逆転劇を見せた明豊戦。
センバツでのリベンジの思いを打ち砕いた試合でもあり、長崎日大戦を上回る、甲子園の歴史に残る試合だった。(好みもあろうが、今大会NO.1は決勝よりもこの試合を推したい)

勝ち進んできた試合は、すべてドラマがあり、その度に予想をはるかに上回るエンディングを見せてきた。
期待を裏切り続けた試合内容で、希望通りに勝ち進んできた花巻東。
勝ち進むごとに、甲子園に今後も残る好試合を繰り広げ、応援する観客も増えていく。
期待が期待を呼び、甲子園全体をホーム化していった。
一塁ベースを越えても、止まらない全力疾走。
最後まであきらめない精神、そしてベンチでの表情や必死の応援。
まさに、選手達が一つのチームという生き物になっていた。
準決勝で負けてしまったが、今でも自分の中では、甲子園で一番輝いていたチームだと確信している。

前回のブログで頂いたコメントでこういうものがあった。
「因縁から解き放たれた先の最大の関門が中京大中京戦…」
結果的にその通りとなってしまった。
まさか、ドラマ性がなければ勝ち進めなかったわけではないだろうが、全否定できるものではないだろう。

花巻東の終焉となったこの試合、残念ながら観戦することができなかった。
負けたから書かなかったわけでなく、伝える言葉がなかったからだ。
負けたことよりも、最後の試合を実際に目に焼き付けることが出来なかったことが悔しい。

準決勝、それまでの花巻東から想像できないほど、あっけない完敗はやはり菊池の怪我がすべてだろう。
「やはり花巻東は菊池がいないと…」という人は、もういないだろう。
もしそのような方がいたら、確実に1試合も観ていない人だ。

確かに負けた原因は菊池が登板できなかった(わずかに登板はしたが、数には入れないでおこう)ことだ。
なぜあれほど完敗してしまったのか。
それは、やはり花巻東は菊池を中心としたチームだったからだ。
菊池に頼らないチームということと矛盾しているようだが、そうではない。
確かに、この夏の大会は菊池の投球というより、チームの総合力で勝ってきた試合が多い。
しかし、負けていてもあきらめない底力は、菊池がいるということが支えているものだ。

準々決勝、明豊との一戦も菊池は降板している。
しかし、あの歴史に残る逆転劇は、「途中降板してしまった菊池を、なんとか準決勝へ」というチームの思いが生んだものだ。
準決勝の中京大中京戦はどうだろう。
きっと、花巻東の選手達は「菊池はこの試合に出れない」と試合前にわかっていた。
今までのようにベンチに控えているが、いつでもでてこれるという安心感がない。

最初からいなければ期待しない。
しかし、菊池を含めて花巻東というチームである。
それでここまで勝ち進んできた、今までやってきた精神的主柱だった選手が出れないのだ。
江川のような、ばらばらのチーム状態ではない。
準決勝での松坂のように、疲労で休んでいるわけでもない。
前々からわかっていたわけではなく、無理させないための登板回避でもない。
その唐突さが、ぽかっと選手達の心に穴が開いてしまったのだ。
でなければ、花巻東の珍しいスクイズミスにつながったり、4回の大量失点につながらない。
結局、選手達は菊池と一緒に試合に「出たかった」のだ。
ひょっとすると、それは優勝旗を得るよりも強い願いだったのかもしれない。
うまく表現できないが、そうでなければ、あの完敗は説明がつかない。
やはり準決勝、花巻東は一つのチームにはなり得なかったのだろう。

ここまでドラマ性を感じさせてくれた花巻東。
東北勢初の優勝ということを除いても、甲子園で最後に喜びを表すチームになってほしかった。
その資格も十分にあった。
選手同士のプレーの質の高さ、懸命さ、一体さは他チームとの明らかな差となって表れた場合もあるほどだ。

白河の関はそれほど険しいのだろうか。
今回の花巻東ほどのチームが勝てないとなると、なにか絶望に似たものを感じてしまう。
いや、それは悲観的な見方なのだろう。
きっと同じように観ていて、「今度は自分達の番だ!」と燃えている頼もしい選手達が続くはず。
挑戦し続けることでしか、夢はかなわないのだから。


それに慣れるには、まだ時間がかかるのだろうか。
届かない声、裏切り続けられた期待(よくも悪くも)が目立った夏の大会だった。
いつもは思わないが、梅雨明けが遅かったせいだろうか。
今年は甲子園が終わると、もう秋が近いと感じてしまう。。。

posted by ballgame |23:42 | 野球全般 | コメント(18) | トラックバック(0)
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2009年08月24日

格言に素直(高校野球決勝、中京大中京対日本文理)

9回2死ランナー無し、点差は6点。
これがもし、プロ野球ならどうだろう。
きっと、最終回が始まる前から帰路につく観客も多いだろう。
階段に吸い込まれる肩を落とした長い列、時計にちらちら目をやる観客が多い。
つい先程までは、チャンスやピンチに、一つの生き物のように動いていたスタジアムは、外野席以外はぽつぽつと絵の具を垂らしたよう。
試合開始前、輝いていた瞳はぼんやりと試合を眺めるか、出口を探しているかもしれない。

サッカーと違い野球は、残り時間の少ない(例えば9回)状況で点差がいかに離れていても、逆転出来るスポーツである。
そこが魅力的なところだ。
それを信じて、声を上げ、または指を組んで祈る。
ただ、期待できる一般的な点差は、3・4点といったところだろうか。
満塁ホームランで逆転(同点)できる点差だ。

ここまで書いたことは、一般的な出来事であり、平均的な考えだ。
しかし、この時期の甲子園には、こんな常識的な答えはあり得ない。
非日常的なことが、当たり前になる。
まず、高校生達がこんなに長い間、話題を独占することなど、この時期のこの空間しか起こり得ない異質な場所ではないか。
特に今年の甲子園は。


9回表、6点差で中京大中京はエースの堂林を再びマウンドへ挙げる。
いい方は悪いが、堂林へのご褒美のようなものだ。
大きな歓声。
そしてツーアウト。
日本文理を応援する生徒、ファンだけがあきらめない。
いや、応援している立場でも半分以上は、「これは…」と思っていたことだろう。
この状況では仕方がない。
逆に、信じていられるほう方が素晴らしいことなのだ。
ただ、信じていた人達は知っていたのかもしれない。
今年の甲子園は、野球の格言に正直なことを。
「野球はツーアウトから…」

フルカウントから四球を選び、盗塁を決める。
2死2塁。
なんとか一矢を報いてくれ、報いさせてあげたい。
多くの観客が思ったことは間違いない。
そして、思ったことが現実化するのも、この大会である。
次打者もフルカウントから、タイムリー二塁打。
1点返した日本文理。

「よかった、頑張った、0で終わるよりは…」
5点差になったというよりは、1点返したといった表現があっている。
そんなざわめき、小さな希望の声が、今まで眠っていた野球の神様を目覚めさせた。
信じられないサードファールフライのエラー。
公式には打球に触ってないから、エラーはつかないのかもしれない。
太陽に目が入ったというレベルではない、なにか異質な打球の見失い方をしていた。
その後の動揺がもろに出た死球。

こうなるともう投手交代しても、止められない。
ランナーがたまり、タイムリー。
その繰り返しで、あれよあれよという間に1点差となる。
まず甲子園全体で、個人選手の名前が出る応援、一体となった手拍子など、なかなか起こるものではない。
まるでコンサートで、アンコールをする観客のようだ。

2死1、3塁で1点差だ。
ここまでの軌跡を考えたら、あとはたやすいもの。
快音を残した強烈な打球は、甲子園を覆う期待をかなえる一打…となるはずだった。
それは何かの手違いのように、サードのグラブにすっぽりと入った。


生きた心地はしなかったであろう中京大中京。
なんと、今回の優勝で夏の大会7勝目となった。
東北生まれの自分は、まだ優勝旗が白河の関を越えてないという思いが強いため、自然と日本文理を応援していた。
東北とは隣の県、そして長い間、甲子園での低迷が続いていた県である。
今回の挑戦は、今までの東北の出場チームとかぶってくる思いがあった。
東北生まれはないにしろ、今回は心情的に、日本文理に勝ってほしい、そういう方は以外と多かったのではないだろうか。

そうした相手チームへの、かすかではあるが期待というものは、中京大中京の選手達は敏感に感じ取っていたはずだ。
なにせ、甲子園で優勝するチームである。
連戦の中、成長するような感受性豊かなチームでなければ、頂点に立つことは難しい。
例えるなら、寝つけたかと思った時の蚊の音のように聞こえてくる外野の声を封印し、そして厳しいブロック(組み合わせ)を勝ち進んだ中京大中京は優勝するにふさわしいチームだ。
対戦相手を見ると、2回戦の関西学院、準決勝の花巻東、そして今日の日本文理である。
どうしても、中京大中京はアウェーの環境、特に高校野球では不利に働く事が多い。
それに負けず、ことごとく打ち破ってきた中京大中京は、歴代の優勝チームと比べても、遜色がない実力といえるだろう。

新潟の日本文理。
1回戦の藤井学園寒川(香川)に逆転勝ちし、夏の大会初勝利を挙げた後、快進撃はとどまらず決勝まで進んできた。
大会のダークホースというと失礼だが、台風の目だったことは間違いない。
この勢い、流れからいっても、背中を後押しされ、優勝を勝ち取ってもおかしくなかった。
決勝を見ても、ラッキーチームとして上がってきたのではなく、しっかりとした実力を証明した。
特に打線のつながりは驚異的だった。
だからこそ、もう一歩という残念さは感じてしまう。

