2009年11月07日

我慢比べと軸の強さ(ワールドシリーズを振り返る)

熱戦続きだったワールドシリーズ、ヤンキースが4勝2敗で頂点に立った。
瞼を閉じると、まだこの1週間の濃密過ぎる野球の熱気を思い出すことが出来る。
簡単ではあるが、今回のワールドシリーズを振り返ってみたい。

○我慢比べ
頂点を争う2チームはヤンキースとフィリーズ。
それまでの戦いも熱戦続きであったが、結果を見ればフルセットまでもつれることがなく勝ち上がってきた。
まさにMLBの最強の2チームが勝ち進んできた。
両チーム、同日に奇跡的な逆転劇(サヨナラ勝ち)を収めたこともある。
ここ数年来無かった熱戦でありながら、この2チームが勝ち進んだ理由は1つ。
それは我慢くらべに勝ったということだ。
相手チームが勝手に転んだとも言えるだろう。

熱戦が続いたのは、お互いのチーム力が拮抗していたことが大きい。
ここ数年の傾向では、ワイルドシリーズの出場チームや、シーズン終了ぎりぎりに勢いをつけてプレイオフの切符を勝ち取ったチームが、激流の流れに乗ってあれよあれよと勝ち上がっていくことが多かった。
今年の戦いでその傾向が見られなかったのは、ヤンキース、フィリーズとも相当に高いチーム力を持っていたのだろう。
おそらく、ファンが予想するよりも、グラウンドで実際に戦っている選手達が感じていた差が大きいはずだ。
それが、信じられない守備のミスや救援の失敗につながったのであろう。
まさにこの2チームは両横綱であり、がっぷり四つに組めば相手は動き疲れて、腰砕けになる。
リードを奪わなければやられる、相手チームはそう思っていた。
同点、あるいは1点差で終盤までいけば俺達なら大丈夫、この2チームは余裕を感じていた。

チームの肺活量の差は、思ったより大きかった。
聖書にあるロトの妻のように、相手チームは振り返ってしまったのだ。
決して振り返ってはいけなかったのに。
苦しくても、水面から顔をあげてはいけなかったのに。
そんな自滅が多かったのが熱戦続きでありながら、最終的な成績はフルセットにもつれ込まなかった理由といっていいだろう。

そして、ヤンキースとフィリーズ。
お互い、同じような我慢強さを持っている強者同士の対決であるが、ここで試合を分けたのはヤンキースの好機に対する嗅覚だ。
フィリーズのかすかな隙を捉えての集中は大きかった。
今までの戦いならミスにならなかった些細なものを見逃さない嗅覚はハイエナ以上だ。
ハイエナとは失礼だろう。
ここはヤンキースのチームとしてのまとまりをほめるしかない。
今年のヤンキースは後半になるにつれて、チーム内の団結が良くなってきた。
個人能力が高い選手達がそろっているヤンキース。
それが一つにまとまろうと言うのだから強くなるわけだ。
まとまった要因は監督の技量などいろいろあるだろうが、新球場の1年目というものが大きかったように思う。
「新しさ」の象徴である新球場で、今までの「古い」積み重ねてきた伝統を活かそうとする。
その相反する2つのものがマッチして、信じられない程の勝負強さに変わったのだと思う。

○軸の強さ
チームには様々な役割がある。
足の速い者、中軸を打つ者、守備で活躍する者、下位打線で力を発揮する者。
だが、やはりチームを支えるのは主砲である。
ヤンキースの主軸と言えば、やはりA・ロッドであろう。
ワールドシリーズでも、ヒット数は少なかったが、「ここだ!」というところでしっかり打ち、チームの勝利に貢献してきた。
一流から超一流への成長、ファンの期待にこたえられる選手として、新しいステージに上がったのは間違いない。

対するフィリーズは、4番のハワードを抑えられたことが痛い。
第6戦でようやく一本が出たが、それも遅きに喫した。
ヤンキースもフィリーズも主砲を抑える大切さはわかっていた。
フィリーズのアトリーが絶好調だったが、彼の本塁打と主軸の本塁打ではやはりその重要性が違うということなのかもしれない。
日本シリーズでも、第6戦に限って言えば、稲葉の不調(打撃だけでなく守備でもミスをしていた)が日ハムの涙に変わったのは、主砲の存在の大きさが分かる例なのかもしれない。
主砲は大きくチームに勢いを与えるし、逆に大きく勢いを削ぐこともある。
ヤンキースはそれがプラス面に出て、フィリーズはマイナス面に出た。
フィリーズを責めるのはおかしいかもしれない。
守備でミスにならないミスをしていたA・ロッドが、普通からすれば大事な場面で打てるはずがないのだが、なんとなんとそれが関係ないのだから。

