2006年12月23日
さて、七回目となった筋力再考シリーズですが、今回は人の動きに伴う筋活動の特徴と、トレーニングに必要な要素を考え直してみたいと思います。
最初に述べたように、人は1Gという重力の元で活動しています。そして、多くは(全てではありませんが)、足を地面等に接触した状態から動き出します。
また、筋肉の活動は必ずしもその長さを縮めていく活動だけではなく、むしろ自重を受けて、重心の位置を上下左右前後にコントロールするために、伸びながら筋収縮の程度を調節して関節の動きをコントロールする役割が多いと思います。
また、これも前述しましたが、動作中最大筋力を常に発揮しているわけではありません。むしろ素早い収縮による筋パワーが必要になる場合も多いと思います。繰り返しの動作になると筋持久力の要素も必要となります。
それに、感覚の信号を受けて、力の発揮具合を調節しています。これに関しては、分かりやすい例を言うと、皆さん正座などを長時間していて足がしびれた経験を持っていると思います。ひどい時には足裏の感覚が無くなり、急に立とうとすると力が入らず転びそうになったことがある方も少なからずいると思います。我々はこのような感覚信号を筋収縮の調節に使っているのです。もちろん、皮膚感覚だけではなく、視覚情報や三半規管による体の平衡感覚の情報、筋肉や腱・関節包などに位置している感覚センサーによる情報なども、筋の収縮調節に関与してきます。
さらに、動作中には筋力以外の様々な力(床反力・慣性力など)が体に加わります。また、動作環境による心理的な要素も無視できません。
例えば、直立姿勢を取る時、両足の幅だけの面さえあれば重心をその面内に落とし、立位を保持できます。しかし、その面だけをステージ状に突出させて、その上に立ったとしましょう。想像しただけで分かると思いますが、落ちるのではないかという恐怖心が働き、広い床面で立った時よりもかえってバランスを取りづらくなるでしょう。ステージという環境の変化、恐怖心という心理的な変化が、姿勢制御に影響を与えるわけです。
まとめてみると以下のようになります。
少なくとも、筋肉を使う練習は単純な筋トレだけでは成り立たないということです。
※ここで言うところの、良好な支持性とは、安定して適切な姿勢で体重を支持している状態を指します。
最後に示したように、筋力はあくまで必要条件であり、それさえあればOKと言うものでは、少なくとも運動・動作においては、ないということがお分かり頂けましたでしょうか。長々とくどめに書いてきましたが、これで筋力再考シリーズとしては、一旦終了とさせてもらいます。次回からはより具体的な動きに焦点を当てて、皆様と一緒に考えていきたいと思います。
posted by 朝野裕一 |12:44 |
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2006年12月18日
先日16日付で書いた「筋力を再考します~その六~」に厳密に言うと誤りの記述がありました。特にご指摘は頂いておりませんが、その前にお詫びをかねて修正版を書きましたので、ご了承下さい。修正部分は以下の所です
「等張性収縮(isotonic contraction)→筋の長さが変化する/関節を動かす
これにはさらに二種類の収縮様式がある
・求心性収縮(concentric contraction)→筋の長さが短くなりながら収縮する;手に錘を持って肘を曲げていく時の上腕二頭筋(力こぶのできる筋肉)
・遠心性収縮・・・・・」(「筋力を再考します~その六~12/16)
まず、生理学的な定義によれば、等張性収縮は、張力が一定で、筋の長さが変化する状態を示します。しかし、実際の(運動・練習などでの)場面では張力を一定に確保することが困難なため/起こりづらいため(例えば、関節の角度の変化と関節の回転中心との関係で、同じ重さの錘を使用しても関節角度により張力は変化する などの理由で)、便宜上等尺性に対して筋の長さを変化させる収縮形態を『等張性収縮』とよんでいます。
従って、その後の求心性・遠心性の区別は厳密に言えば、等張性の二種類の細分類ではなく、筋の長さが変化する様式の違いで二つに分けられる(別の枠組みの区別)と考えて頂くほうがより正確です。くれぐれも全ての例で、等張性収縮=求心性 or 遠心性と考えられぬようお願いします。
なるべく分かりやすく、しかしなるべく正確に記述したいと思っていますので(これがかえって分かりにくかったりますが)、誤解を招くような表現をしたことをお詫びするとともに、修正致します。今後ともよろしくお願いします。
posted by 朝野裕一 |16:52 |
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2006年12月16日
筋肉の話は尽きません。今後さらに説明をしていく上で、ご存じの方は単なる確認として/ご存じない方は用語とその定義のお勉強と思って読んで下さい。従って今日は少し細かい話から・・・
まず、筋の収縮にはいくつかの様式があります。
- 等尺性収縮(isometric contraction)→筋の長さが変化しない/関節を動かさない
- 等張性収縮(isotonic contraction)→筋の長さが変化する/関節を動かす
これにはさらに二種類の収縮様式がある
