2007年03月18日

シンクロ井村コーチは「裏切り者」か?”08年に分かってくれるはず”

中国メディアの報道から、日本の様子を知る・・そういうことが時折ある。だが、中国報道の特殊性から、その報道を鵜呑みにできないというのも事実だ。しかし、シンクロナイズドスイミングの中国代表コーチ、井村雅代氏についての記事は大いに気になった。

 現在、豪メルボルンで行なわれている世界水泳選手権。初っ端で行なわれたシンクロナイズドスイミングは中国・日本、いずれからも大きな注目を浴びている。いわずもがな、中国の新ヘッドコーチ、井村雅代氏(56歳)の動向についてである。

 18日の報道によると、井村氏は記者団に対して、「日本には、決して私の代表コーチ就任を快く思わない声がある。また国内の報道のなかにも、それは感じられる。私は中日の友好のために中国チームに来た。その選択が間違っていないことを信じている。彼らは2008年のオリンピックのあと、私の選択を理解してくれるだろう」と述べたそうだ。

 以前から、中国では、日本人の”多く”が井村氏のコーチ就任を快く思っていない、という報道があった。

 ただ私自身は、井村氏が中国代表入りするということは、シンクロ界のみならず、スポーツ界全体、そして広い意味での日中関係に大きな意味合いを持つのではないかと考えていた。だから、日本に帰国した折に、ぜひこの問題について、関係者と意見を交わしたいと思っていた。

 果たして、日本における井村氏は、どう捉えられているのだろう。

 私は北京在住のため、この井村氏の中国代表入りに対する、本当の意味での『日本の空気』を感じることができない。いくつかの日本の報道を見ていると、確かに井村氏を”利用”した『日中』の激烈なライバル争いを強調し、それを面白おかしくとりあげる内容が見られた。だが、本当のところの『国民感情』はどうなのだろうと、このインタビューの内容を聞いて、思った。

 井村氏は、12月にドーハで開かれたアジア大会の最中に、北京五輪で上位進出、できればメダルをと望む中国シンクロ代表チームに請われる形で指導者就任を受託。それがアジア大会で、日本が中国に「敗れ」て2位に終わったという残念な結果のあとだっただけに、その事実が衝撃的に伝えられた。

 その後、すぐに正式契約を結び、今年1月から計4度、チームを訪れ、一日6時間の猛練習を課して、チーム強化に励んできた。

 そして、迎えた今大会。当然、目標は1年半後の北京五輪であり、今大会はその前段階に過ぎないのだが、それでも、日中両国で大きな話題となって、ヘッドコーチに就任した井村コーチからすれば、「かつて感じたほどのないプレッシャー(本人)」は当然のことだろう。

 だがそれ以上に、日本メディアの報道ぶりがこちらのメディアでは大きな話題になっている。朝日新聞は専門の報道スタッフをつけ、『朝5時にはホテルで待機。本当にその熱心さにはあきれる(チームスタッフ)」といわせる力の入れ込みよう。中国代表チームを取材する記者の数は、ある報道によると1:4で日本が圧倒的に多いそうだ。ある記者が「日本チームについて、どんな印象か」と井村氏に聞くと(当然、出てきそうな質問だが・・)「彼女らの演技は見ていない。だから評価の仕様がない。今は中国チームの準備に専念している。あえていうならば、我々の中国チームが日本とどれくらいの差があるのか・・そこに大きな関心がある」と井村氏は答えるしかなかったとの報道もある。

 シンクロという日本が十分にメダルを狙える競技における「この時期の」移籍。そしてその行き先が、アジア大会で、若手主体で臨んだとはいえ、「アジアでは敵なし」を自負していた日本を打ち負かした中国である。日本と中国のスポーツにおけるライバル関係、これまでの様々な過程から見れば、この注目は当然のことだろう。

 だが、もし万が一、この井村氏のコーチ就任を日本に対する『裏切り』として捉え、非難する声が日本に多くあるとすれば、それには疑問を唱えたい。また、その”声”を利用するかのように、「井村・中国」と日本の対決を純粋なスポーツ対決ではない捉え方をする報道があるとすれば、そうあってほしくない。

