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コラム「進化する、世界最強。プロ車いすテニス選手 国枝慎吾」 Text 宮崎恵理

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■9歳で車いす生活、11歳から車いすテニス

 世界屈指のバックハンドを持つ男。  テニスのグランドスラム大会車いす部門やパラリンピックの車いすテニスで数々のタイトルを手にしている国枝慎吾の武器の一つに、バックハンドのトップスピンがある。車いすを操りながらバックハンドでトップスピンをかけることは難しい。その定説を国枝がうち破った。誰よりも速いチェアワークでボールのポジションに移動し、車いすとカラダの反動をエネルギーに変えてウィナーを放つ。まもなく開幕するウィンブルドン、そして全米オープン。グランドスラムの勝ち星を、また一つ積み上げていく。

 9歳の時、脊髄腫瘍を患い、車いす生活になった。11歳のとき、テニスに親しんでいた母の勧めで車いすテニスを始める。当時は車いすバスケのほうが楽しかった、と振り返るが、ジュニアの大会などで勝利を収めるようになると、テニスに熱中していった。  20歳で初出場したアテネ・パラリンピックのダブルスで金メダルを獲得。誰もが4年後のシングルスに期待を寄せる。が、国枝はアテネ大会でテニスをやめようと思っていた。 「ツアーを転戦すると、年間200万円以上の経費がかかる。それを全て親に出してもらっていました。この先4年間、同じことを続けられない」  しかし、帰国後わずか4日でコーチの丸山弘道氏に電話をかけた。 「やっぱりテニスがやりたい…」  丸山氏があえて、問うた。 「やりたいとは、どういう意味だ?」 「ナンバーワンに、なりたいんです」

■ナンバーワンからの逆算

 その日からナンバーワンへの道がスタートした。フォアハンドをフラットドライブに変え、スライス一辺倒だったバックハンドにトップスピンを加える。 「1つのテクニックを習得するための球数は3万球以上と言われています。北京直前になってマスターできても意味がない。1年前には完璧に身に付いているように、逆算して1日に打つべき球数を計算してトレーニングしてきました」(丸山)

 一方で、テニス専門のメンタルトレーナーの指導を受けたことも、国枝を押し上げた。いちばん自分を鼓舞できるキーワードを、鏡の自分に向かって叫ぶ。 「オレは最強だ! オレは最強だ! オレは最強だ!」  ラケットのブリッジには、いつもテープに手書きした「オレは最強だ!」の文字が躍る。ゲーム中、苦しい場面でこの文字を見つめると、落ち着きを取り戻す。自信が甦る。

 そうして06年10月、初めて世界ランキング1位となる。チャンピオンとして挑んだ北京パラのシングルス。決勝戦の第1セット、この大会で初めて3ゲームを取られていた国枝は、バックハンドのダウンザラインを決めて、第1セットをものにした。相手の戦い方を分析し、狙い定めた渾身の一打。第2セットは1ゲームも落とさず、勝利をつかんだのだった。

 北京パラ以降、09年にはプロ車いすテニスプレーヤーに転向。一般のテニスと同じグランドスラムを制覇してチャンピオンの座に君臨していることは、周知の事実だ。12年のロンドン・パラで2連覇を達成。14年、韓国・仁川のアジアパラでも優勝し、早々とリオデジャネイロ大会の出場権を獲得した。

■2016年5月、東京で車いすテニスの国別選手権開催

 長きに渡って世界ランキング1位の座を守っている国枝が、一度だけ5位まで転落した時期がある。ロンドン・パラ前の2月、痛みと戦っていた右ひじの手術を受けた。 「手術をしない治療法を続けてきたのですが、限界でした」

 手術後は、じっくりとリハビリに時間を費やした。復帰戦となったジャパンオープン、続く全仏オープンでは、後にロンドン・パラの決勝で対戦するフランスのステファン・ウデに敗北を喫している。 「あせりの気持ちはなかったです。それよりも、痛みなく戦えることで、その後の練習にも集中できましたし。むしろ、苦しかったのは、前年、全米オープンの時。痛みがひどく、もう治らないのではないか、と思った。水を飲むコップを持っても、ドアノブを回しても痛い」  故障からの復帰、そしてロンドン・パラでウデを倒しての金メダル。国枝慎吾、ここにあり、と改めて世界は思い知ったはずだ。

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