いや、残念だと思っているのは一瞬にするべきだ。
なぜか?
それはこの記事を見れば明らかになる。
ぜひご覧いただきたい。
「高校野球・健闘をたたえ合う両エースの堂林と伊藤の写真」
(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090824-00000048-jijp-spo.view-000)

どちらの選手(チーム)が勝ったのかわからないほどの笑顔。
多くの言葉はいらない。
これが高校野球なのだろう。
執念や因縁、期待など、どろどろしたものは試合後にはすっかり流されている。
観ている者が引きずっていては、素晴らしい試合を見せてくれた選手達に失礼になろう。
今はただ、白熱した大熱戦を観ることのできた幸せをかみしめたい。

posted by ballgame |23:56 | 野球全般 | コメント(1) | トラックバック(1)
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2009年08月21日

明豊は2つのチームと戦った(花巻東対明豊)

間違っていた。
「花巻東対長崎日大戦はひょっとすると今大会NO.1と言えるほどの戦い」
以前のブログに書いたことだ。
いや、間違っていたわけではない。
試合が終わった後、決勝まで行ってもこれを上回る試合は見れないと思ったのは本当だ。
そして、今時点も目を閉じれば思いだす素晴らしい試合。
今後、甲子園の歴史に必ず残る試合でもある。

しかし、今日準々決勝第1試合が終わった時点で、それを上回る試合が出てしまった。
花巻東対長崎日大戦はベストゲームであることは誰も否定できないだろう。
だが、大会NO.1の戦いは、この準々決勝第1試合に譲ることとなった。
WBCでの戦いを思い出すほどの興奮。
まさか、今年は野球でこれほど盛り上がることはないだろうと思っていたが、違っていた。
まさか、あれほど面白い試合は見れないだろうと思っていたが、裏切られた。
試合展開でも、野球の流れでも。

前置きが長くなってしまった。
長文となるが、ぜひお付き合い下さい。


試合を見ることはできなかったが、エースの菊池の出来は大会一番という話。
問題は連投がどう出るかというところだろう。

相手は、大分の明豊。
花巻東の監督は「出来れば当たりたくないチーム」と語ったこの相手。
今年のセンバツ、2回戦で戦って4対0で勝利しているが、点差以上に苦戦したという経験からの言葉なのだろう。
特に注目して追いかけているチームではなかったので、印象は今宮という投打の要の選手がすばらしいということ。
そして、打線が強力な強いチームであるというイメージがぼんやりある。
対戦相手を聞いて、花巻東のくじ運の悪さを嘆いたものだ。
タフな相手ばかりが続く。
いや、だからこそドラマ性のある展開を見ることができ、選手も甲子園で成長できたのかもしれない。

先攻は花巻東。
明豊の先発は今宮。
先頭打者の頭部への死球で始まった試合。
これは、のちの波乱の試合展開を予測させる幕開けとなった。
(波乱の大きさは誰にも予想できなかったが)
ランナー3塁まで行くが、得点につながらず。

連投となる菊池だが、テンポのよい投球は普段と変わらず、むしろ好調な立ち上がりに映る。
注目の今宮との対決だが、初球のストレートをセンターフライ。
ただ、打ち取ったとはいえ、センター深いところまで運ぶ力強さ、初球からの積極性から野球センスを伺わせる。

2回表に早くも試合が動く。
先頭打者が初球をライト前ヒット。
今宮は簡単にバントをさせまいと、しきりに内角を攻める。
しかし、狙いすぎて四球を与えてしまう。
送りバントで、1死2、3塁。
打者は8番菊池。
この大会では、よく菊池の場面でチャンスを迎えるのをよく目にする。
投げるだけでもなく、打つことでも花巻東のキーマンとなっている印象だ。
1-2からスクイズを仕掛けるが、菊池は失敗してしまう。
しかし、追い込まれてからの菊池のバッテイングがすごかった。
内角ストレートを、絶対打球は上げないというスイングで叩きつけた打球は、見事高いバウンドのセカンドゴロ。
先制点は花巻東が奪った。

なおも、2死3塁。
9番山田は隙をつき、初球セフティーバントを狙う。
完全に虚を突かれた投手の今宮。
動作が完全に遅れたが、バントは投手前に正直に転がってしまった。
狙いは面白かっただけに、もうすこし横にずれていれば追加点もあり得ただろう。
見事な展開で1点を奪う。

2回裏、菊池は三振2つを含む三者凡退。
調子は上々だ。
0-3のカウントからの三振は、菊池の精神的な落ち着きを物語っている。
菊池の投球もいいが、花巻東の守備が面白い。
打者によってだが、ランナーがいない場合は、三塁線をかなり開けて守っている三塁手。
極端に深い外野守備。
特徴のある極端な守備位置が目立つ。

3回裏も三振2つを奪う菊池。
ここまで完璧といっていい投球で、完全ペース。
ファールグラウンドでの、セカンドの背面キャッチもあった。
このフライの処理は難しい。
ホーム側を振り返ることなく、後方を向きながら球を最後まで追い、最後に球の落ち際に合わせてキャッチ。
こういうプレーがでれば、流れは花巻東へ傾く。

4回表、先頭打者が、内角高めを強引に左中間へ運ぶ2塁打。
ここから花巻東のそつのない、野球知識の高い攻撃が始まる。
6番千葉の送りバントは、サードと投手の間への、球の勢いを殺さないプッシュ気味のバントを狙った。
ギャンブル性の高いバントだが、投手は反応出来ず、内野安打となる。
無死1、3塁。
7番佐々木の強烈な打球が、投手の右を襲う。
これを投手がはじき、ショートが逆を突かれた形となり、内野安打となる。
明豊にとっては、不運な追加点となった。
投手の今宮の反射神経の良さが裏目に出てしまった。
普通なら、投手がさわることのできない打球である。
中間守備をひいていた内野陣、ショートは2塁ベースへ近い位置へいたので、追加点は取られただろうが、ゲッツーでランナーはいなくなっていただろう。
プロでも、守備のいい桑田などで同じような場面を思い出す方も少なくないのではないか。
(東京ドームでの、バントが三塁線への小フライとなり、とびこんだ桑田を思い出す。それで桑田は肘の手術をすることになってしまった)
触るなと言っても、打球が来たら反応するのが、うまい選手の本能的なもの。
仕方のないところだ。

なおも、無死1、2塁の場面。
8番菊池が送りバント。
今回は、1塁線へのバントと、方向を変えてきたのがうまい。
しっかり送れたが、ここでアクシデントが発生する。
ベースカバーに入ったセカンドとぶつかって倒れこんでしまった。
スローでは、左手を地面についているが大丈夫か。
一瞬ひやりとするが、菊池の表情は笑顔だ。
1死2、3塁。
9番山田は、セフティースクイズを狙うが、これはラインを狙いすぎてファールとなる。
もっと甘い狙いでも、セーフになっていただろうという隙をついた攻撃。
追い込まれるが、外角低めを逆らわず三遊間を抜けるヒットを放つ。
これでこの回2点目。

1死1、3塁の場面で、明豊は今宮を下げ、野口をマウンドへ。
しかし、花巻東は攻撃の手を緩めない。
代わった野口の初球を狙い澄まし、ピッチャー返しのセンター前タイムリーヒット。
投手の代わりっぱなをたたくセオリー通りだが、非常に有効な攻撃。
まるで、長崎日大の寺田投手への交代の場面を見ているようだった。
高校野球では、波に乗られると投手交代で止めるのは難しい。
そのケースが証明された場面でもある。

4対0。
花巻東には理想の展開である。
それにしても、試合を重ねるごとに洗練されてきたとでもいおうか、場慣れしてきたとでもいおうか。
まるで、甲子園をホームとしているように、のびのびと試合をしている。
甲子園での成長が、はっきりと目に見えるいいチームだ。
こうなると後は、先ほどの攻撃で、野手にぶつかった菊池の出来だけだ。

注目の4回裏、解説者の「菊池の立ち姿がいい」という表現がいい。
まさに堂に入っているというところだろう。
なかなかやるなと、思わずうなずく。
明豊は打者2巡目に入り、いい当たりを打たれるものの、3者凡退で打ち取る。
どうやら心配はなさそうだ。
それより気になるのは、バッテリー間の配球だ。
この回、いい当たりを打たれたのは、3球続けて同じ球種を同じようなコースに投げ込んだもの。
本塁打を浴びた展開もそうだったはずだ。
1回戦から気になっていたが、この試合も目立つ。

5回表、花巻東は手を緩めない。
四球、送りバント、四球で1死1、2塁のチャンス。
この四球もフルカウントからの四球であり、送りバントも得意のドラッグバント。
惜しくもアウトになったが、簡単にアウトを譲らない気持ちが表れている。
まるで、花巻東の選手はテニスラケットでバントをしているように、自在に打球を操る。

明豊は早くも3人目の投手を送る。
ここは大きな賭けだ。
追加点を取られれば、試合が決まってしまう恐れがある5点差。
高校野球は何があるか分からないとはいえ、4回までの菊池から5点以上捕るのは至難の業である。
それに、先ほどの回のように、ピンチの場面での投手交代は、えてしてうまくいかないことが多い。
そんなリスクが多い場面での賭け。
この勇気あるチャレンジに、野球の神様は明豊にほほ笑んだ。
7番佐々木をセカンドゴロ併殺に打ち取り、ピンチを抑えた。
ただ、漫然とチャンスが巡ってくるのをまっていたわけではない。
初球を狙われないように、ボールから入った事、そして緩い球を2球続けて打ち気をそらしたことも大きい。

ピンチの後に…とは高校野球では散々言われた言葉。
花巻東を追いかけて、ブログを書いている自分も何度使ったことか。
しかし、この試合に限って、菊池の出来を見ているだけに、4点差があることで、今日は安心して見ていられると思った自分は甘かった。
いや、菊池に起こったことが予想できなかった。

