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コラム「若手主体の男子バレー。わずかな光明は19歳のオールラウンダー、石川祐希」text 田中夕子

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田中夕子=文

■ワールドカップは五輪出場権を懸けたガチンコ勝負

 男女バレーボールの日本代表候補選手が4月に発表された。男子は30名、女子は26名。この中から大会ごとに定められた人数のエントリー選手が登録される。

今シーズン、バレーボール界において最も重きを置かれているのは8、9月に開催されるワールドカップ。バレーボールの国際大会においては、テレビ局の煽りを受けて「世界一を決める」大会が毎年開催されるため、「オリンピック以外はどれも同じ」と捉える人も少なくないが、オリンピックを除いた国際大会の中で最も重要視されるのがワールドカップだ。



 なぜなら、ワールドカップの上位2チームにはオリンピックの出場権が与えられるから。まさに各国の選手が目の色を変えて臨む大会、と言っても過言ではない。

 そのワールドカップに出場する権利を得たのが4月に発表された候補選手たちというわけだが、女子代表と比べて世界との差が開きつつある男子代表は、オリンピック前年のワールドカップを「チャレンジの年」と位置づけ、若手主体のメンバーに切り替えられた。

 似た例としては、女子代表が2000年シドニーオリンピックを逃し、02年世界選手権でも13位と惨敗した翌年の03年ワールドカップで、柳本晶一・前監督が当時19歳の「メグカナ」こと、大山加奈、栗原恵を代表の中心に据えたことはある。

 このときは、抜群のスター性を備えた若い2人に注目が集まっただけでなく、6位から5位へと順位を1つ上げたことで、結果的に翌年のアテネオリンピック出場へ向けて周囲の期待が高まる要素にもなった。だが、同様の作用が男子代表にも起こるかというと、やや疑問が残る。

若手主体で、長身選手を主軸に――。

 世界との戦いを見据えるなら、この方針は間違っていない。しかしこのメンバーで目指すのは5年後の東京オリンピックではなく、来年開催されるリオデジャネイロオリンピックだ。ベテランと位置づけられる、ある選手がこう言った。

「ここ(代表)に集まっている中に、もしも『リオは行かれなくても東京があるから』と思っているような選手がいたら、絶対リオには行けない。これで負けたら東京にも出られないというぐらいの危機感を、1人1人じゃなくチームで共有しないと」

■“若手主体”が直面する課題

 世界にはもはや平均身長が2mを超えるチームも少なくない。そのうえ、かつては技術が劣るとされていた大型選手たちが、今ではパスやトスなどをごく当たり前にこなす中、むしろ、技術に問題があるのは日本だ。イラン代表チームをアジアの強豪の一つから世界の強豪へと引き上げ、現在はアルゼンチン代表の指揮を執るフリオ・ベラスコ氏はこう言った。

「日本の選手は、小さいけれど非常に技術が長けているという印象があった。しかし今は、彼らよりも大きな選手たちのほうが細かな技術に長けていて、日本選手の技術は確実に劣っている。なぜこのような事態になったのか、不思議でならない」

 何とも耳の痛い言葉だ。

 高身長の選手に対しては中学や高校では守備を免除し、ただ攻撃するだけでいい、という指導方針を持つ指導者も残念ながら少数ではない。将来を見据えるならば、育成年代のうちに苦手な守備にもトライさせることで基本を身につけさせるのが本筋なのだが、高校や中学、各カテゴリーで日本一になることを優先すれば、苦手なことに挑戦させるよりも長所を伸ばしたほうが確実だ。

 男子の場合はその考えが足かせとなり、女子の木村沙織や、古賀紗理奈のように、大型選手でありながらレシーブも攻撃もできる、といったオールラウンダーの選手が圧倒的に少ないという現状がある。

■海外挑戦で芽生えた「エース候補」石川祐希の意識の変化

 そんな中で、わずかな光明と言えるのが大学2年生の石川祐希(中央大学)の存在だ。

 191センチの石川は、愛知・星城高校時代にはエースとして春高、インターハイなどタイトルを総なめにし、2年生で6冠を達成した立役者。大学1年だった昨年はアジア大会にも選出され、抜群の勝負強さを発揮して銀メダル獲得に貢献した。

 昨年12月から今年3月まではイタリアセリエAの強豪、モデナでプレー。高い位置でボールをとらえるだけでなく、肩関節の柔らかさを生かし、さまざまなコースに打ち分ける技術があるため攻撃力が注目されることが多いが、南部正司・全日本男子監督が期待するのは「守備力」だという。

「これまで同じポジションに入って来た選手たちと比べても、レシーブ力が高く、特にサーブレシーブが崩れない。これは大きな武器です」

 どちらかといえば控えめな性格の石川だが、イタリアでは世界トップレベルの選手たちのサーブやスパイクを実際に受け、帰国後は「もっと自分が引っ張りたいし、引っ張れるプレーがしたい」と意識の変化を口にする。

 石川がイタリアでプレーしたことは同世代の選手に刺激を与えることにもなり、今までは少なかった「海外志向」を持つ選手も増えてきた。目標も「大学で日本一になりたい」「代表に入りたい」から「イタリアでプレーして代表の中心選手として活躍したい」へと変化した。

 若い選手を即戦力として育てるための育成年代の環境づくりは長年の課題ではあるが、石川のように、高校時代から自身で考えながらプレーする能力を持った選手が多く出てくればそれだけ日本の強化にもつながるはずだ。

■目先の人気よりも真の強化を!

 今シーズンの国際大会は5月のワールドリーグからスタートする。世界の強豪を相手に、若手選手がどれだけ通用するのか。チャレンジの年、と銘打ってはいるものの、厳しい結果と直面しながらもどれだけ高いモチベーションを持ち続けることができるのか。

 繰り返すようだが、目指すのは東京ではなくリオ。石川を含む若手4選手を「NEXT4」と命名し、人気回復の切り札にするらしいが、それよりも先に着手すべき課題は、山のようにあることを、忘れてはならない。

<著者紹介> 田中夕子(たなかゆうこ)’ 神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など、女子アスリートの著書では構成を担当。

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