・求心性収縮(concentric contraction)→筋の長さが短くなりながら収縮する;手に錘を持って肘を曲げていく時の上腕二頭筋(力こぶのできる筋肉)
・遠心性収縮(eccentric contraction)→筋の長さが伸びながら収縮する;先程の状態から(手に錘を持って)徐々に肘を伸ばしていく時の上腕二頭筋
- 等速性(等運動性)収縮(isokinetic contraction)→関節の動きが等速度で動く時;通常は速度設定可能な機器で測定する時の動き
さらに特殊な様式として、
- Econcentric contraction→筋の長さが変化しない/関節は動いている;肘を曲げながら後ろに引く動作の時の上腕二頭筋;これは二関節筋に当てはまる収縮様式/上腕二等筋は肘関節と肩関節(正確に言うと肩甲上腕関節)の二つにまたがる長頭腱を有しているので、二関節筋と言います
また、収縮様式とは別に収縮する時の条件により以下のような分類もあります
- Open kinetic chain(OKC) exercise→荷重しない(体重をかけていない)状態での運動/全体がフリーに動かせる
- Closed kinetic chain(CKC) exercise→荷重下(体重をかけた)状態での運動/荷重のかかっている部分(例えば立っている時の足)は動かさずその他の部位は動かせる状態
さらに、
- Semi-closed kinetic chain exercise→体重はかかっているが全体として動かすことが可能な状態;自転車こぎなど
また筋力の程度にや目的によって以下の関節運動形態があります
- 自動運動(active movement)→筋の収縮のみによる運動
これはさらに、
・抵抗運動(resistive movement)→抵抗を加えながら運動する
と、重力以外は抵抗を加えない運動に分けられます。
- 自動介助運動(active assistive movement)→自動運動に介助(補助)を加えた運動
- 他動運動(passive movement)→他者の力を完全に借りての運動
さて、これらの用語を理解した上で、次回は筋力を発揮する運動(いわゆる筋力訓練)と動作の関係を述べてみたいと思います。
posted by 朝野裕一 |13:50 |
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2006年12月12日
ノロウィルスはまだ猛威をふるっているようです。要注意です!!。
さて、筋パワー=筋力×筋収縮速度の式までお話ししました。
よくスポーツ中継などを聞いていると、「あの選手はパワーとスピードを兼ね備えていますねぇ」といったコメントがしばしば聞かれますが、聞くたびにどうしても引っかかってしまいます。なぜならば上の式でも明らかなように、パワーの中にスピードの要素が組み込まれているからです。それを別々の要素のように言うことにはどうしても抵抗があります。コメントする人の気持ちも察することはできます。要は、スピードとパワー→ここに力の要素を移入して言っているのだろうなぁと。しかし、力学的に厳密に言うと、
パワー=力×速度なわけです。さらに、この式を解析すると、
v(速度)=x((移動)距離)÷時間(t)
となり、
パワー=力×距離÷時間
となります。力×距離=仕事となるので、
パワー=仕事率(単位時間当たりの仕事量)となるわけです。解りづらかったでしょうか?高校時代の物理を思い出してみて下さい。
つまり、パワーとは1秒間にどのくらいの仕事ができるかを示しています。
人の動作に還元してみると、この仕事というのがまさしく動作(歩行などを含む)を示していると考えて良いでしょう。
ここまで言うと、パワーをアップさせる意義というものが見えてきます。そこで、『筋力』です。動作を行うエンジンが筋力にあると仮定すると、筋パワーを上げることが必要になってきます。筋パワーを上げるためには、筋力を上げるか、筋の収縮速度を上げるか、その両方とも上げるか、です。そのために筋力アップが有効とされているのではないか、というのが結論です。
この回まで、筋力を完全否定するような論を展開していくイメージを持った方がいるかもしれませんが、そうではありません。筋力があまりにも一人歩きしてそれさえつければ的、単純思考に反対しているのです。
※厳密に言うと筋の収縮速度を直接測定することは難しいので、
例えば、脚の伸展の力(strength)と速度(speed)を測って脚伸展パワー(Power)とします。
パワーを増加させる1つの手段として、力の要素をアップさせる方法があるのです。ですから、軽い負荷(最大筋力の30%くらい)でも素早く動かすトレーニングをすれば、パワーはアップします。
また、最大の筋パワーは、最大筋力の30%で得られるという報告がされています(筋の速度ー力曲線から算出)。
ですから、筋肥大を起こすような負荷ではなくても(軽い負荷でも)パワーアップは図れることになります。
今回のパワーのことと、今までの神経刺激の増加による筋力発生アップ、さらに今後述べることになる、他の力(重力、床反力、慣性力など)の関与、全てが人の動作の量と質を決めているので、筋力オンリーの考えは成り立たないというのが筆者の観点です。ふぅ~また長くなっちゃいましたが言いたいことが伝わっているでしょうか?ご意見あればお待ちしております。ではまた次回にお会いしましょう!