5回裏、菊池は珍しく気合が乗っている表情をしている。
これまでひょうひょうと投げていたのに、明豊の4番阿部を意識しているのだろうか。
内角をしつこく狙うが、狙いすぎて四球を出す。
この試合初めてのランナーだ。
5番寿が、初球を積極的に振っていく。
三遊間を詰めていたサードが打球に触れるが、打球に執念が乗っているように、レフト前ヒットとなる。
無死1、3塁。
明豊初のチャンス。
6番河野は、深く守っていたライトへ大きな犠牲フライを放ち、明豊が1点を返す。
前の回にはとどめを刺されそうだった明豊が、息を吹き返した瞬間だった。

この回の菊池はなにかおかしい。
気合の乗ったように見えた顔は、踏ん張る表情だったのだ。
汗が噴き出る。
息が少し荒い。
内野手の呼びかけにも、笑顔がこわばる。
ボール球がはっきり外れる。
ヒットを打たれた時のサードカバーの足取りも重たげだった。

次打者をショートフライに抑えるが、しきりと左腰を抑えている。
相当ひどいようだ。
ここで、投手交代。
菊池はレフトへ。
レフトの守備位置では、右、左の腰をしきりと触っている。
ぎっくり腰だろうか。
4回の接触が影響しているのは間違いない。

投手はサードの猿川。
明豊は初球を狙うが、セカンドフライ。
積極策は面白かったが、結果が出なかった。
快晴の空、はるか遠くの山間にかすかな暗雲が立ち込める。
夕立を思わせる雲だが、こちらまでは来ないだろうと言い聞かせる。

6回表、4対1と花巻東のリード。
ここでグラウンド整備が入る。
この時間が花巻東に助けとなるだろうか。
長く感じた整備の後、打席は8番菊池から。
しかし、打席には代打の斎藤が立つ。
グラウンド整備の間の治療でも、だめだったか。
相当ひどいのだろう。
代打を送るということは、この試合もう菊池は使えない。
大きな決断である。

代打が告げられ、スタンドは戸惑っている雰囲気。
代打の斎藤は、初球をセカンドゴロ。
この状況で、初球打ちはどうなのだろう。
どよめくスタンド、沈んだ雰囲気が出る。
しかし、この雰囲気にただで沈み込む花巻東ではない。
9番山田が、セフティーバントを決め、流れを戻そうと試みる。
後続が見逃し三振、ショートゴロに倒れる。
そういえば花巻東の選手の見逃し三振は珍しいように思う。
自分の記憶にはないが、その状況がおこるということは。。。

6回裏、投手は引き続き猿川。
猿川はセンバツでもマウンド経験があるという。
初体験であがるという心配はなさそうだが。。。
先頭打者は、三遊間深いところへ転がす内野安打を放つ。
続く打者の打球はセンター前かという当たり、ショートがバウンドをうまく合わせ、好守。
ゲッツーかと思いきや、ファーストへの悪送球で、1死2塁となる。
花巻東の守備でのミスは珍しい。
前の回の見逃し三振といい、守備のミスといい、エースがマウンドにいないというあせりがあるのだろうか。
どこかちぐはぐしている花巻東。
動揺が明らかで、まるで腰高の力士のようだ。
5回までとは、まったく違うチームになっている。

一度狂い始めた歯車は、なかなか元に戻らない。
2番砂川を追い込むも、内角高めを力でライト前に運ぶ。
猿川では抑えられないのだろうか。
今まで、完璧に抑え込まれてきた反発力は恐ろしい。
明豊打線の力強さが浮き彫りになる。
それとも、菊池の投球力が図抜けている証になるのだろうか。

1死1、3塁で打者は今宮は高めストレートを、セカンドフライに打ち取る。
これで2死。
明豊は動く。
4番阿部の2球目、1塁ランナーが盗塁。
キャッチャーは送球は良く、きわどい送球だが、ベース手前でセカンドがカットしてしまう。
点差は3点差。
勝負しても良かったのではないか。
花巻東のちぐはぐな動きは続く。
0-3になった阿部を敬遠で満塁とする。
守りやすくなるとはいえ、逆転のランナーだ。

2死満塁。
猿川は、この回スライダーがまったく決まらない。
スライダーのストライクは1、2球程度だ。
となると打者の狙いは決まる。
ストライクゾーンに来た外角ストレートに逆らわず、きれいなライト前ヒット。
これで1点差。
6番河野の2球目、コントロールが効かないスライダーが暴投となり、2死2、3塁となる。
目を覆いたくなるような展開。
ここでまたもや満塁策。
火に油をそそぐだけなのではないか?
花巻東の采配に、首をかしげ続ける。

7番木森、2ストライクと追い込む。
3球目を外角に外し、勝負の4球目は外角高めのストレート。
ボールとなり2-2。
3球目の意味が全くない、無駄な球となったリードに、嫌な予感が頭をよぎる。
スライダーでストライクが入らない今、積極的に3球勝負のはず。
2-0からのスライダーでもいい。
カウントを悪くしては打者の狙いは1本。

その外角へ来たストレートを逆方向へはじき返す。
浅い守備位置のレフト。
左に下がり、右に動く。
その動作に心臓がどきっとする。
風が強く難しい当たり。
走者一掃という言葉がよぎる。
レフトの足が止まり、前を向き、グローブを差し出す。
そのグローブに打球がおさまる。
今年一番の深いため息が出る。
なんとか1点差を守り切る。

7回表、流れは完全に明豊である。
ここまで不安定な花巻東は、この大会初めてだ。
菊池という存在が、ナインをまとめる役目、まるで風船を抑える重りのようなものなのだろうか。
このまま、重りがなくなり風船は空へばらばらと上がってしまうのだろうか。
菊池の情報が入る。
背中の痛みで降板したとのこと。
ベンチで映る菊池の顔はすぐれない。
それとは対照に、明豊の投手山野の出来がいい。
四球を出すが、後続を連続三振に抑える。
フォークの切れがよく、花巻東は取りかかりがつかめない。

完全に明豊は花巻東を飲み込んでいる。
菊池のいない今の花巻東では、後は抑えるだけしか希望がないように見える。
逆転はもちろん、同点でさえ。。。
そんな中、マウンドの猿川は表情は変わらない。

7回裏、スライダーが全く入らない。
フルカウントからのストレートを見逃し三振。
明豊はもったいない。
ストレート一本でいいのに、手を出さず四球を選ぼうとしてしまう。
今日の球審はストライクゾーンが広い。
次打者も、初球のスライダー(久しぶりのストライクゾーン)をひっかけショートゴロ。
明豊の淡白な攻めが、花巻東に束の間の休息を与えるか。
勢いに乗りたいところだが、猿川は3者凡退に抑えられない。
ヒットを打たれ、ワイルドピッチでまたもピンチを迎える。
もう追いつかれたら追いつけない。
そんな雰囲気がどんどん溢れてきて、グラウンドを締め付ける。
完璧に狙われたストレートだが、レフト正面のフライに終わった。

例えるなら、今の花巻東は後ろが気になってしょうがないマラソンランナーだろう。
または大逃げをうっている競馬騎手のような心境がありありと浮かんでいる。
こうなったら、もう逃げ切るしかない。

そのための8回表、1死後苦しめられていたフォークをレフト前にはじき返す。
これは大きい。
送りバントでランナーを送り、2死2塁。
明豊は1番柏葉を歩かせ、2番佐藤で勝負する。
これはわかりやすい。
調子が落ち気味だし、内角にストライクを投げていれば打たれる心配は少ない。
また、長打を心配する必要はなく、外野を前に出せる。
その狙いはずばり、セカンドゴロに打ち取る。

8回裏、先頭打者は今宮から。
高めのスライダーで打ち取った当たりだが、深く守っていたライト前に落ちる二塁打。
浜風、右打者を計算するとそこまで深くなくてもいいのではと思ってしまう。
ちぐはぐ過ぎる。
しかし、これは今宮の貫録勝ちだろう。
無死2塁、4番阿部はバントの構えをしない。
狙い球を絞れる今の状況、送りバントはむしろ望むところ。
ここまで勝ち上がってきた明豊の勝負のにおいをかぎわける力はさすがだ。
2-2からスライダーが外にはずれ、フルカウントなる。
こうなったら目をつぶってストレートしかない。
他に投手はいないのか!
思わずつぶやく。
渾身のストレートは内角低めにずばっと決まる。
三振だ。

しかし、5番寿にスライダーが抜けて死球。
1死1、2塁。
花巻東はタイムを取り、伝令は菊池。
走り方はどこかおかしく、ぎこちない。
もうマウンドにはいない菊池だが、それでもここは菊池の神通力が必要だ。
マウンドに集まる内野陣に笑顔が出る。

しかし、その力も明豊の怒濤の打力の前には効き目がなかった。
6番河野、1塁線を破る2塁打で同点。
続く木森、浅いレフトの頭上を越える2塁打。
これで逆転、6-4。
あぁ、もう追いつけない。
試合の流れを追いかけてきた者にとって、これは死刑宣告のような2点差だ。
なおも1死2塁。
ここで猿川のスライダーが入り始める。
猿川は切れた、吹っ切れたのだ。
腕が振れてきた猿川は後続を抑えた。

8回裏の逆転はショックが大きい。
1回戦、長崎日大の逆のパターンだ。
正直、ここで花巻東の夏は終わったと思った。
応援している方もこう思った方は多いはずだ。
花巻東は、多くの期待を裏切る結果になるのか。
そう、花巻東は裏切ったのだ。
ただし、普通の結末を、野球の流れを信じる者を。

