2008年10月18日

脱ぎ捨てた仮面(レッドソックス対レイズ第5戦)

信じられるだろうか。
試合を見終わった後も興奮と戸惑いで呆然としている。
レイズファンであろうが、レッドソックスファンであろうが、MLB好きの日本人であろうが、これほど試合を見ながらの予想が外れた試合はそうそうないだろう。
逆にそういった試合ほど面白い。
まさに野球を見た!と知り合いに伝えたいほどの喜び。
長くなるが、ぜひ伝えたいことがある。

第3戦は見ることができなかったが、第4戦とともに序盤での大量失点で、なすすべなく敗れたレッドソックス。
第4戦のウェィクフィールドの先発で、3点は覚悟していただろう。
レイズの本拠地より、ナックルの威力が増す野外の、そして本拠地の球場でさえ。
いかんせん、ナックルが高く甘く入ったところを、1、2の3で打った打球がすべてグリーンモンスターの上を面白いように超えていった。
その覚悟していた3点は初回に、3回には2点を追加され、第3戦同様5点のビハインドを背負ってしまった。

これでは気があせるばかりのレッドソックス。
球場に入った観客の10分の1にも満たないような声援しか聞こえなかった。
レイズの本拠地のあのうるさすぎるカウベルの響きとは対照的である。
唯一の希望としては、オルティーズにやっとヒットが生まれたことぐらいであろうか。

第2戦以降、レイズの2~5番は特に当たりが止まらなくなっている。
それだけではなく、下位打線にもタイムリーが出た。
レッドソックスにはなんの好材料も見当たらない。

こういった状況の中、先発する松坂には重いプレッシャーがかかるだろう。
しかし、これはチャンスでもある。
松坂がレッドソックスを支える、ひいてはMLBを代表するようなエースへの第1歩としての。
目の前には、大きく重いドアがそびえている。
去年、その扉はベケットにより、開くというより、力ずくで壊された。

松坂がどういう方法でその扉を開けるのかわからない。
しかし、確実なのは、その扉を開ける鍵を持っているということを松坂は知っていることだ。

松坂の前日会見で、
「自分はベケットではない。ただ、昨年彼が(ポストシーズンで)見せたようなピッチングができるならば、それは素晴らしいこと」
と述べていることから、その右手には鍵を持っていることは明らかだ。
ベケットのように、蹴破るのか。
はたまた、松坂なりの答えを見つけるのか。
案外、その空きそうもない扉は、引き戸なのかもしれない。
(日本人なら得意な開け方だ)

このような自覚を持って、明日マウンドに立つ松坂。
相手は、打線に火がついたレイズ。
並大抵のことではないが、松坂ならできる。
チームのためにというのは勿論だが、むしろ大エースとして、松坂の存在価値を証明してもらいたい。
自分を貫き通すことが、結果的にチームのためとなる。
そのくらいのわがままな気持ちのほうがよい。

今の時代、謙虚な日本人は世界で戦えない。
こういう場面で登板がめぐってきたことを喜んでもらいたい。
我を張った松坂、初回から100%の力で全力投球する松坂。
今シーズンでは、一度も見ることがなかった松坂の投球が見れるかもしれない。
レイズの上位打線は好調で、初回から目を離すことができないだろう。
そう思うと試合前からわくわくが止まらなかった。


松坂の立ち上がり、対する先頭打者は岩村だ。
アリーグの優勝を決める試合となるかもしれない場面の、最初の対決が日本人同士。
不思議な感慨が胸を襲う。
第3戦から序盤に点数を取られる苦しい展開が続いたレッドソックス。
チームはもちろん、エースの証明を図る松坂にも初回は大事である。

岩村はフルカウントからストレートをライト前ヒット。
好調アプトンは内角低めのストレートをグリーンモンスターを越える2ランを放つ。
アプトンはミートポイントが近く、回転で打つようなバッター。
レッドソックスバッテリーは内角で勝負しようとするが、その球が甘くなったり、または上手くさばかれたりして、攻め方がうまくいかない。
スイングから見て、内角は得意そうに見えるのだが・・・。
同じようなパターンでアプトンはこのシリーズ6本目。

その後は第1戦でも有効だったシュート系のツーシーム、チェンジアップを有効に使い、この回を2点で抑える。

対するレイズの先発はカズミアー。
制球が定まらず、四球を二つだすが、このピンチを切り抜けた。

2回の松坂、初回に2点取られたとはいえ、第1戦と比べても球の勢いは遜色がない。
投球テンポは格段によく、松坂の武器でもあるナイスフィールディングも見せ、この回を無失点に抑える。