posted by 朝野裕一 |12:57 |
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2006年12月10日
いよいよ本格的な冬、病院関係者は特に最近ノロウィルスが流行っているようなので要注意ですね。
今回は『筋のパワー』のお話しの予定ですが、その前にいくつか補足を最初にしておきます。
筋力を増大させるためには、一定の負荷をかける必要があり、その際に筋線維が微細に損傷されその修復作用が筋の肥大を引き起こすとされています。これが、『過負荷の法則』 といわれているものです。そして、筋肥大を起こすような負荷はどれくらいかというと、
最大随意筋力の40~70%とされています。30%では現状維持、20%以下では萎縮していくとされ、70%以上では40~70%の時の効果と変わらないとされています。
また、筋肥大までの期間は頻度やトレーニング様式、負荷量などによって異なりますが、おおざっぱに言うと毎日トレーニングして4週間はかかるとされています。
しかし、筋力測定すると分かりますが、筋力値自体は4週前からアップします。これはなぜかというと、以前お話しした『神経ー筋単位の増加』すなわち神経の電気刺激量の増加によるものなのです。
さらに、以前申したように筋には瞬発力だけではなく、持久力の要素があり、また後に述べるかも知れませんが、筋肉が収縮する様式にもいくつか種類があります。それに伴いトレーニング様式も異なってきます。
したがって、単に『筋トレ』といっても最大筋力の増加をはかるのか、持久力を高めたいのか、筋肥大を伴う事を目的とするのか、そしてこれから述べる、筋収縮のスピードや動作のスピードを高めたいのか、目的を明確にして取り組まなければならないわけです。
我々が病院でみる患者さんは、歩行能力が低下しているケースが一定数あり、結果としての下肢などの筋萎縮を伴っていることが多いです。そのような患者さんに、「筋トレをして歩けるようになりましょう」、みたいなことをよく言いますが、ここで言う『筋トレ』は必ずしも『過負荷の法則』に則ったトレーニングを指しません。どんな形であれ、筋肉を収縮させる事を前提とし、負荷量は必ずしも問いません。筋肉に行く神経刺激を増やすことが目的です。 これを私共(私の病院の理学療法士)は、筋の賦活トレーニングと定義しています。ですから重錘を使わず足の重み自体を負荷にしたり、体重を利用したトレーニングをしたり、場合によっては水中の浮力の助けを利用したり、と様々です。
補足が大分長くなってしまい、本題の筋パワーまで言及できませんでした。これは次回に回します。ただ、1つだけ示しておきます。
筋のパワー(power)=筋力(strength)×筋収縮速度(speed)
先ずはこの式だけ覚えておいて下さい。筋力アップだけが、動作の改善を起こす唯一の要素ではない理由が、この式に含まれています。
それでは皆様、時節柄風邪などひきませぬように!!
posted by 朝野裕一 |18:22 |
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2006年12月05日
旭川は完全に真冬です。今日も雪が降っています。これから約5ヶ月近くは、さぶ~い冬の季節です。年を取るに従い、長い冬は嫌になってくるものだなぁと実感しています。
さて、前回最大随意筋力の話をしました。100%の力を出し切れるわけではないと言う話でした。ここまでの話をまとめると、
- 筋力は神経の電気刺激によって発生する力である
- 筋力の大きさと筋の太さは相関するが、それは筋収縮を繰り返すことによる結果である
- 人の動きには筋力以外にも様々な力が作用している
すなわち、筋力を上げたからといって即、動きが速くなったり、巧くなったりするわけでは無さそうだなと、ご理解頂けるでしょうか。
そこで今日付け加えることは、人の動きに要する筋肉の力は必ずしも100%の力を必要とはしない、ということです。
歩くことを考えてみましょう。常にエンジン全開にしなければ歩けないとしたら、すぐにエンストしてしまうでしょう。筋肉の種類によっても異なりますが、下肢の筋では最大随意筋力(健常な時を基準として平均すると)の20-40%ぐらいの力までです。例外としてふくらはぎの筋肉(腓腹筋とヒラメ筋)は80%くらい必要といわれています。
ですから、最大筋力が低下するとそれだけ目一杯の力を歩くときだけでも必要とすることは事実です。すなわち、
容量としての筋力は必要ということになります。
しかしこれもあくまで必要な時期(タイミング)に必要な力を発生させることが条件になります。そのためには、重力の影響や、運動の速さや、環境の変化等々に対応する神経系の活動が必須になります。
筋力を上げれば→運動がしやすくなる とはならないわけです
最近特に強く感じることは、運動や身体のことについての世間の興味が明らかに増えているな、ということです。テレビや雑誌、本などもその手の特集ものが非常に目立ちますーこれは決して私の職業が理学療法士だから感じるというわけではないと思います。当然スポーツ関連の記事も多いのですが、共通して言われているのは、『筋力だけではスポーツのパフォーマンス能力は上がらない』ということです。これは何もスポーツ動作に限ったことではありません。
また読みにくくなってしまったかも知れません。分かり切った話はもういいよ!という方がいたらご連絡下さい。参考にさせていただきます。
次回は、『筋のパワー』ということから、筋力を再考してみましょう。
付記:このシリーズのタイトル『筋力を再考します』は少しおとなしすぎたかな?いっそ、『筋力至上主義を討つ』とか、『筋力原理主義との戦い』とかの方が食いつきが良いですかね?
posted by 朝野裕一 |09:21 |
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