明豊は2つのチームと戦ったと言える。
4回までの花巻東と、5回以降の花巻東。
同じメンバー、たった一人菊池が抜けただけで、がらっと変わったチームと戦ってきた。
まさかここで、またあのチームが出てくるとは。。。

9回表、先頭の3番川村が追い込まれながらフォークを一二塁間にもっていく。
次はリードを守れなかった4番猿川だ。
8回裏の逆転で、猿川は吹っ切れていた。
消極的な態度はみじんもなく、2球目、初のストライクとなる球を積極的に打ち返す。
腕を畳み、センター前に運ぶ。
打球に不甲斐なさを乗せたような当たりだ。

これで、無死1、3塁。
5番横川の時、この試合最大の謎がおこる。
初球を横川はスクイズ。
これを空振りする。
どよめくスタンド。
カメラもサードランナーを映すが、ランナーは平然と三塁に戻る。
その間、猿川は2塁へ。
これはわざとなのだろうか。
打者の様子から察すると、自分はサイン違いだと思うのだが。。。
ぜひ明日の記事で、この詳細を種明かしされることを期待したい。
とにかく、この不思議なプレーでチャンスは広がった。
無死2、3塁。
横川は追い込まれながら、高めからの甘いフォークをセカンドの脇を抜けるセンター前ヒット。
呪縛がとかれたように、のびのびとし始める花巻東ナイン。
これはいったいどういうことなのだろうか。
説明がつかない展開に、応援している身でありながら、思わず「信じられない」とつぶやきが出る。
野球の法則にはないこの同点劇、花巻東のなんという底力だろうか。

送りバントの後、明豊は投手を今宮に変える。
サードを守っていた今宮は、ファーストに戻る山野の頭をなで、一緒に1塁側へ歩き出す。
その隙をついて、がらあきの三塁へ向かうランナー。
なんとタイムが取られてなかったのだ。
あの、空振りバントといい、なんとなんと驚くことが続くのか。
1死3塁。

しかし、開いた口がさらに広がったのは、さらにここから。
代わった今宮の投球が今でも信じられない。
初球、高めストレートに思わずバットが回る。
149キロにスタンドがどよめく。
149、152、154と徐々にスピードが上がっていくと同時に、スタンドのボルテージも上がっていく。
これは打てない。
今宮は、おそらく自分の失敗で招いたミスをぶつけるような怒りの投球をしていた。
その怒りの大きさは、勢いのある球に乗っている。
甲子園で145キロという球を、最近ではよく見かけるが、それとは異質な球だ。
とにかく早い、そう感じた球は久しぶりである。
初球のストレートで勝負はついていた。
最後はスライダーで2者連続三振。
このピンチをしのいだ今宮。
今宮は見事な火消しの役割を果たしたが、普通火消しは水で消すもの。
それを彼は、自ら燃やした怒りの大火で飲み込んでしまった。

信じられない同点劇の後、1死3塁で勝ち越したかった花巻東。
今日の試合程、流れが読めない試合はない。
惜しむらくは、投手交代の時、初球スクイズを狙っても面白かったと思う。
それに、偽装バントを行うのであれば、初球スクイズだってあり得る。
もう同点なのだから。
そういった意味で、あの横川のバントは偶然の出来事だと思うのだ。

もう何が起こってもうなずくしかないこの展開。
9回裏、明豊は先頭打者のヒット、送りバントで1死2塁となる。
ここで3番今宮は敬遠。
9回表の投球を見ると、とてもじゃないが勝負にいけない。
猿川も踏ん張る。
4番阿部を外角低めのストレートでライトフライ。
5番寿を詰まった当たりのレフトフライに打ち取る。
球速は及ばないが、こちらのストレートも気持ちが乗っている。
今宮が真っ赤な炎だとすれば、猿川は静かに燃える青い炎だ。

これで延長戦。
10回表、今宮の投球は9回表の投球ではなく、これから先を見据えた先発した時のような投球となっていた。
いわば、省エネ投法だ。
1死後、サード強襲のヒット。
2番佐藤の送りバントの際、またもベースカバーに入ったセカンドと激突。
佐藤は動かず、目を閉じたままタンカで運ばれる。
騒然とするスタンド。

あまり言いたくないが、この試合2回目。
菊池に続く衝突である。
完全に故意ではないにしろ、セカンドのランナーとぶつかるという意識への低さが表れている。
ベースカバーの後の動作を考えていない。
佐藤の場合は、タイミングはきわどい(それでもよけれた)が、菊池の場合は完全に余裕があった。
セカンドは普通、1塁をちょっと踏んで、ダイアモンドの中に戻るものであるが、彼は違う。
ベースを踏んで、なんとなく止まらない。
それではランナーにぶつかるのはしょうがない。
本当のきわどいプレーではないだけに、それ以外の打球処理は素晴らしいものがあるだけに、余計に残念である。
個人を攻めるわけではないが、タンカで運ばれる選手を見るとそう言わずにはいられない。

話を戻そう。
長い間が開き、2死2塁。
3番川村は待っていた。
その初球、ストレートがシュート回転して真ん中へ入ってきた球を、しっかりとらえ、9回の同点打の再現のようなセカンド脇を抜けるタイムリーヒット。
花巻東のそつなさが目立った、そして気持ちで運んだヒットと言えるだろう。
佐藤の退場劇で、ぽっかりあいた思考の空白、油断したわけではないだろうが、なんとなく投げた初球を見逃さない。
そしてその打球は、気持ちが乗っていた。
佐藤の退場で、菊池の交代のきっかけとなったプレーを思い出したかのように。
昔の話で恐縮だが、日本シリーズ0勝3敗で勝っていた近鉄の投手の余計なひと言(ロッテより弱いだったか?)を思い出す。
闘志に火をつけたプレーとなったことだろう。

10回裏、なんとか抑えたい花巻東。
佐藤の治療で時間がかかる。
花巻東の監督は、治療がおこなわれている1塁ベンチに向かう。
職員と話す監督、心配そうな表情だ。
その画面から、何事もなかったかのように軽快に走りだす佐藤。
3塁ベンチからグローブを取り、センターに向かう間、甲子園全体の拍手が止まることはなかった。

これで甲子園全体を味方にすることができたのだろうか。
野球の神様も満足したのだろう。
四球でランナーを出すものも、猿川が抑え、興奮の試合は終わった。


奇跡のような3時間。
まさか、まさか花巻東が勝てるとは思わなかった!
試合終了後、ドでかいガッツポーズをした方は、自分だけではないだろう。
そして、ほっとしたため息。
花巻東の挑戦というろうそくは、消えかかる寸前だった。

この逆転劇は、まさに花巻東の底力だろう。
この強さはどこからくるものだろう。
監督の指導も大きいのは言うまでもない
それにやはり、菊池の存在が大きいのだ。
菊池がいるところで、「一緒にやりたい」という好選手が集まる。
他の選手は「いいところまで行ける」という期待感が出てくる。
その期待感が、試合に負けることで、自分たちの不甲斐なさを感じたことだろう。
不甲斐なさを感じ、自分たちがもっとやらねばという思いが芽生える。
菊池を助けたい、おんぶされているだけじゃないという思いが、努力に努力を重ねる。
その努力が実を結び、いつのまにか個々として菊池を頼らないようになった。
菊池はそのメンバーを頼もしく思いながら、ますます自分を磨く。
そこで、全員が強い個を持ちながら、本当に一つのチームワークが生まれているのではないだろうか。

花巻東は今、菊池の力で勝った試合は少ない。
もちろん、野手が点を取らねば勝てはしないが、センバツの時のような「菊池におんぶにだっこ」という人はいないだろう。
むしろ、菊池を支えているといっていいだろう。
その力強さが頼もしい。
そして、準決勝、決勝はいよいよ菊池の本領を発揮しなければならない。
選手たち全員の落ち着きは頼もしい。
審判がしきりに注意していたが、それを気にせず、捕手が何度もタイムをとって間をとっていた態度。
大事な場面でのこうした譲らない気持ち、さまざまなバントなど自分の持っているものを出し切り、戦う平常心は、甲子園をホーム化しているといっていいかもしれない。

1回戦で好試合、3本塁打、8回の逆転劇を見せた長崎日大戦。
2回戦では監督の師弟対決となった横浜隼人戦。
3回戦では、なんともったいない東北勢同士の対決となった東北戦。
そして、この準決勝。
明豊のリベンジをかけた試合。
ここまで、試合すべてにドラマがあり、タイトルが付けられるほどの展開を見せる花巻東。

こうなると、観客を巻き込んで期待がさらに膨らむ。
もう口に出してもいいだろうか。
あと2つ…。
勝ち負けよりまず、菊池の怪我がよくなりますように。

大変長くなってしまいました。
貴重なお時間いただきました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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2009年08月18日

さわやかな予定調和(花巻東対横浜隼人)

花巻東の佐々木監督、「感謝の思い。教えていただいたことをすべて出すことがわたしの仕事」と感慨深げ。
横浜隼人の水谷監督、「夢のよう。本当に幸せ。ここまで来たら大きな旗を持って帰ってほしい。わたしの分まで」と号泣。
こんな終わり方はあるだろうか。
漫画の「MAJOR」でも「タッチ」の中でも、映画の「メジャーリーグ」の中でも、ここまで出来すぎな話は見たことがない。
しかし、それがすっと腑に落ちる。
抵抗なく飲み込めるやさしいスープのように、体が温かくなる。
なにか結末から書いたような物語、それでいて違和感はない。
さわやかな予定調和とでもいうのだろうか。
大会8日目、花巻東対横浜隼人の1戦は、高校野球の爽やかさ以上の結末を迎えた。