3回、先頭の岩村をファーストのナイスプレーで打ち取るが、好調のアプトンには、外角のスライダーを上手くセンター前に運ばれる。
1打席目の大振りのスイングとは対照的なバッティング。
アプトンは手がつけれない。
3番ペーニャの打席、エンドランをかける。
松坂の投球はストレート。
それが甘く入り、ライトポール際ぎりぎりに入る2ラン。
詰まっていたように感じたが、まさに力で運ばれたホームランだ。
続く打者にもレフトへホームランを打たれる。
これもストレートが甘く真ん中に入った。
このシリーズのグリーンモンスターは、レイズの攻撃の際、数m低くなっているのではないかと感じるほどの、レイズのホームラン攻勢。
これで早くも5-0。
第3戦、第4戦の試合展開と似たような形。
このデジャビュには、自分もレッドソックスファンも伏目がちとなる。

4回は下位打線、3者凡退で討ち取り、味方の反撃を待つ。
レイズの先発のカズミアーは、調子があまりよくないように感じる。
四球が多く、レッドソックス打線は毎回ランナーを出すが、序盤の点差、そして第2戦の後半から、湿りがちの打線は、この試合も同じようにチャンスで凡打を繰り返してしまう。
制球難も、適度な荒れ球となり、的がしぼりづらいのだろうか。

5回、またも先頭は岩村。
同じ日本人ではあるが、今は違うチーム。
情けなどもちろん無用、とばかりファールで粘り、きわどいボールを見送り、四球を選ぶ。
ここで松坂は降板した。
1塁ベンチへ戻る松坂に対し、ベンチ裏の観客は立ち上がり、歓声や拍手を送る。
しかし、その拍手は小さくまばらであり、歓声も心なしか力がこもってない。

交代する投手は岡島。
このような場面でのスイッチは、もの悲しく感じる。
しかし、岡島の仕事は火を消すこと、ランナーを釘付けにすることである。
展開は関係ない。
自分の仕事をやるだけとばかり、表情を変えずに、持っている力すべてをぶつける。
ランナーを出すが、無失点に抑える。
岡島はプロだ。

5回裏、レッドソックスは1番からの好打順だが、3者凡退に終わる。
オルティーズが凡退した場面では、ホームにもかかわらず、少なからずのブーイングがでる。
1回、3回とオルティーズが凡退した後もブーイングらしきものが聞こえたが、まさかレッドソックスのホーム、ユーキリスの「ユーイング」と聞き違えたかと思ったが、3度も続くとそうとはいえない。
レッドソックスファンも我慢の限界が近い。

岡島は6回も続投し、無失点。
自分の仕事を淡々とこなす。

7回、変わったデルカーメンが、2者連続四球を与える。
ここで、なんとパペルポン投入。
連覇を狙う王者としてこの戦いに挑んだレッドソックス。
王冠をむしりとって、体面かまわず勝負にでる。
テレビの前でもうなずく。
ここは勝負のしどころだ。
しかし、レイズの怒涛のような打線は、パペルポンでも止められないのか。
ダブルスチームを決め、この試合手がつけられないアプトンは、エースの証明をしようとした松坂はおろか、守護神パペルポンでさえ打ち砕く。
レフトオーバーのツーベースで2点を追加。

点差は絶望的といえる7点。
野球の神様は、若き新たな強者を誕生させたいのか。
そんな流れさえ感じるダメ押しの1打。
この時点で、あの熱狂的で知られるレッドソックスファンがかえり始める場面を見る。
どんなに点差が離れていても、試合の途中で帰る場面など見たことがなかった。
しかも、プレイオフでだ。
野球の神様にもそっぽを向かれ、ファンにも見放されたレッドソックス。
レッドソックスファンであり、去年のミラクルを半ば当然のように信じていた自分も、ファンの帰る姿を見て「あぁ、終わってしまったか・・・」とこの時点で寂しい気持ちになっていた。
この試合展開では仕方ないのかもしれない。

しかし、レッドソックスナインは思い出した。
「俺達に神はいたか?」
「俺達は神に祝福されていたのか?」
「俺達は王者の野球か?」

王冠を投げ捨て、マントを脱ぎ、傷つき、ぼろぼろになった服を見て、もう王だとはだれも信じない。
ただ、チームメイトを信じ、自分達の力だけで、去年はチャンピオンリングを手にしたことを。
そうやって覇権を奪ったことを。

7回裏、好投したカズミアーからピッチャーが変わると、レッドソックスは仮面を剥ぎ取り、その下に隠れていた野獣を解き放った。
ペドロイアのタイムリーの後、2死一、三塁。
ここで、レッドソックスの大黒柱であるオルティーズ。
第5戦の今までの鬱憤を晴らす3ランを放つ。