 井村氏、いや他の多くのスポーツ指導者にとって、間違いなくいえることは「スポーツに国境はない」ということだろう。求められる場所があれば、そこにいって力を奮いたいと思うのは当然だし、国を挙げての五輪という舞台が今まさに始まろうとしている国に請われたとなれば、当然、そこで指導者としての腕を奮いたいと思うはずである。そのような人材交流は、サッカーや野球、バレーボールなどの例を挙げるべくもなく、何ら珍しい現象ではない。

 ちなみに、日本と中国のスポーツにおける指導者交流は、それほど真新しいことではない。古くはバレーボールの大松氏が中国代表を指導し、世界のトップレベルにまで引き上げたし、現在は柔道の山下泰弘氏が中国男子柔道を指導している。卓球の福原愛は中国卓球の力を借りて、ここまで成長してきのだし、野球文化の育成のため、中国プロ野球に対しては、日本が物心両面で支援を行なっている。

 さらに、「日本シンクロ」の”生みの母”が中国に招かれた・・という事実は、北京で中国スポーツを追いかける私も、思わず誇りに感じてしまうのだが、それは誤っているだろうか。日本のスポーツ界が大きな評価を受けた証である。

 
 さて、井村氏は、大会前に北京で行なわれた記者会見で「我々中国チームの力を世界に見せ付けたい」と抱負を語った。あの井村氏が、日本のライバルとして、中国を本当に率いるのだ・・ということを、私はこの言葉で実感した。これから始まる日本と中国のライバル対決がたまらなく楽しみになってくるのは私だけだろうか。

 ただ、私自身も、日本人として、理屈ではいえない複雑な思いを抱くのも事実。今のシンクロ、のみならずスポーツ界における中国勢の躍進ぶりはすさまじい。当然、五輪という大目標に向けて、なりふり構わない強化(それは日本の”国体”前の地方自治体のやり方に似ているが)の成果が出てきているわけだ。だが、以前から中国が強かった競技ならまだしも、日本が優勢を保っていた競技までも「喰われて」しまえば、何となく、『面白くない』という思いは十分に理解できる。

 だが、その「複雑な思い」を『国の裏切り者論争』には持って行きたくない。むしろ、そんな一流のコーチを迎えた中国勢の成長を楽しみにしたい。そして日本と中国がともにシンクロにおけるアジアの柱になり、ヨーロッパの牙城を崩すという将来の『スポーツ未来図』を思い描きたいと思うのだが、どうだろうか。

posted by 朝倉浩之 |19:07 | シンクロナイズドスイミング | トラックバック(2)
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Re:シンクロ井村コーチは「裏切り者」か?”08年に分かってくれるはず”


時期外れとなりましたが、コメントさせていただきます。普段は主にサッカーに興味を向けております。

普段シンクロには興味ないため、井村氏の中国チーム監督就任について、個人的には「裏切り者」どころか、アグレッシブなチャレンジャーと捕らえています。また、井村氏が中国に行った事で日本が中国に負けるようなことがあっても、それはそれで日本シンクロの底が浅かっただけ(一人の才能に依存していた脆弱な組織)と思います。
(もっとも世界水泳の結果もわかってないのですが・・・)

ただ、報道として井村氏を”裏切り者”として対立構図を煽り、シンクロの注目を集めようという
のはありかなと思います。(サッカーでは、自チームから移籍して行った選手にブーングするのは良くある風景です)。 ただ、あくまでそれはスポーツの枠に収められるべきで、井村氏の人格を侮辱するものであってはいけないと思います。
(その点、記事にあった朝日新聞のくだりスポーツの枠を超えて嫌がらせの域にあると思います。)
日本人はその辺のさじ加減が、情報の出し手と受け手が未熟なのかも知れません。

一方で、純粋な技術論として日本と中国は監督交代によりどう変わったのか?掘り下げて取材・分析するのも報道の役目だと思いますが、実際どうだったかはわかりません。

最後に、井村氏は中国で任期が終わって日本に戻ったら、温かく迎えてまた日本シンクロ界のために尽力して欲しいと思います。

posted by とおりすがり | 2007-04-06 20:17