花巻東の佐々木監督は、横浜隼人の水谷監督の下でコーチを務めていたそうだ。
水谷監督は、佐々木監督の仲人をした程の仲である。
いわば師弟対決となったこの1戦。
横浜隼人のユニフォームは、阪神タイガースを模して作られたらしいことは聞いていたが、あれほどそっくりだとは思わなかった。
投手がアップで映し出された時の帽子のマーク。
まさしく「HT」ならぬ「HY」が絡まり、阪神タイガースとなる。
花巻東の菊池に注目が集まるが、横浜隼人のユニフォームを見ると、甲子園で応援する観客は、条件反射で思い入れが湧く。
応援は互角だろう。
そこまで計算したわけではないだろうが、甲子園の声援をホームの声援に変えるうまい作戦だ。

阪神タイガースを想像させるせいか、横浜隼人の水谷監督。
カメラに映る度、若き日の真弓を思い出してしまう。
現役時代の真弓の姿は、もうおぼろげだ。
しかし、昔の真弓はああだったろうなぁとなぜか感じてしまう。
監督にしては珍しく、外野に一番近い側のベンチで立つ姿。
笑った時の歯がまぶしげに光り、ナイスミドルといったところである。

高校野球のチームは、監督が変わるとチームカラーも変わる。
短い間で、あっと言う間に強豪チームになりかわる。
周りからどんどん吸収する時期である高校時代、監督の影響は大きいものだ。
結婚すると、夫婦ともだんだん似てくるというが、横浜隼人の選手を見ていて、同じことを思った。
監督が笑い、選手が笑う。
選手達の笑顔がさわやかなのだ。
それに歯が輝き、きれいである。
日焼けした肌と、白い歯。
CMに使いたくなるようなコントラストが強烈に印象に残る。
今日はどうしても、野球と関係のないところに目が行ってしまう。

試合は1回裏、花巻東は「らしさ」を存分にだして先取点を奪った。
1死後、四球で出たランナーが盗塁、センターフライの間に三塁へ行く。
4番猿川が、ピッチャー強襲のセンター前ヒットを放つ。
1回戦でも、猿川はヒットを打っていたが、追い込まれるまでバットが出ないように感じた。
球種をしぼるというよりも消極的な感じが目立っていたが、この日は積極性が見れた。
打線の中核となる選手に勢いが出てきたのは、今後楽しみである。

横浜隼人は、いい当たりをされるものの、サード、ファーストの好守備が光る。
3回裏の2死1、3塁のピンチもしのいだ4回表。
今日は、アナウンサーのやや大げさとも感じる詩的な、独特の口調を楽しめたのだが、極めつけは4回表だ。
「高校野球は、えてしてピンチをしのいだ後にはチャンスがやってきます」
そのセリフを終えた瞬間、1番森が真ん中ストレートを、会心の当たり。
心地よい音を残し、ラインドライブで左に切れながら、レフトスタンドへ飛び込む本塁打を放った。
ここから見始めた人は、このアナウンサーのセリフは預言?と思われたかもしれない(笑)

同点に追いつかれた花巻東は、その後もいい当たりを放つが、好守に阻まれる。
1塁をはるかに駆け抜ける全力疾走には、相変わらず好感を持てるが、横浜隼人の好守、そしてにじみ出る高校球児らしいさわやかさ。
いやな流れを感じていた7回裏。
1死後、8番菊池がセンターオーバーの当たりを放つが、中継が素晴らしく、三塁で刺される。
これはまずい。
しかし、このいい流れを横浜隼人は自ら手放してしまう。
9番佐藤のサードゴロを悪送球。
7回以降の花巻の強さ、そして相手のミス、ちょっとしたほころびを見つけ、それに付け込む強さ。
1番柏葉の当たりは、横浜隼人の本塁打とちょうど同じようなところ、レフトスタンドに飛び込んだ。
2ランホームラン。
これまで、2番手萩原は、打者の内角を突くことで花巻東の打者を苦しめてきたが、甘く入ったストレートは見逃してくれなかった。

8回にも追加点を加えた花巻東は、菊池がしっかり抑え、花巻東が3回戦に勝ち進んだ。
大会前の評判では、菊池に注目が集まっていたが、ここまでの2戦、菊池はそれなりに抑えている。
抑えているが、目立つのはやはり打線である。
どのチームもチャンスを作ることはできる。
しかし、そのチャンスを確実に点につなげることができるか、もっといえば相手のミスを、ミスとして付け込めるか。
「失敗した」と思わせることができるかどうかが、強いチームである。
花巻東は、長崎日大・横浜隼人戦と決して楽には勝ち進んでいない。
だが、戦った相手は、そして見ている側は、点差以上に「強い」と感じてる方が多いかもしれない。

もちろん、菊池の出来に物足りなさを感じるだろう。
ここに面白いデータがある。
大会8日目まで終わり、本塁打はちょうど20本となった。
そのうち、菊池は4本を献上しているのだ。
大会の5分の1の被本塁打を打たれている。
それでいて3回戦に勝ち進んでいるという矛盾。
今までこんな投手はいただろうか。
皆の期待通りではない菊池に、そこはかとない不思議な魅力を感じるのは自分だけだろうか。

さわやかな予定調和、そして不思議な魅力の菊池。
1回戦での、大会のベストゲームと呼べるほどの熱戦とは、また違った楽しみを与えてくれた2回戦。
大差で、隙のない試合をしているチームは、案外ころっと敗れてしまうものである。
紆余曲折がある花巻東の戦いを見て、古い話で恐縮だが、松坂が所属した横浜の戦いを思い出す。
はらはらさせながら勝ち進むところは、十分観る者の心をつかんでいる。
サッカーで、バルセロナは「世界で2番目に好きなチーム」と言われるそうだ。
甲子園での、高校野球を愛する人にとっての、バルセロナのように、応援したくなる要素は十分にもっている。
甲子園の「アイドルチーム」となる可能性は高い。
歓声が勝利への後押しをしてくれるチームとなれるだろうか、注目である。
また、2試合続けてタフな試合をしたことで、大会中もチームは成長しているだろう。

3回戦も楽しみであるが、組み合わせを見ると、なんと次戦は9日目第1試合の勝者と当たる。
なんと、東北が勝ったなら、こんなところで東北対決が。。。
あまり先のことを考えると、鬼が笑うという。
真夏に鬼は似合わない。
出てきてほしいのは、勝利の女神である。
まずは、明日の東北の応援。
そして…いやいや、軽々しくは口にすまい。
3回戦は20日に行われる。
期待したい。

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2009年08月16日

チャンスを作る、チャンスを活かす(PL学園対聖光学院)

大会6日目、PL学園対聖光学院は6対3で、PL学園が勝ち進んだ。
第1試合だったが、早々に甲子園は満員。
土曜日ということもあるが、注目の高さがうかがえる。
東北のチームを応援していた自分は、聖光学院は台風の目となれるのではないかと、ひそかに期待していた。

1回表、聖光学院は1点を先制するが、すぐさまPL学園は2点を取り、逆転する。
3回に1点を追加された聖光学院は、6回表に同点に追いつくが、その裏、すかさず3点を取られ、そのまま試合は終了した。
取ったら取られる、追いついては離されるといった展開で、点差以上にPL学園の強さを感じた試合だった。

強さを感じたといっても、聖光学院が弱かったわけではない。
先発の横山は11三振を奪う力投、打線は先頭打者を5回も塁に出したのだ。
ひょっとすると…という期待感は十分に感じさせられた戦いだった。

聖光学院は、ここ最近力をつけたチームで、3年連続甲子園に出ているチームで、去年はベスト8まで進んだチーム。
全国での強豪として名を上げつつあるが、今回のPL学園の前に立つと、真の「強いチーム」としての完成度の違いが浮き彫りとなった。
強いチームとは、どんなチームなのか。
それは、相手チームのミスにつけこむしたたかさを持ち、チャンスをしっかり活かすことができることだろう。

この試合では、チャンスがキーワードとなる。
聖光学院は、チャンスを「作っていた」。
PL学園は、チャンスを「活かしていた」。
その違いが、試合を決定づけた。

先頭打者を出し、送りバントなどでスコアリングポジションにランナーを送る聖光学院。
しかし、そのからの1本がなかなか出ない。
PL学園の守備は、サードにランナーがいても、焦ることなく、落ち着いて打球を処理していた。
明確なのは、同点に追いついた6回だろう。
無死満塁から、聖光学院の打者が放ったセカンドゴロを、ホームに投げるわけではなく、二塁に投げ、ゲッツーを取る落ち着き。
決してホームが間に合わないタイミングではなかった。
2点差で勝っていた場面ではあるが、この落ち着きは、同点になってもうちのチームなら大丈夫という、強者の自信のようなものが感じられないだろうか。
このプレーを見て、正直自分は舌を巻いた。
そして、これまでの試合展開から感じていた、苦戦の理由がはっきりわかったのだった。

個々の成績を見ると、ヒット数や投手の出来などは、遜色なかった。
ただし、PL学園には、チャンスを作ると、必ずものにしていた点が違う。
まるで、省エネを実施しているような戦いでもあった。
全国に認められる強豪ともなると、集中力の違いが明確となる。
聖光学院は、9回まんべんなく力を注いだ。
PL学園は、9回のうち、その中でチャンスを迎えた3回に、力を集中していた。
聖光学院はマラソン、PL学園はスプリントと競技が違うような感じさえ受ける。

言い方は悪いかもしれないが、まんべんなく力を注がなければ、PL学園にやられてしまうという思いがあったのではないだろうか。
もちろん、そこまで差があったわけではない。
しかし、そう感じてしまうほどPL学園の集中打は圧倒的だった。
惜しむらくは、聖光学院が点を奪った1回、7回、その裏にすかさず点を取られたことだった。
両方ともツーアウトまでこぎつけながらの失点。
横山投手の出来が良かっただけに、逆に悔やまれる。

