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コラム「1年で数年分の経験をした羽生結弦」text 折山淑美

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折山淑美=文

■予想外のアクシデントでスタート

 シーズン最後の大会となった4月の世界フギュアスケート国別対抗を終えた羽生結弦。波瀾に見舞われた今季を、彼は「経験のシーズンだった」と総括した。それは彼自身が「限られたスケーターしか体験できないこと」と表現するように、数年分の経験が濃密に詰め込まれたような、長過ぎるほどのシーズンだった。



 五輪王者としてさらなる進化を決意し、フリーでは2種類3回の4回転ジャンプを入れるだけでなく、SPでも4回転トーループを得点が高くなる後半に入れる難度の高い構成に挑んだ羽生。彼が最初に遭遇したのは、中国杯のフリーの6分間練習での激突という、予想外のアクシデントだった。  挫傷や打撲など5カ所の負傷を負いながらも「アメリカチームのドクターが脳震盪の症状は出ていない、と診断してくれたから」と、出場を強行。不幸中の幸いは、とっさに体をかがめた羽生の側頭部が相手のハン・ヤン(中国)の顎と衝突していたことだった 。最後はジャンプで崩れ落ちるような転倒を繰り返しながらも2位になり、GPファイナル進出の可能性を残したのだ。

■NHK杯4位からGPファイナルでは圧勝で連覇を達成

 だが、治療に専念して練習がほとんどできなかった3週間後のNHK杯は、4位と崩れた。それでも何とか進出できたGPファイナルでは「今シーズンで初めて追い込む練習ができた」と、2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)に20点近い差をつける圧勝劇を演じて連覇を果たし、続く全日本選手権でも他選手を寄せつけることなく圧勝して3連覇を達成。中国杯のアクシデントの悪夢も、完全に吹き払ったかに見えた。  だが 「今日は疲労感が強かった」と言うフリーを終えた直後には、GPファイナルのあとから断続的に続いていた腹痛の原因を明らかにするために検査入院。尿膜管遺残症と診断されて手術を受けたのだ。  数年分の苦難が、一気に襲いかかったような状況。その後は1ヶ月間リンクから遠ざかり、練習を再開した途端に足首の捻挫で2週間休養して本格的な練習を始めたのは3月に入ってからという状態で臨んだ下旬の世界選手権では、SP1位で発進しながらもフリーで崩れてフェルナンデスに逆転を許す結果に終わった。  結局今季は、本拠地にしているカナダへ戻ることができず、国内に止まらざるを得ない状況になり、ブライアン・オーサーコーチの指導を受けられず、一人で練習するのがほとんどだったのだ。

■「みなさんが思っている以上に“自分のせい”だった」

 だが それでも羽生は、それも貴重な経験だったと振り返る。 「ひとりで練習をする環境は厳しかったが、その中でもこまめにコミュニケーションをとることでGPファイナルでいい演技ができたことは自信になりました。とにかく今シーズンはずっとケガだらけだったけど、中国杯の前に捻挫していたことも含め、自己管理や体調管理、練習計画を綿密に立てて『今何が必要で、何をすべきなのか』というのをひとつひとつ考えるキッカケになったと思う」  こう話す羽生は「五輪で優勝してからのモチベーションの高め方だけでなく、中国杯のあとの6分間練習の恐怖感への対処法や、リハビリをしながら自分をどう整えていくかなど、豊富な経験をさせてもらった」とも言う。 中国杯のアクシデントさえ、「あれはハッキリ言って自分の注意不足。みなさんが思っているよりも、自分のせいだと考えている」とまで言う羽生。出場を強行したことに関しても「あそこでフリーの演技をして、あの順位があったからこそ、僕はファイナルへ行きたいんだと思えた。もしあれで順位が悪かったら、多分僕は何もできないままでアクシデントを引きずってシーズンを終わっていたと思う」と振り返った。

■五輪王者としてさらなる進化の追求を目指す羽生

 予想外の苦境の中で彼を支えたもの。それは彼の負けん気の強さや闘争心、そして常にプラス指向でいられる精神力の強さだった。羽生は「こういう性格に生んでくれた父と母のおかげ」と言って笑みを浮かべた。「こういう性格だからこそ、ああいうアクシデントから這い上がってこられたと思うし、勝利への意欲を強く持ち続けられた」と。  そんな羽生が苦難のシーズンで強烈にみせてくれたのは、アスリートとして戦い続けようとする姿だった。そして来シーズンも「今季は中途半端に終わった難度の高いプログラムに再び挑戦したい」と、意識の高さをみせている。  ソチ五輪王者として挑みながらも苦しんだ今シーズンの経験は、さらなる進化の追求が五輪王者としての勤めでもあるという信念を持つ彼にとっては、大きな糧になるものだ。

<著者紹介> 折山淑美(おりやまとしみ) 1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。

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