チームの軸は主砲だけでない。
ヤンキースには、他にはない強みがある。
それは、試合を締める守護神の存在である。
そう、リベラがいることだ。
まさに圧倒的な存在だった。
野球の神様がいるのなら、案外こんな感じなのかもしれないと思わせる有無を言わせぬ投球。
MLBでは珍しくインコースで勝負する投球は、左打者のバットを何本折ったかわからない。
彼が出てくるだけで、相手チーム、ひいては熱狂的ファンの心までへし折っていた。
リベラは右投手だが、左打者のほうが打ちづらいだろう。
近年不振がち(それまでが圧倒的だった)だったが、やはり大舞台では強い光を放っていた。
ヤンキースはこの投打の主軸がしっかりしていたことが大きかった。


日本の野球ファンにとっては、ひょっとすると日本シリーズよりも身近に感じたかもしれないこのワールドシリーズ。
日本だけでなく、世界中の日本人が、「日本人で良かった」と誇りに思う場面を見ることが出来たのは幸せの一言に尽きる。
映画や小説でもなかなか感じることのできない誇りは、日にちがたってもまだ胸に残っている。
それは、彼のおかげでもあるだろう。
あえて名前を出す必要もない、背番号55を背負った日本人だ。
彼の活躍があってこその頂点でもあるが、ここでは詳しくは述べる必要はないだろう。

優勝パレード、全選手の先頭を切って登場し、掛け値なしの大歓声を受けていた松井。
紙吹雪が舞う姿を見て、なぜか歌舞伎の雪景色を思い出してしまった。
それほど、堂々として絵になっていた証拠でもあるのだろう。

松井の今後が大きく報道されている。
心配される方もいるだろう。
ある記事では「自分自身は受け身」と表現している松井。
受け身ではなく、受け入れることを恐れないのだろう。
松井は、MVPのインタビューで語っている。
決して受け身ではなく、しっかり自分の意見を主張したのだ。
最終戦で見せた、大活躍の後の表情を緩めないところ。
堂々とした見逃し、達観したような表情。
すべてを受け入れ、それに対応していこうという姿勢だ。
自分の道はどこへ続いても大丈夫と。

素晴らしく大きく成長した松井の前途は洋々だ。
高いプロ意識を持って、チームに最大限に貢献する松井はこれからも輝き続ける。
「野球が好きで、勝ちたいと思っている」
そして、「つらいことはなかった」と語るのは、すべてを自分の成長につなげることが出来るからだ。
自分達ファンにとっても、もっともっと長くその活躍を見てみたいところでもある。
イチローとともに50歳まで…とは難しいだろうが、まずは体のケアをしっかりして、来シーズンは走攻守に活躍する松井に期待したい。
1年でも長く、長く共に歩んでいきたい。


ワールドシリーズ、日本シリーズともに終わってしまった。
野球ファンにとっては寂しくなるが、スポーツはこれだけではない。
ゴルフしかり、これから熱くなるラグビーしかり。
球技だけでなく、冬には五輪も待っている。
スポーツを通じれば、今年の冬は寒がっている暇はない…かもしれない。
これからも楽しみである。

posted by ballgame |23:58 | MLB | コメント(2) | トラックバック(0)
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我慢比べと軸の強さ(ワールドシリーズを振り返る)

コメント投稿者ID :

今回も思わずうむむと唸らされる記事、興味深く拝見いたしました。

記事を読みながらふと感じたのですが、「根気」と「自信」が高いレベルで調和しているアスリート、チームはリスペクトを集める存在であることが多いように思います。

スポーツとは時に残酷なもので、二者のバランスがうまく取れているか否かが、そのままスコアや結果に現れることも少なくありません。(例えば、今シーズンの松坂投手など)
ただその一方で、そうした状況を何とか打破すべく「あがく」姿にも、また我々は感動を覚えてしまいます。

それはきっと我々が、彼らが目指している頂がいかに高いものなのかを、その背中越しに感じるからではないでしょうか。

…何かだんだんスポーツから話が脱線してしまいました…スミマセン!
でも、本気で競技に打ち込んでいる姿を一度見てしまうと、どっぷりハマっていつの間にか必死に声をからしている自分がそこにいます。

これだから、スポーツ観戦はやめられません!
管理人さんの感性たっぷりの記事、また楽しみにしております。

posted by Dice-K | 2009-11-08 01:23

我慢比べと軸の強さ(ワールドシリーズを振り返る)

コメント投稿者ID :

’スポーツ’とひとくくりにしてしまうのは恐縮な部分もあるのですが、どんな競技においてもそのプレーヤーの人間性とかひたむきさ、勝利に対する執念に私は惹かれて観戦しております。私が野球以外に好きなスポーツの第一人者に日本人ではありませんが松井選手と同じくらい尊敬しているアスリートがいます。彼と松井選手の共通点にが先に述べた3点です。そして加えてファンを大切にすることと自分の職業を愛していること。
ここにファンが虜になる理由があると思います。
怪我をし、引退説や限界説が出ても自分を信じて、自分のこれまでの努力を信じてあきらめない。その復活の瞬間は我々ファンにとてつもない勇気を与えてくれるんですよね。
とりとめのない文章になってしまいましたが管理人さんに負けず劣らずスポーツが好きな人間ですのでこれからも一緒に感動を分かち合いたいですね。
毎回いい文章をありがとう!

posted by 北の国から | 2009-11-08 02:38

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