聖光学院にだいぶ肩入れしてみていたが、一日経って冷静になっても、聖光学院は台風の目になりうる存在だったと思う。
相手が悪かったとしかいいようがないかもしれない。
少なくとも、数年前のようにじりじりと、いつの間にか大差で負けていた、そんな展開ではなく、がっぷり四つに組んだいい試合を見せてくれた。
この経験をチームに活かすことができれば、来年、再来年も強豪チームとして、この甲子園に戻ってくることを、十分に期待できる。

同点に追いついた後の7回裏、先頭打者のサードゴロを悪送球でランナーを活かしてしまった聖光学院。
それを傷口とみるや、すかさず塩を用意するようなPL学園。
チャンスを作ることと、チャンスを活かすことには大きな差があるということが、明確なまでに解らせられた試合だった。
そこには、残酷なまでに勝者と敗者の線引きがなされる。
サッカーの日本代表ではないが、なんとなくそこに共通するものを感じた試合だった。
うーん、惜しい!

posted by ballgame |08:13 | 野球全般 | コメント(0) | トラックバック(0)
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2009年08月15日

高校野球のバイブル完成?(花巻東、大きな緒戦突破)

毎日熱戦が続く、夏の高校野球だ。
少々古い話となるが、ぜひお付き合いいただきたい試合がある。

その試合は、夏空が戻り、高校野球らしい天候に見舞われた甲子園の3日目。
そろそろお盆の時期ということもあるが、今日は9時50分の時点で満員となったそうだ。
やはり地元の関西学院(兵庫)、古豪の龍谷大平安(京都)、中京大中京(愛知)の登場もあり、注目度の高い1日となった。
その中で一番の目玉はといえば、第4試合の花巻東(岩手)対長崎日大(長崎)の一戦である。

かたやセンバツの準優勝校、かたやそのセンバツ優勝チームを破っての出場。
その期待にたがわぬ素晴らしい一戦だった。
先日のブログにも書いた通り、東北生まれの自分は、花巻東を応援していた。
結果的には、花巻東が勝ち進んだからかもしれないが、そのひいき目を除いても、ひょっとすると今大会NO.1と言えるほどの戦いだった。
熱戦もさることながら、「これぞ高校野球だ」というバイブルとなるような内容がたっぷり詰まっている。
その戦いを振り返りたい。


先攻は長崎日大、対するは花巻東のエース菊池だ。
先頭打者にヒットは打たれるも、後続を打ち取り、まずまずの立ち上がり。
対する長崎日大の先発は大瀬良。
情報は少なかったが、清峰の今村と投げ合い、勝ち進んできた投手は伊達ではない。
2段モーションともとらわれがちな、ゆっくりとした投球フォームからの、ストレートの切れ、コントロールともに文句なく、粘られはしたが、初回を3人で打ち取る。
何よりこの大瀬良、投球前の笑顔がリラックスの証。
無理に笑顔を作っているわけではない様子から、肩の力が抜けたいい投球が期待できそうである。

投手戦になると思った矢先の2回表。
長崎日大の7番山田が、菊池のスライダーを見事にとらえ、レフトスタンドへライナーで飛び込む本塁打。
先制点は長崎日大に入った。
右打者の山田は、内に食い込むスライダーに驚いた表情を見せながら、3球続いたスライダーに対応し、見事な一打を放った。

長崎日大の打者は、狙い球を絞って打席に立っている。
右打者は右へ、左打者は左へおっつけるバッテイングがチームで徹底されている。
なにより、菊池のストレートをものともしない、力強いスイング。
相当な打ち込みの量が想像できる。
これは菊池も苦戦しそうだ。

1点を追う花巻東だが、大瀬良の前に単発のヒットは出るが、正直点の入りそうな予感がしない。
初めてのチャンスは5回裏。
1死後、左中間へのヒットをセンターがうまく回り込んで抑えたが、そのあとの返球が悪く、打者は2塁に進んだ。
1死2塁、初めてスコアリングポジションへ、ランナーを進めた。
打者は菊池、ドラマのような展開だが、ここは大瀬良のピッチングが勝った。
菊池、続く山田を連続三振に打ち取る。

5回までは、本塁打はあったが、お互いの投手から点を取れるような気配がなく、四球もない締まった投手戦だった。
ここまでの試合時間は1時間だということが、どれほどスムーズに試合が流れたかわかる。
しかし、ここから試合は大きく動きだす。
まるで甲子園に住む気まぐれな神様が、この展開は退屈だと言わんばかりに、だだをこね始めたように。
ここからが、「ザ・高校野球」の始まりである。
野球の格言が山ほど出てくる展開だ。

6回表、簡単に2死を取った後、3番小瀬戸に初球、死球を与える。
死球の後、狙うのは初球である。
投手心理を考えると、続けてぶつけたくない心理が働き、くる球は…そう外角である。
その外角高め、見送ればボール球のストレートをうまく逆方向にもっていき、打球はライナーでレフトスタンドに突き刺さる2ランホームラン。
読みがズバリ的中したのも見事だが、それを本塁打にできるスイングの力強さ、ミートのうまさをほめたい。
さすがの菊池も、顔から余裕が消え、悲壮感が出てくる展開。
花巻東を応援する自分も、「まずい展開となった…」という言葉がちらっと心をよぎる。

いやいや、ここは甲子園。
魔物か神様か、言い方はそれぞれあるが、確実に何か住んでいる。
一瞬まずいと思わせた原因は、先発大瀬良の好調さにあった。
しかし、その大瀬良、先頭打者を四球で歩かせてしまう。
3点差だが送りバント。
強めの打球が、ピッチャーとサードの間を抜けて無死1、2塁となった。
サードがバントに備えて、突っ込みすぎと言えるくらいの守備を確認した上での好バント。
次打者がしっかり送り、1死2、3塁となる。
このチャンスに4番猿川が、2ストライクまでバットが振れない。
消極的というか、緊張がさせたものか。
フルカウントで1塁に歩こうとした猿川を見ると、緊張でいっぱいだったのだろう。
なんとかファーストゴロを打ち、1点返し、なお2死3塁。
5番横倉は、積極的にファーストストライクを狙い、右中間にはじき返す2塁打。
これで1点差。
6番千葉の打席、大瀬良のスライダーが暴投となり、ランナーは3塁まで行く。
2ボールからの3球目を積極的にセンター前にはじき返すが、ショートが横っ跳びでボールをつかむファインプレー。
流れは完全に同点の流れだったが…これは大きいプレー。

こういうプレーの後は、勢いがつく。
7回表、連続ヒットの後、送りバントで1死2、3塁。
高めストレートをしっかりスクイズを決め、長崎日大がそつなくつき放つ。
これで、2点差に拡がる。
エースと言われる菊池の踏ん張り所だが、点を取られてしまう。
点を取った後、すぐとられる展開。
これは痛い。

7回裏、プロ野球なら六甲おろしが鳴り響き、ゴム風船が飛び交う展開。
高校野球では、そんな応援はないが、純粋な野球ファンの「もっと面白い試合を」という声なき声援は、花巻東を後押しする。
先頭打者がストレートをレフト前にはじき返す。
次打者、菊池がドラッグ気味のバントを試みる。
絶妙にピッチャー、ファースト、セカンドのトライアングルの間に転がる。
ファーストがボールを取るが、ベースカバーが遅れたピッチャーへ投げれず、1拍子遅れてベースに入ったセカンドへ送るが間に合わない。
普通のバントではないと警戒されるところでの、指導のDVDにでも使えそうな絶妙なドラッグバントを決める精神力はすごい。
9番が、バント失敗が続き、追い込まれながら難しいスライダーをうまく送りバント、1死2、3塁となる。
7回表と状況が一緒になる。
勝っている側、負けている側と立場は違うが、攻め方の比較ができ、作ったような展開に面白さが加算される。

ここで勝負に出たのは、長崎日大。
なんとこの場面で、好投していた大瀬良を交代した。
交代した大瀬良に、当然のように拍手が起こる。
菊池以上の出来といえる内容を讃える拍手は、花巻東を応援する自分でも納得だ。

交代でマウンドに上がった寺尾は、サイドスローの少し変則的な投げ方だ。
ここが試合のキーポイントとなるだろう。
仮にこのランナーが還っても同点となるだけだ。
今日の菊池の出来なら、いや長崎日大の打者の振りを見る限り、点を取ることは期待できる。
それに、この緊張した場面は、プロならまだしも、精神的にかなり負担がかかる場面。
とらえ始めたとはいえ、それまで苦しめられた大瀬良の降板も、花巻東にとってはプラスとなる場面。
ひょっとすると、これは大チャンスと、自然とテレビの前で前かがみとなる。

勝負のしどころととらえたのは、観ているものだけではない。
1番柏葉は、十分にこの機会を生かす方法を知っていた。
「変わった投手の初球を狙え」
その言葉通り、真ん中に入った初球のスライダーを、ピッチャーの足元を抜けるセンター前ヒットを放つ。
お見事!と思わず言葉が出る。
落ち着いた風貌の寺尾だが、瞳孔が大きく開き、多少の動揺を隠しきれない。

2番佐藤は初球セフティースクイズ。
惜しくもファール。
花巻東はたたみかけるすべを知っている。
2ストライクからの3球目、またも花巻東は動く。
ファーストがディレードスティール。
キャッチャーは果敢にセカンドへ投げる。
その間に、サードランナーがホームに突入。
クロスプレーとなるが、足が速い!
これで同点となる。
セカンド送球が若干だがそれたのが痛いが、それより隙をうかがったサードランナーをほめるべきだろう。
1死2塁と逆転の大チャンスは続くが、後続が抑えられ、同点どまりに終わる。