3点差。
ひたひたとレイズの背中を追うレッドソックス。
まだその姿は見えないが、背後になにか不気味な雰囲気は感じるレイズ。
パペルポンの力のこもった投球でレイズを打ち取った8回裏。
ベイの四球の後、ドリューが2ラン。

1点差。
真っ暗な背後、目の前の明るい光は徐々に大きくなっているが、背後には足音が、そして獰猛な息遣いさえ聞こえる。
前の試合から好調なコッツェイが二塁打を放ち、この日1番のクリスプがタイムリーを放つ。

同点。
あと数歩走りきればたどり着ける明るい光と更なるステージを前に、ついにこれまでがむしゃらに、若く勢いよく走っていたレイズは振り向いてしまった。
背後の存在を確かめるために。
あと1歩、足を伸ばせば逃げ切れたはずなのに。
振り返ってはいけないと言われていたのに。

振り返った時点では、背後から追ってきたものは、まだ暗闇の中にいて、姿が見えなかった。
しかし、その暗闇の中で赤く光る目を見た瞬間、レイズのこの試合の結末が見えてしまった。

9回裏、2死を取ったが、ユーキリスのサードゴロの内野安打で出塁。
記録は内野安打だったが、サードのエラーといっても良いだろう。
これでランナーは2塁に進み、ドリューがサヨナラヒットを放ち、レッドソックスが奇跡の逆転劇を演じた。

これでレッドソックスは1つ返したが、まだ2-3とリードされている。
しかし、この試合は第2戦に続く、単なる1勝とはならないのではないか。
6回までと、7回以降ではレッドソックスは別のチームだった。
この勢いを作ったのは、間違いなくオルティーズ。
この試合もヒット(ホームラン)は1本のみだったが、この大事な場面で打てたことが、寝た子をおこしたように思う。
第2戦で火のついたレイズのクリーンアップ。
第5戦のオルティーズ。
状況は違うが、たった1本のヒットで試合の流れを帰れる選手の復活は大きい。
それを手に入れたのは、なりふり構わぬ早めの継投だった。
これで、レッドソックスは普段の野球、ひいては去年のレッドソックスに戻ったような気がする。

レイズは痛い敗戦。
あと1勝すればいいのだが、その1勝の重みをこの試合で感じてしまった分、第6戦に負けることがあれば、ホームでの2試合とはいえ、厳しい状況になっていると思う。

レイズの試合運びは完璧だった。
松坂が打たれた2本目の本塁打は、エンドランで打者が速球を狙えるような状況を作っていた。
岡島が投げていたときは、セフティーを決めた。
パペルポンからはダブルスチールだ。
守備位置もよく、いい当たりが野手の正面をついていた。
まさに試合運びは完璧だっただけに、よけいに敗戦が痛い。

星勘定ではレイズリード。
チームの勢いでは、野蛮ともいえる試合運びを取り戻したレッドソックス。
レイズのホームで行われるとはいえ、レッドソックスの先発はあのベケットであろう。
この試合の勢いを、ベケットは大エースとして力に変えてくるだろう。
パンドラの箱を開けて、恐怖を知ってしまったレイズ。
その箱の中には、神話と同じように希望は残っているのだろうか。


最後に松坂を振り返りたい。
この日の松坂も、エースの扉を開けることはできなかった。
調子はよかったように思うが、松坂を打ち砕く穴を作ったのは、間違いなく岩村の初回の打席である。
岩村の活躍はうれしいが、ほんの少し残念に思ってしまう複雑な気持ちだ。
松坂はエースになれなかった。
今日はレイズ打線の好調さをほめないわけにもいかないだろうが、期待していただけに残念である。

しかし、松坂にはやはりなにか違う星がついているように思う。
松坂が投げると負けない。
打線のめぐり合わせもあろうが、第1戦のぴりっとしたとはいえない投球でも勝ってしまう。
5点を取られても負けない。
なにか、人とは違う輝く星のものにうまれた、そんなことさえ思ってしまう先発したシリーズの2戦。
ひょっとすると、負けないということは、チームにとって一番の投手なのかもしれない。
ニュータイプのエースともいえるのだろうか(笑)

結果はよかったが、まだまだ松坂の投球には満足できない。
予感では、松坂がエースの証明をする舞台は今年はまだあるように思う。
第6戦は19日(日)、面白い試合になるのは間違いない。
見逃すことはできない。
今日のレッドソックスファンのように、笑われてしまうことになる。
(同じようなことが、レッドソックスファンの映画にも出ていたような・・・)
がんばれ、レッドソックス!

posted by ballgame |08:48 | MLB | コメント(0) | トラックバック(0)
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