2007年01月31日

中国スポーツのミカタ~ドーピングを無くせるか

先日、私が中国の国営放送で担当する中国スポーツを紹介する番組で、中国のドーピングに対する取り組みを紹介した。そこで、これについて、番組では触れなかった(触れられなかったといってもいいが)内容を少し書き加えたい。

中国は2008年五輪を誘致する際、最大の公約として、ドーピング撲滅を掲げた。今回、中国は、ドーピング検査の際のサンプル数を通常の25パーセントアップ、4500個とすることを決めており、また専門の研究所を膨大な国家予算をかけて建設するなど、ドーピングに対する相当の気の配りようを見せている。

というのも、このドーピング問題を世に問うた・・・というよりも、その張本人が中国、といってもいい・・・そんな歴史があるからだ。

1980年代から、世界のスポーツ界で躍進を続けてきた中国は、1994年の広島アジア大会で水泳を中心に11選手の大量薬物違反者を出した。具体的には、競泳4種目(金メダルを獲得した熊国鳴を含む)、陸上、自転車などの選手で、全員のメダルを剥奪した。当時から、中国の組織的な薬物使用が世界の批判を浴びていたのである。

続いて、1998年には水泳の世界選手権に出場予定の選手がシドニー空港で、違法な薬物を押収される。このときは4選手から陽性反応が出て、出場停止となった。

そして2000年、この年、「奇跡の」復活を遂げた「馬軍団」だったが、シドニー五輪の直前になって、馬コーチを含め、選手27人と役員を選手団から外すという事件が起きた。出場予定の1割に及ぶ選手をリストから外すという異常ぶりに世界は驚愕した。結局、国を挙げて2008年五輪の招致を目指していた中国が、ドーピング使用の疑いのある選手を派遣して、国際社会の批判を浴びることを恐れた措置と見られている。

ここからは私の私見だ。

ドーピングの問題は中国だけでなく、世界各国のスポーツ界で蔓延しているものだ。ただ、中国でこれだけクローズアップされたのは、やはりそのスポーツ界の特殊性にある。

日本のように学校スポーツの延長線上にあり(今でこそクラブスポーツが発達してきたが)、個人の自由選択のうちに成り立つ形と異なり、中国は完全に国策としてのスポーツシステムを作り上げてきた。

幼い頃から身体能力の優れた子供を探し出し、体育学校から地域レベルの代表を底辺に、頂点の国家代表まで完全なピラミッドを作り上げ、その間、選手たちは国家によって養われる。その最終目標がオリンピックであり、彼らは、自分を育ててくれた「国のために」戦う使命を帯びているのである。

だから「試合を楽しみたい」とか「自分のために戦う」などということは許されず、敗れて期待はずれに終われば、国民に対してマスコミを通じて、謝罪をするという、日本では考えられない行動が見られる。こんな状況があるだけに、彼らのプレッシャーは並大抵ではない。勝てば親・親戚まで国家の功労者扱いされ、選手は一生を保障される。負ければ、全てを否定され、全ては水の泡となる。

だが、スポーツとは不幸なことに、良くも悪くも時の運。スポーツ選手の極限まで動かされる筋肉とはデリケートなもので、その日、その試合の瞬間、肉体的にも精神的にも、最高の状態に持っていける可能性は極めて少なく、一流選手でも、時として6,7割にまで落ち込んでしまうことがある。

ただ一流、天才といわれる人は、オリンピック当日に自らのピークを持ってくることに長けており、しかも現代の保健科学は、その状態を作り出す手助けをかなりの確率で行うことができる。ところがそれでも100パーセントという保証はない。

だが、彼らの金メダルへのプレッシャーはとてつもなく大きい。少しでも、その「ピークに持ってこれる」確率を上げたいと思う。そこで、薬物が登場するわけである。薬物の使用により、身体の状況がピークに達する確率を限りなく向上させることが出来る。一流選手ほど、期待に応えられないときの恐怖が大きく、ドーピングに行ってしまうのは、そこにあるといえる。

さて、本題に戻ろう。2008年北京五輪は、中国人選手にとっては、祖国の建国以来最大のスポーツイベント。プレッシャーという意味で言えば、これ以上のプレッシャーのかかる大会はないだろう。選手たちにとってみれば、神にすがりたい思いで、大会に臨むことになる。そんな中で、彼らが薬物の誘惑に打ち勝つことが出来るか・・これは、道徳的な問題を超えた、非常に大きな難問だと思う。

いや、間違いなく不正な薬物使用は許されない。だが、この「不正薬物」という概念も、正と不正が紙一重というのが実際のところである。また、次から次に開発される薬物が、薬物検査の先を行くというのが現状であり、検査側と選手側がいたちごっこを続けている・・・つまり薬品開発の先進国が「使ったもの勝ち」となってしまうなど、多くの問題がある。

もう一度いうが、不正な薬物使用は、公平な競技、選手たちの健康、いずれの面から見ても絶対に許されない。だが、それをいかに抑制するか・・という問題は、そう一筋縄ではいかない難問である。残念ながら、あと1年半後に迫った北京五輪で、完全に解決できる問題とはとても思えない。

posted by 朝倉浩之 |14:09 | スポーツコラム | トラックバック(0)
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