この展開で逆転できない流れに、眉をひそめる。
マウンドには、菊池が出てこない。
先ほど、サードランナーで突入した選手が菊池だった。
後半になり、加速する展開にあれほど盛り上がっていた甲子園に、一瞬の静寂が奇妙に映る。
8回表ではあるが、MLBの「セブンストレッチ」後の球場の雰囲気を思い出す。
カメラはしきりに、投球練習をする選手を映すが、数分後菊池がマウンドに上がる。
小走りな中に、心なしか顔をしかめる菊池がいる。
クロスプレーでは右わき腹を抑えていたが、投球練習を見る限り、問題がなさそうである。

この間が、この試合の勝敗を決める天秤の揺れに影響を与えるだろうか。
今、この天秤は絶妙にバランスが取れて、どちらに傾くでもなく揺れている。
先頭の2番小柳は、ストレートに全くタイミングがあってなく、すべて差し込まれていた。
バッテリーは、そこをつき、強引に内角低めを攻める。
その攻めが3球続いた6球目、小柳はゴルフのスイングを見るようにバットをすくいあげた。
打球はレフトスタンドに突き刺さる。
なんと、信じられない一打。
打った小柳もセカンドを回った後、信じられないようなほほ笑みを見せていた。

これで、長崎日大は再び勝ち越す。
長崎日大の打撃はシャープで力強い。
それをほめるべきだろうが、それにしても菊池は情けない。
取った後、抑えるのがエースと言われる絶対条件ではないのか。
リードミスなどもあるだろうが、不調なりにも抑えてほしいところである。
7回裏に勝ち越せない、取った後すぐ取り返される展開。
この流れは、やはり長崎日大なのか。。。

気落ちした花巻東を、絶望に追い込もうと、長崎日大は畳みかける。
ヒット、ツーベースで1死2、3塁とさらに追い込む。
特にツーベースは、ライトが深く守っていたため、ライン際に落ちたフライがぽとりと落ちる当たり。
長崎日大は、バットをきっちり触れているからこそのヒットだろう。
あぁ、追加点が入れば試合は決まってしまう。
見ているものはそう思ったはずだ。

そこで、運命に逆らったのは、やはり菊池だった。
1死2、3塁。
カウント1-2。
絶好の仕掛け場所で、長崎日大は仕掛けてきた。
スクイズだ。
菊池が力を込めた高めのストレートは、バントに勢いを殺されることなく、そのまま菊池の元に転がってきた。
ワンバンでキャッチした菊池は、落ち着いてホームにグラブトス。
キャッチャーはがっちりブロックし、ランナーはタッチアウトとなった。
この場面を切り抜け、1点で抑えたのは、菊池の最低限のプライドが守り切ったものだった。
そして、奇しくもスクイズを失敗したのは、交代した投手の寺尾だった。

勝ち越しのチャンスがありながら、同点どまりの花巻東。
試合をリードするものの、なかなか突き放せない長崎日大。
どちらのチームも、満足する試合展開ではない。
勝利の女神のいたずらか。
試合が決定する8回裏が訪れた。

先頭の4番猿川、フルカウントとなるまでバットを振ることができない。
追い込まれて開き直れたか、悩める4番は、センター前ヒットを放つ。
5番横倉は当然バント。
しかし、初球空振り、2球目ファールで早くも追い込まれる。
サイドスローにタイミングがあっていない。
3球目ボールの後の4球目。
まさしく、女神のいたずらとしか思えない。
シュートが抜けて、右打席の横倉へのデットボールとなる。
マウンドで信じられない顔で、意識しない笑みさえこぼれる寺尾。
あり得ない展開に、盛り上がると同時にざわめく球場。
観客はもう期待を隠しきれない。

長崎日大はここで、大瀬良をマウンドに戻す。
しかし、観客の期待、そして女神の寵愛を失った長崎日大に、運命は非常だった。
無死1、2塁でサード側への強めの送りバント。
大瀬良が処理するが、ボールが手につかず、ファーストへ投げることもできない。
この試合最大の盛り上がりを見せる花巻東。
そして、時折見せていた大瀬良の笑顔も、この場面では弱々しく見える。

無死満塁、7番佐々木は初球をしっかり狙い撃つ。
真ん中に入ったストレートをとらえた打球は、ぐんぐん伸びセンターの頭上を越える走者一掃のタイムリーツーベース。
試合はこれで決着となった。。。

この後、1点を追加した花巻東。
3点差の9回、落ち着いて菊池は0点に抑え、苦しみながらも1勝をもぎ取った。


これほど、高校野球のエッセンスがぎっしり詰まった試合はなかなか見れるものではない。
プロに比べて、精神的な部分が大きく試合に影響する高校野球は、エラーやミス、勢いなどの原因がはっきりとわかる場合が多い。
この試合ほど野球の格言、試合の流れに忠実な試合は、試合をご覧になった方も、久しく記憶にないのではないだろうか。
「チャンスの後にピンチあり、ピンチの後にチャンスあり」
「投手のかわりばなを狙え」
「死球(四球)の初球に気をつけろ」
「野球はツーアウトから」
などなど。

前半は穏やかななぎのように過ぎた。
勝利の天秤はぐらぐらと定まらず、8回表に長崎日大にガクッと傾いた分、勢いをつけて花巻東に倒れたように感じる。
それほど、試合の流れ(特に後半)は揺れ動き、とどまることはなかった。
やはり、試合の流れを決めたのは7回の、長崎日大の投手交代だろう。
同点に追いつかれた投手を責めることはできない。
あの場面で隙なく攻めることができた花巻東をほめるべきだろう。
むしろ、よく同点で抑えたといえる。

高校生に、プロの中継ぎが投げるような場面での登板を求めてはいけないだろう。
一概には言えないが、やはり投手交代は、その回のはじめ、またはランナー無しのほうが、精神的に楽に投げられる。
プロは覚悟ができている。
しかし、高校生の投手で、その大事な場面で、「俺の出番だ!」と準備している選手は数少ないのではないか。
そういう役割で、ベンチに入っている投手はほぼゼロかもしれない。
高校野球は流れが大きく影響する。
そういった場面での交代は、傷口を広げてしまう結果になることは多い。

試合後の長崎日大の監督は「私のせい」と語っていたが、エースの大瀬良のスタミナの面での心配が、大きく影響したようである。
そうでなければ、あの場での交代をもっと考えていただろうなと、うなずいた。
長崎日大にとって、あの場面で大瀬良の限界が来てしまった、不運な試合展開だったといえよう。
それにしても、長崎日大の打者の力強さには驚いた。
菊池は絶好調ではなかったとはいえ、ホームラン3本は驚きである。
それ以外にも、狙い球をしっかり絞り、右打者は右へ、左打者は左へという意識が徹底している。
監督の指導方針に間違いがない証拠であり、甲子園までに鍛えてきた選手たちの努力のたまものであろう。
清峰を破ったのは、完全な実力である。

花巻東は苦しみながら、最後の最後でうっちゃった印象が強い。
8回裏の逆転は、試合中にも予感めいたものを感じることができた。
ベンチが異様に明るいこと。
そして、花巻東の選手は一塁を駆け抜けた後も、全力疾走をやめない。
まるで、一塁のはるか先に目標があるかのような走塁をしている。
これが、いざというときの機動力につながっているように感じた。
ドラッグバント、プッシュバント、重盗など。
隙あらば狙おうという強者の戦いを表している。

決して、センバツ準優勝のうぬぼれがあったわけではないだろう。
菊池の調子も絶好調とはいかないまでも、そんなに悪くはなかった。
結局は、優勝を狙えるぐらいの強豪が1回戦からぶつかった戦いといえるのではないだろうか。
そう言いきれるほど、内容のある試合だった。

花巻東はついている。
どうしても菊池に注目が集まるが、この試合に関しては、菊池抜きで勝利をおさめたと言っていいだろう。
いわば、チームとしての勝利である。
これは大きい。
2回戦からの自信につながる。
先を見据えるにはまだまだ長い戦いだが、投手力だけで勝ち進めるほど甘くはないし、必ずエースが不調の時はある。
サッカーW杯のブラジルのように、徐々にコンディション・ピッチを上げていくような戦いをしていけばよい。
もちろん、次の試合からは菊池の投球内容も変わっていくことが十分必要になる。
しかし、苦戦してのこの勝利で、チームに勢いが出てきたはずである。

現在、東北勢は2勝1敗。
残念ながら、酒田南(山形)は敗れてしまったが、花巻東を中心に、東北勢の2回戦以降、期待ができる。
そして、敗れてしまったが長崎日大の強さ、そしてそれを逆転した花巻東の粘り強さ、高校野球ならではのドラマ性高い試合展開など、この試合を観戦できた幸せを感じる。
天候もそうだが、やっと夏の大会らしくなってきたように感じる高校野球。
明日(6日目)から2回戦が始まる。
好ゲームが期待できないわけがない。

大変長い文章となりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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2009年08月11日

彼とチームと6県と(東北勢の関所越え)

先週末から高校野球が始まったが、雨で二日間中止になるなど波乱含みのスタートとなった。
日程が延期となり、選手の宿の心配や、応援団の移動など、報道にならない細かいことが気になってしまう(笑)
それはさておき、如水館(広島)と高知(高知)の選手は3日間お疲れ様です。
負けた如水館は残念だが、甲子園で3日間連続で試合をできる高校球児はなかなかいない。
(準決勝あたりで1日空くはずなので、実はもう出ないかも)
プロの3連戦と同じ、甲子園を独占したというすごい経験は、素晴らしい手土産となる。
注目され、うらやましい球児たちもいるだろう。

延期に次ぐ延期で、今日ようやく2日目が終了。
いよいよ明日からは東北勢の登場となる。
文章を書く手にも力が入り、鼻息が荒くなる。
ひざをたたかれた方は、きっと東北生まれに間違いない。
この時期になると、東北のどの県の出身かということは関係なくなる。
「陸奥」という昔の言葉がしっくりくる連帯感。
これは、野球好きならもちろん、それほどでもない人も同様に持っている想いなのは間違いない。

野球の強い地方で生まれた方々、なにをそんなに…と思うなかれ。
春、夏と未だに優勝校を出していない東北の悲願でもあるのだ。
春はセンバツと言うだけあり、出場校が少ない(東北は2校程度)。
他の地方も出場校が少なくなるので、チャンスとしては変わらないのだろうか。
しかし、全国の都道府県から必ず1校出てくる夏にこそ、優勝すれば喜びは何倍にもなる。
もちろん、今が夏の大会だけで、春になったら、違う理論で同じことを言ってそうだが。。。

野球好きの方はご存じだろうが、未だに東北6県から出場したチームで、優勝旗を持ってきたチームはいない。
「白河の関は越えず」といったフレーズを一度は聞いたことがあるだろう。
その昔、福島の白河に作られた関所を指して、こう言われている。

2004年に駒大苫小牧が済美に打ち勝って優勝したのは、自分の記憶に強烈に残っている。
「白河の関」どころか、一気に津軽海峡を飛び越してしまった。
駒苫ナインを乗せた機内で、キャビンアテンダントが
「深紅の大優勝旗も、皆さまとともに津軽海峡を越え、まもなく北海道の空域へと入ります」
と、粋な放送をし、乗客はこぞって歓声を上げたというニュースを聞いて、にやりとしながら、一抹のさみしさを感じたものだ。

今までの東北勢の成績はこうなる(決勝の結果)


15年夏:京都二中(京都) 2-1 秋田中(秋田)
69年夏:松山商(愛媛)  4-2 三沢(青森)
71年夏:桐蔭学園(神奈川)1-0 磐城(福島)
89年夏:帝京(東京)   2-0 仙台育英(宮城)
01年夏:常総学院(茨城) 7-6 仙台育英(宮城)
03年夏:常総学院(茨城) 4-2 東北(宮城)
09年春:清峰(長崎)   1-0 花巻東(岩手)


年代によって、あの試合は惜しかった、途中まで勝ってたのに、あの投手がいたのに…などと思いだす試合は違うであろう。
有名なところでは、実際に見た方は少ないだろうが、69年の延長18回で結果がつかず、再試合となった三沢校の大田投手。
03年の東北のダルビッシュ投手などだろうか。

昔々、東北出身の高校と言えば、1回戦で負けることが多く、期待が過大なところもあった。
以前は西高東低、特定の県が強くかなわないイメージがあったが、近年はどのチームにも優勝のチャンスが出てきたように感じる。
初出場の高校が勝ち進んだり、その高校の指導(監督)が独特で、短い期間で強豪となったチームもある。
近年は準々決勝に、東北のチームが1チーム以上残ることも珍しくなくなってきた。

今年の注目は、なんといっても花巻東(岩手)だろう。
春のセンバツで、清峰今村に投げ負けてしまったが、もしかすると…という期待を抱かせてくれたチームが、夏に帰ってきた。
センバツ決勝では、打線が今村にまったく太刀打ちできなかったという印象があるが、そこからの成長は見込める。
いつまでもエースの菊池におんぶにだっこというわけではなく、予選も余裕をもって勝者のメンタリティで勝ち進んできた。
目標は予選突破ではなく、はるか先の視点をチームで共有できているのが、今までの東北のチームにない頼もしさがある。

スカウトやマスコミにも注目されているエースの菊池。
彼の投球の素晴らしさは、今更語ることはない。
それより素晴らしいと思うのは、ハートの強さ、成長のためのどん欲さ、素直さだろう。
いいと思ったものは、すぐ取り入れ、行動に移す。
イメージを大事にし、メンタル面の強化も忘れない。

「エースは率先して人の嫌がることをしなければならない」と1年からトイレ掃除を続けている。
さらに、そのトイレには全国優勝の準備として、甲子園優勝時の早実・斎藤の写真を張り付けてある。
これは、心の中でいつでも優勝の準備はできているということだ。
決して、おごらない。
目指す目標が明確になっている。
自分の実力を信じて疑うことを知らない。
これは今季、男子ゴルフ界で賞金王争いにまで食い込んでいる石川遼につながるものを感じ、頼もしい。

これほど期待して見る東北出身チームは今まであっただろうか。
果たして、今年こそ夢が現実となるだろうか。
東北地方は、とうとう「梅雨明け特定できず」という形で夏を迎えてしまった。
東北の夏は短い。
梅雨明けせずに、お盆を過ぎれば、もう涼しさを感じる日も出てくる。
夏を感じる機会が少なかったであろう東北に、燃え上がるような夏の感情を感じさせてくれるだろうか。
出だしの2日に渡る雨天中止といい、今年の甲子園はなにかがおこる予感がする。

東北勢の対戦を見てみよう。


8月12日
 第1試合:酒田南(山形)- 関西学院(兵庫)
 第4試合:花巻東(岩手)- 長崎日大(長崎) 
8月13日
 第1試合:東北(宮城) - 倉敷商(岡山)
8月15日
 第1試合:聖光学院(福島)- PL学園(大阪)
 第2試合:明桜(秋田)  - 日本航空石川(石川) 
8月16日
 第1試合:青森山田(青森)- 東農大二(群馬) 


明日から続々と登場する東北勢。
注目の花巻東は、清峰を破った長崎日大との対戦というのも、なにやら不穏な甲子園を想像させる。
どこに住んでいても、この時期の東北出身の心は甲子園に飛ぶ。
自分の県にかかわらず、この6校を応援する気持ちは変わらない。
すべてが出身県のように。

甲子園は1試合負けると終わりだ。
17、8歳という年齢だからこそ起こる奇跡のような逆転劇。
テレビからも伝わる選手の動揺、勢い、考えられないヒット、エラーなどが必ず起こる。
だから甲子園は面白い。
毎年、出身県というものを越えて、甲子園のアイドルともいえるチームが必ず出てくる。
自分の記憶で強烈なのは、2年前優勝した佐賀北だ。
あの時は、勝ってほしいという思いが後押しした優勝だったと思う。
今年は、どのチームがその存在となるか。
願わくは東北勢であってほしい。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
さぁ、ブログを読んで束の間の旅行をし、あなたもプチ東北人となりました。
「そういえば…」といった思い出し方でもかまわない。
願わくは、対戦相手があなたの地元でない限り、少しでも肩入れしてもらえれば嬉しいことはない。
その小さな応援が重なり、選手を、チームを後押しするのだから。
今年こそ、今年こそ。

posted by ballgame |23:52 | 野球全般 | コメント(0) | トラックバック(0)
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2009年07月13日

高校野球と体の疼き

いつ頃からだろう。
始まりも終わりも覚えていないが、確かにあったその時。

(一部では始まっていたが)先週末から全国一斉に、夏の甲子園にむけて、各地で熱戦が繰り広げられた。
各県の代表校が甲子園で優勝を目指す。
どんな強豪校でも、まずは地方の予選を勝ち進まねばならない。
千里の道も一歩から。
新聞には、各都道府県の結果がずらっと載っている。
熱烈な高校野球ファンでなくとも、結果は気になるところだろう。
特に地元県勢の活躍は。

梅雨も明け、ミンミン蝉も鳴き始める。
海に、山に、外で真っ黒になって遊ぶ子供たち。
風鈴の涼しげな音、スイカの種飛ばし、蚊取り線香の煙。
そして、テレビは朝からブラスバンドの応援合戦と球をはじく高い金属音が流れる。

野球ファンには、夏の代名詞ともいえる高校野球。
その試合を見れなくなったことがあった。
完全に見れなくなったわけではない。
見ているうちにたまらなくなるのだ。

体が疼き始める。
なにかしないといけないような気になる。
いったい何をやっているんだ…そんなやるせない気持ちにさえ、とらえられる。
高校生のひたむきさが、今の自分を叱咤するように感じるのだろうか。
素直に高校野球を楽しめない時期が、確かにあった。
みなさんにもこんな経験、ないだろうか。

今は、純粋に高校野球を楽しんでいる。
負ければ終わり、一発勝負のトーナメントはプロ野球とは違った真剣さを感じさせる。
WBCで感じたものにも似ている。
(涙ものの押し付けがましいドラマ再現のようなあおりVTRはうんざりだが。。。)

応援する方法は人それぞれ、特に応援するチームがなくても楽しめるのが高校野球。
それに、応援するチームがなくても、大会が進むにつれ、その大会特有のマスコット的チームが必ずでてくるものだ。
しかし多くの人は、地元の県が、自分の今住んでいる県が、どこまで進むかというところに注目するのではないか。
特に自分は東北生まれ、優勝旗は勿来の関(大昔、東北の入り口にあった関所)を越えたことがない。
北海道に先を越され、今年のセンバツは準優勝に終わった。
しかし、自分の故郷を含め、東北県勢6校を応援できるという楽しみはある。
最近力をつけてきた東北勢、今年こそはの期待が募る。

体の疼きはなくなった。
いつごろからだろう。
自分も同じようにできるとは思わなくなったのだろうか。
その感覚がさみしくもあり、純粋に高校野球を見れるようになった喜びもある。
そんな自分とは違い、彼らはこの夏、その1試合、1球を永遠に忘れないだろう。
プロ野球、MLBにも注目だが、今年も目が離せない季節がやってきた。

posted by ballgame |23:47 | 野球全般 | コメント(0) | トラックバック(0)
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